《世界は決して萬物の雜然たる寄せ集めではなく、あらゆるものが渾然（こんぜん）として統一され、又綿々として絕えず何ものからか生じて居る。そのあらゆる物の本體（ほんたい）を指して「道」といふ》（安岡正篤『老莊思想』（福村書店）、p. 40）

　正直、「迷路」に迷い込んでしまった感が否（いな）めない。考えれば考えるほど、深みに嵌（はま）り込んでいくかのようだ。

　安岡氏は＜あらゆる物の本体＞を「道」だと言っている。が、そもそも「道」は、これが「道」だと言葉で言い表せないところに存在するものなのではないか。

　『荘子』も次のように言っている。

夫（そ）れ道は末だ始めより封（ほう）有らず。言は末だ始めより常有らず。是れが為にして畛（しん）有るなり。請う、其の畛を言わん。左有り右有り、諭有り議有り、分有り弁有り、競有り争有り、此れを之（これ）八徳と謂（い）う。六合の外は、聖人存（そん）して論ぜず。六合の内は、聖人論じて議せず。春秋は世を経（おさ）むる、先王の志（し）なり、聖人議して弁ぜず。

（およそ、道というものは、最初から限界のないもの、限定できないものである。ところが、これをいい表わすことばというものは、対立差別のあいだを往来して、絶えずゆれ動くものである。このために、ことばによって表現されるものには、限界があり、対立差別があることになる。

　それでは、その対立差別の例をあげてみよう。左に対しては右があり、論に対しては議があり、分に対しては弁があり、競に対しては争がある。この８つの区別は、人間の性質にそなわったはたらき――いわば本能的なものである。

　このようにことばというものは、ものの真相をとらえることができない。だから宇宙の外のことについては、聖人はこれをそのままそっとしておくだけで、これについて論じようとはしない。また宇宙の内のことについては、聖人はいちおうは論ずるものの、深く立ち入って議しようとはしない。『春秋』は世を治めるための書であり、先王が記録したものであるが、聖人はその内容について議するものの、是非善悪の判定をしようとはしない）――「荘子」：『世界の名著４老子荘子』（中央公論社）森三樹三郎訳、p. 189

故に分かつ者は、分かたざる有り。弁ずる者は、弁ぜざる有り。日わく、何ぞや。聖人は之を懐き、衆人は之を弁じて以て相示（あいしめ）すなり。故に日わく、「弁ずる者は見さざる有り」と。

（道をむりに分析しようとするものは、必ず分析し尽くすことのできない部分を残すものである。むりに弁別しようとするものは、弁別し尽くすことのできない部分を残すものである。それは、どのような場合をさしていうのであるか。聖人は道をそのまま自分の身にいだこうとするのに対して、俗人は道を分析して論ずることにより、これを他人に誇示しようとするものである。だから、私はいおう。「いかに細かく分析して論じようとも、他人に真理をあますところなく示すことは不可能である」と）―― 同

松下幸之助『道をひらく』を読む（７）道（その７）