子供の頃から30年以上行っていたラーメン屋が閉店していた。

 

私が生まれて初めて食べたラーメン屋が近所の「一八(いっぱち)ラーメン」であり、ラーメンと言えばこの「一八ラーメン」だった。

 

麺はやわめ、スープは今流行りの濃厚ではないがうっすらオレンジ色の油が浮き、コクと味があった。

具は適度に脂身のあるチャーシュー、もやし、ネギ、メンマ。デフォルトで胡椒。

チャーハンはミックスベジタブルを使用して塩コショウの優しい味付け。これがラーメンのスープとぴったりだった。

 

幼稚園の頃か、小学校低学年の頃か、ときどき家族四人で行き、熱い麺がすすれない自分は小さな取り皿をもらい、フーフーと麺を冷まして食べたのを覚えている。

体調が悪い時、母に「食べたいものは?」と聞かれ、一八ラーメンと答えると鍋でラーメンを買ってきてもらったこともある。

 

店はご夫婦で経営されていた。

この店が面白かったのは、小学生以下は冷凍庫から好きなアイス(当時30円くらいの)がもらえた事だ。

「広告宣伝はしたことがない。子供はアイスがもらえることで口コミでお客さんが増えて家族で訪れた」

とご主人は言っていた。これはうまい戦略だったと思う。

お昼時は短い行列もできるほどだったが、テレビの取材も「常連さんが食べられなくなるから断った」と言っていたのも覚えている。

 

数年前に酒飲みのご主人が亡くなり、しばらくは奥さんが頑張っていた。

その後、一度閉店の話が出た時、常連のお客さんが経営を引き継ぎ、調理人を雇って運営していたが同じ味は出せていなかった。

いつしかシャッターが閉まったままになり、そして今日、うどん屋に変わっていた。

 

あのラーメンを味わうことも、家族そろって食事をする事も、今はもう叶わない願い。

何気ない食事の記憶が、今では大切な心の宝物だ。