蒸れないブログ -109ページ目

先行掲載版 月猫@HOME 第四話 「猫耳登校!」 下


少年の投じた一石はあまりに大きく、波紋は膨らむ。
学内の掲示板へのアクセス数はサーバーダウンしそうなほど伸びに伸び。それが更に、人から人へ、口伝で爆発的に広まっていく!

「おい!マジかわいくね!?この子!」
「今、うちの学校にいんの!?」
「お近づきになりてー!」
「売りだし前のアイドルとか!?」
「ちょっと、男子、五月蠅いわよ!あら・・・かわいい」
「なんか、向こうの西棟当たりで見たってよ!」
「掲示板のほうでは、体育館の屋根の上って書いてっけど!?」
「一足先に俺いってくるわ!皆様、お先に!」
「日直逃げ出してんじゃないわよ!」
「なになに、やっべ!尊ちゃんレベルじゃねぇ!?」
「尊ちゃんの方が可愛い!」
「信者乙!」
「FAN倶楽部どこぉ?」
「俺が助けてきます。」
「まて、俺が!」
「いやいや、俺が!」
「じゃあ、俺が行くよ!」
「「「「どうぞどうぞ!」」」」
「そうは何ねぇだロ!?」
「四組の松本が話しかけたって!?」
「おのれ松本!うらやましい!」
「俺もそう思って松本の自転車に穴あけといた!」
「「「GJ」」」
「て、言ってるうちに、内田が走っていったぞ!」
「昼休み終わりまで、あと、四十分しかねぇぞ!」
「いくしかねぇって!」
「昼飯どうすんよ!?」
「授業中に食えんだロ!?」
「食えねぇよ!次の授業、諸岡だぞ!?」
「放課後にでも食っとけ!」
「あのぉ、それって昼ご飯じゃないと思うんですけど・・・」
「吉野ちゃん、的確な突っ込みありがとう。」
「あ、真面目で優等生が売りな大山が廊下走ってんぞ!」
「よっぽど、ストライクゾーンだったんだなぁ・・・」
「僕は、猫耳メイドでしか萌えないんDAッ!」
「「「そうだったんすかッ!!??」」」
「なんで、恥ずかしい事告白しちゃったの・・・?」
「て、いうか、さっきから吉野ちゃん会話に入ってくるけど、興味あんの?」
「私、百合なの・・・、一目惚れしちゃった・・・」
「「「「「「そうだったんすかッ!!??∑(((((゚д゚;ノ)ノ(男女一同)」」」」」」
「私、いくわ」
「て、はやッッ!!」
「吉野って、ああ見えて元陸上の世界大会強化選手だからな」
「え、マジッ!?」
「知らなかった!」
「ヤバいッ!俺達も行くぞ!このままじゃ、吉野にあの子の貞操を取られかねン!!」
「おしゃああああああああ!!」
「あ、ちょっと男子、待ちなさい!待ちなさいってば!私も行く!」
「佐代子・・・もしかして、あんたまで・・・・」
「ち、違うわよ!だって、楽しそうじゃない?」
「ああ~、そっかぁ、佐代子、大山君のこと好きだもんねぇ。心配なんだぁ」
「ななななな、なんで、そこで、大山君でてくるのよッ!」
「べっつに~、あんたも、猫耳メイドでご奉仕すればいいじゃない?お・お・や・ま・く・ん・に☆!」
「まちなさぁぁぁい!男子ぃ!!!」
「あ、逃げたぁ!」
「私達も行ってみる?」
「友達の恋路の行方くらい確認しとかなきゃねぇ☆」


◆ ◆ ◆


「なんか、外騒がしくねぇか?」
と、正樹が廊下の方を向こうとすると、顔を、そっと両手で挟まれた。
「正樹、動いちゃダメ」
と、こちらの方を向かせる、尊は不満そうに少し頬を膨らませていた。
別に、正樹としては目を逸らしたのは外が騒がしかったからだけではなかった。
なんとなく、気恥ずかしかったのだ。
上半身が裸にされていると言うのもそうだが・・・・。
尊が、真剣な目でこちらをじっと見ている。
体の隅から隅まで、息使いの一つ一つまで、目を合わせた瞬間、心の奥底まで覗かれているようだった。
そしてそれが、妙にこそばゆい。
カーテンを閉めた美術室はほんのり薄暗い。
でも、その薄い光の暗幕だって、何の役にも立たず、見通されているような気がする。
「正樹・・・」
と、この美術室でデッサンを初めて、尊が自分から口を開いた。
「ん?」
「正樹恥ずかしい・・・?」
「そりゃ・・・、ん、まぁ、恥ずかしいけど」
「これ・・・・私も結構恥ずかしいの・・・・」
尊が、筆を止める。
今まであった、尊が筆をキャンパスの上に滑らせる音・・・それが消えただけで、この空間はまったくの無音の様になったかのようだった。

それが改めて悟らせる。



ここには、尊と正樹しかいない。
二人きり。
二人きりで、キャンパス越しとはいえ、見つめあってる。




―鼓動―(ドクンッ)




心臓が高鳴っているのが自分でもよくわかる。
高鳴って・・・どうにかナってしまいそうだ。

「ねぇ、正樹・・・」



尊の唇の動きを追っている。



「こうして、私達・・・二人きりになるって久しぶりかな・・・・」
「そんなことないだろ・・・」
熱い唾がのどを通る。

「そんなことないわ。多分、二か月ぶりくらい。」
「よく、そんな事覚えてるな・・・。そんな事。」


「・・・・ずっと、二人っきりになりたかったんだもの」




―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―鼓動―


胸を打つ早鐘が止まらない。
上気した顔が、この場から逃げ出そうと必死なのに、尊から目をそらせない。
なんで、自分ばっかり―いや・・・違う。
「あ・・・」
尊の顔も俺と同じだった。
同じすぎて、尊を見つめすぎて、尊の瞳に映った自分を見るかのように―自分と錯覚した。



―恋しい―



自覚した瞬間―心臓が止まったと思った。

「けど、なんだって、お前が恥ずかしがるんだよ。上半身裸の僕と違って、お前は描くだけだろ・・・」
少しでも、少しでもこの制御できない高波のような気持ちを抑えようとして、そんな事を言った。
けれど・・・。
「ずっと、見てたのよ。正樹の・・・こと。」
尊は見当違いの事を言った。
だが、それは・・・・。
「今日は・・・、正樹も私を見てる。」



―見つめ・・・逢ってる―



「見て・・・くれてる・・・・・。」

その言葉は、まるで呪いだった。
体が熱い。見るという事を意識するだけでこんなにも、体はセクシャルに反応する。
そこからは、まるで、お互いがお互いを視姦するように、沈黙が流れた。



◆ ◆ ◆




一方その頃、月猫は―。
「どうして、こうなりましたかぁああああ!」


みゃあは、いつの間にか、ほぼ全校生徒の男子(一部女子あり)に追われていた。
校内を逃げまくる、みゃあ!それを追いかける生徒軍!
最高時速100㎞をほこるみゃあが、追いつかれる事などなかなかないが、集団から逃げのびるのには、もはや足の速さだけの問題ではない。


「こんにちわぁ、おれ松本っていうんだけど、学校案内しようかぁ?」
「死ね、松本!死んでしまえ!」
「あの、吉野って言います・・・・お姉さまって呼んでいいですか?」
「やっべ、吉野ちゃん、足早すぎ!てか、受けだったんだ!」
「猫耳萌えええええ!」
「待って、大山君!私も見てぇええ!」
「佐代子ふぁいとぉぉぉ!」
「ぬぉおおおおお!」
「内田ァ!校内で原付走らすんじゃねぇ!あぶねぇだろぉがぁ!」

「ひぃっぃぃぃぃいぃ!!!」

意図不明の言葉の数々に更にみゃあの混乱は混迷していく。


と、その行く手に人影。
「いっがみ~、おれ、いっがみ、金丸~!男の中の男~!ん?みんな、なんで慌てて―」
「そこどいてくださぁぁぁああい!」
みゃあは、金丸を避けきれず、時速100キロメートルでブッ飛ばした!
なんか、ボロ雑巾みたいに、ひしゃげて捻じれながら飛んでゆく、その先。
「「「「伊神邪魔だあああああぁぁぁ!!」」」」
ぐしゃり。






その後も、みゃあは逃げ続ける。
渡り廊下、屋上、部室棟の屋根の上、体育館、道場!
「何、あの子かわいい!」
「すごい身体能力!是非、うちの部活に!」
「マネージャーゲットおぉおお!」
だが、その度に追っかけてくる生徒の数は増えていき・・・・。
遂に・・・・。
みゃあは、偶然にも正樹のクラスで、完全に包囲された。



「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、僕は、松本、お付き合いしませんかぁぁ」
「お姉様ぁ・・・に、逃がしませんわぁ。はぁ、はぁ、はぁ」
「お助け・・・するぜぇ・・・」
「ね・・・こ・・みみぃ・・・」
「まって・ぇ・・大山くん・・・帰ってきてぇ」



追いかけていた生徒も若干限界気味だが―というか、すでに本来の目的を忘れてみゃあを捕獲するためだけの亡者になっている。

みゃあには、それが自分を襲うゾンビに見えて仕方がない(あながち間違いではないが)。


「ひゃっ!!近寄らないでください!そばに来ないでください!私美味しくないです!猫鍋は見て楽しむものであって、食べるものじゃないんですぅ!」
だが、みゃあの言葉に反して、包囲網は徐々に狭まっていく。
「う、う、う・・・」
みゃあは、遂に恐怖も限界に達し―!


「うにゃああああああ!正樹さん!正樹さん!正樹さん!どこですか、どこなんですか!助けてぇえええ!お弁当あります!お茶も持ってきました!正樹さん、どこおおおおお!?」


その場にぺたんと座りこんで、叫びだしてしまった。てか、泣いた。マジ泣きだった。
その叫びに、亡者の群れの進軍が止まる。
ふっと、熱が引くように、皆が冷静になった。


「あ、あの・・・」
と、一人の生徒が弱弱しく手を挙げてみゃあに話しかける。
「うにゃああああ!」
みゃあは、いまだ冷静に戻らず、ぶんぶんと手を振って近寄らせない。
「マサキって、あの『浅茅正樹』?」
「うにゃぁぁ・・・・うへ?」
今まで亡者にしか見えていなかったものから出された、自分の探し物の名に、みゃあが、泣きやんで、驚く。
「そうです。その正樹さんは、その浅茅正樹さんです。」
瞬間、あたりから長いため息が一斉に漏れ出た。


―また、あいつか・・・・―


といった感じ。
「正樹さんをご存じなんですか?つ、月猫は、正樹さんにお弁当を届けなきゃ、でして、あの・・・」
「いや、その前に、君。浅茅君とは、どういう御関係?」
と、一人があきらめがちに聞いてみた。
「メイドです。」

―瞬間、その場が凍りつく。


『浅茅正樹が家に極上の美少女メイド(猫耳)を囲っている。』
その事実が、全校生徒に知れ渡った瞬間だった。

瞬間、全校生徒の何かが壊れた。



―何故、あいつばっかり!―


ただでさえ、この高校の男子生徒は『学園のアイドル:天縁尊』を占有されているような節があり、なおかつ、大体のつきあった女子や、告白した女子が、浅茅正樹に告白した経験のある子ばかりで、ふられた男子生徒の中には、浅茅正樹を理由に断られた者さえいる。



これが・・・・・。
これが、男として嫉妬せずにおれるかぁッッ!!!



業!!
燃え上がるように、嫉妬の炎が一瞬にして男子生徒(一部女子)の間に燃え上がる!



「あ、あいつ!マジ殺す!」
「なんであいつだけが、美少女を!」
「女の敵!いえ、百合の敵です!」
「誠氏ねぇ!」
「DEATH!」
「世に憚るは、ド鬼畜畜生イケメン野郎が・・・成敗してくれる」
「リア充はキエロ」



「え?あの?」
一瞬、静まったはずの場の空気が今まで以上に熱く燃え上がるのを感じ、みゃあが慄く。




「浅茅正樹の野郎はどこだああああああ!!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」



教室、いや、北棟、いや、学校、否、大地が揺れた!
型屋月高校、男子生徒約1300名の怒号と嫉妬の炎で激震する!

と、そこにまた先ほどの人影が現れる。


「ううぅ・・・酷い目にあった。やぁ、みんな、どうしたんだい?さっきも慌ててたけど―うぉ!?」
と、次の瞬間、嫉妬の炎で猛獣と化した男子生徒が、一斉にぬるりとその人影―伊神金丸をみた。
「伊神、浅茅正樹はどこにいる?」
「隠すとためにならんぞ」
「というか、隠すと死ぬ、確実に殺す」
「さぁ、答えろ。伊神、浅茅正樹はどこだぁッッ!!」
野獣たちの目が、ギラリと光る。本当に殺す気を放っているあたり冗談ではない。



「あ、あははは、ま、正樹だったら、美術室に行くって行ってたよぉ、えと、尊ちゃんと、約束があるとかなんとか―」

「「「「伊神邪魔だああああああああああああああああああッッ!!!」」」」

目的地を聞くや否や、獣群れがなだれ込むように動き出した!
当然、なすすべもなく、踏みつぶされ押しつぶされる!
「猫耳メイドだけじゃ飽き足らず、学園アイドルと逢い引きだとゴルァあああッ!!」
「殺せ!捕まえろ!敵は美術室にありッ!!」
「首級を挙げよ!覇を知らせッ!!武勇を持って己が価値を示せッ!」
「「「「おおおおおおッ!」」」」
津波のような殺気の渦が一直線に美術室へと進軍を開始する。
「あ、皆さん、待ってくださ~い、正樹さ~ん!」
と、みゃあも、それに後ろからついて行った。



◆ ◆ ◆




トロリと溶けてしまいそうな甘い時間が流れていた。
自分の形がなくなってしまいそうな・・・・そんな錯覚にさえ陥ってしまう。
彼女(尊)が僕(正樹)を見ている―僕(正樹)が彼女(尊)を見つめている。
お互いに臨んだ事だからこそ―そこには限りないほどの居た堪れない位の幸せな時間が流れた。
二人は一切しゃべらなかったし、触れもしない。
なのに・・・=こんなにも近い。



言葉は+意味を+なさない=『共感』



{心から×(尊を+みていたい)}÷羞恥=『恋しい』



(男性×女性-本能=『思いやり』⇔『欲情』=男性×女性+本性)
=二律背反―アンチノミー―



総括―summary―
   この時間が・・・ずっと続けばいい。



心から愛する=愛情表現=嘘ばかり=本心の錯覚=しかし虚構=同時に幸福=否定は本心の裏返し=ツンデレ=本当の気持ち=やはり、好き=愛情の表現=今は視る事だけ


今は・・・・視るだけでいい。




この時間がずっと続けば、先はいらない。
                  Quod Erat Demonstrandum.




けれど、取りまとめた筈の本心を壊したのは尊だった。
「ねぇ、正樹・・・」
波紋を広げながら響く彼女の声に、正樹は先を欲しがろうとする感情を抑えきれ――。


ズバンッ!!!


急に、先ほどまで静かだったはずの美術室の扉が開いた!
瞬間、流れ込む男子学生(一部女子)+月猫!



「おらぁああああ!浅茅正樹おるかあぁああ!」
「どちくしょうがこらぁぁ!たまとったるぁああ!!」
「吉野ちゃん怖すぎ・・・・」
「今日こそ引導をぉおお!」
「そんな、大山君も大好き!」
「佐代子、あんた病気よ・・・・」
「正樹さ~ん!お弁当持ってきましたぁああ!」



二人の空間はあっさりと崩壊した。
さっきまでの、緊張した空間と、今の衝撃で尊がくらりと倒れる。
「おい!尊!」
と、ぎりぎりで正樹が支える。



「てんめぇええ!何、学園のアイドルに気軽にさわっとんじゃああ!」
「お前には、すでに猫耳メイドがいるだろがぁああ!」
「どこまで、美味しい蜜を吸えば気が済むんじゃああ!」

と、突然、浴びせられる怒声。
だが、それに対して正樹は―。


「黙れ・・・・」


瞬間、野獣の群れが、沈黙し、明らかに一歩引いた。
一睨みだけで、全員を戦闘不能に陥らせる冷たい眼光。
鋭い、冷たい、強大過ぎる眼力。三白眼。
のど元に刃物でも突き付けられたような。



「あ、いやぁぁ、あのぉ、なんつーの?」
「あ、ああそうそう、ええと、浅茅に用事のある子連れてきたわけよ。」
「超可愛い子?つか猫耳?つかメイドってやつ?」
獣たちが一瞬で恐ろしい位のチキンと化してしまった。
と、同時に、まるで生贄の様に前に出される『みゃあ』。

「え、あの、ととと。正樹さん」
「・・・・・・」
と、正樹は尊をそっと床に寝かすと、すっと立ち上がり、無言でみゃあに近づいた。
表情は陰になってみえない。

が、人混みが、さらに一歩下がった。



「あの、正樹さん、私、お弁当届けに着てですね・・・えと、そのですね―」



パン、っと正樹がみゃあの頬を打った。



何が起こったかわからず、正樹を見上げてきょとんとするみゃあ。
「へ?」
あたりも一瞬息をのむ。
「お前、こんなところで何やってんだッ!?お前宇宙人なんだぞッ!地球人じゃねぇのッ!こんなでかい騒ぎになることは目に見えてんだろうがッ!このバカ!」
「あ、あの・・・でも、お弁当・・・残ってて」
「それは、輝樹のだッ!あいつが、今日弁当いらない日だって言うのが遅れたから、一つ余っただけなんだよッ!重箱で作ったでかい弁当を忘れるかッ!」
「つ、月猫は知らなくて・・・・」
「だったら、もう用事は終わっただろッ!さっさと、帰れッ!ここは、お前がッ――」



パンっと、また一つ乾いた音が鳴った。



今度は、正樹の頬が打たれていた。

相手は、目を覚ました尊だった。
正樹を何のためらいもなく、睨んでいる。睨みつけている。
「正樹っ!今の、最低ッッ!!」
「え・・・・」
今度、何が起こったかわからなくなったのは、正樹の方だった。
尊は、すぐさま踵を返して、みゃあの手を取る。
「あ、あの・・・・」
みゃあは、ぐいと引っ張れてあわてる。
「行きましょう、猫耳ちゃん。」
「あの、私・・・ふぇ?」
正樹は、尊たちが去っていく様子を、チリチリと痛む頬をさすりながら、茫然と見るしかできなかった。

ただ、茫然とするしかない。



頭がかっとなって、急に冷えて、その温度差で脳はまともな動きをしようとしてくれなかった。



ただただ、茫然とする正樹を見て、傍観に徹した野次馬たちから一斉に声が上がる。



「「「「「何してんだ!さっさと追いかけろッ!!!馬鹿ッッ!!!」」」」」

はっと、目覚めたように気がついて、正樹はすぐに走り出し、美術室を飛び出した。



なお、この時、周りの野郎連中は、別に正樹を心配したわけではない。
その証拠に―というか、下卑た笑みが男連中から漏れる。

―ざまぁ―

ぎらり、と、再び彼らの眼光が光った。




(((((このまましつこい男となって、完全にフラレテしまえッッ!!!)))))




◆ ◆ ◆




みゃあと、尊は、北棟の屋上に来ていた。
鉄の扉を、ぐっと、開くと強い風が彼女たちの髪をふわりと掻き揚げた。
「あ、あの・・・私は・・・・」
なんとなく、ついてきてしまったが、みゃあは何となく気まずかった。
正樹に、あれ程まっすぐに向かっていける人である。
きっと、正樹にとって近しい人に違いない。
それを、自分が原因で不仲にしてしまったような気がしたのだ。
だが、予想に反して、屋上にでて、始めて振り返った彼女の顔は、微笑んでいた。


「ね、私は天縁尊(あまより みこと)っていうの。あなたは?」


ゆらりと揺れる、黒髪。香るほのかな香り。
みゃあは、一瞬だけ目の前の少女に見とれて、顔を赤らめてしまった。
「わたしは、みゃあっていいます。」
「じゃあ、みゃあちゃんね?」
と、この地球に来て今まで初めて、自分を一切警戒しない親しい声に驚いた。
瞬間、うれしくなってみゃあも――。


「は、はいっ!」
と、必死になって返事をしてしまう。


「じゃあ、私の事も尊って呼んで。ね?」
「み、みこちゃんです!みこちゃんて呼びます!」
「わかったわ、みゃあちゃん!」
と、二人は、ぎゅっと手を握った。




握った瞬間、友達だった。



◆ ◆ ◆



二人は、屋上で並んで座っていろんな話をする。
気が合うのか、妙に盛り上がってしまってみゃあもうれしくて仕方なかった。
地球にどうやってきたのかという事から、正樹のご飯の事様な些細なことまで、いつの間にか進んで話していた。
正樹に怒られた時は、泣きそうだったみゃあの顔が今は晴れやかに笑っている。
「そっかぁ、今は正樹のお家でメイドさんをやっているのね?」
「って、いっても殆どお掃除だけです。それも、正樹さんに怒られてばっかり・・・・。」
はぁ~と、みゃあが深いため息を吐く。
「やっぱり、嫌われてるんですかねぇ・・・・」


「そんな事ないわ。正樹ってすごく優しいもの。それに、すっごく可愛いんだから」


「あ、あれがですかッ!!?」


「うん」
「だって、すごく怒りっぽいし!酷い事言うし!ものすごく卑劣だし!悪魔めいてるって言うか!そう、鬼畜ですよッ!!?」

「あはははっ!うんうん、そうね。確かそういうところあるかも、でも、それって、殆ど正樹が不器用ってだけで、大体は誤解されるのよね」

「でも・・・、今日も怒鳴られてしまいました。月猫は、ただ正樹さんに褒めてもらえると思ってただけだったんですけど・・・・・」
と、顔を下にむけるみゃあに、尊が優しい声音で呼び掛ける。



「ねぇ、みゃあちゃん。実はね。正樹って嫌いな人には絶対怒らないのよ。めったに大きな声も出さない。」
「はい?」
「前に言ってたわ。だって、怒るってすっごくエネルギーがいるんだって。そのエネルギーを嫌いな人にあげられるほど、自分は出来てないんだって」
「でも・・・」
「多分、みゃあちゃんが心配すぎるんじゃないのかな?正樹。

初めて宇宙からたった一人で来た人が、寂しくないかな?って、

周りの人間がみゃあちゃんに悪いことしないかな?って。

でも、正樹って不器用だから、みゃあちゃんが寂しくないようにちょっと無理して大きな声を出したり、

心配だからよく怒って注意もするし、

今日だって、学校のみんなが、みゃあちゃんに変なことしないか不安だったから怒ったのよ。
でも・・・―。」


尊が、みゃあの正樹にぶたれた方の頬をそっとなでる。


「叩いちゃうのはやりすぎよね」
と、満面の笑顔でいう尊はとてもキレイだった。



―綺麗な人だった。



と、そこに屋上の扉が開いた。

正樹だった。
どんな怒った顔をしているのだろうと、ぐっと、息をのむみゃあ。
けど、正樹は意外にも、気恥ずかしそうな顔をして底に立っていた。



「正樹、言う事あるでしょ?」


と、みゃあの目の前に尊がすっと立った。
「わかってる。」
「うん、よろしい。」
と、すっと尊を交わして、正樹がみゃあの前にすっと座った。
すこし、恥ずかしそうに。


「みゃあ、その・・・ごめん。弁当、ありがとう。」
と言った。
「あの・・・その、私もお弁当、余計でしたよね。無駄だったっていうか・・・。」



「あら、無駄なんて事ないわよ?」


と、尊が手に二人分のお弁当を持って言う。
「「え?」」
と、正樹とみゃあは声を合わせて驚いた。
「気付かなかった?美術室を出る時、持ってきてたのよ?こっちが、正樹の持ってきたお弁当。こっちが私のお弁当。そして、今みゃあちゃんが持ってるお弁当を合わせて三人分あるわ。」
と、得意そうな顔で尊がこっちを見つめている。

「まったく、大した奴だよ。」
と、正樹はつぶやいた。
ふふふ、と笑って尊は言う。
「さぁ、三人でお弁当にしましょっ!」




◆ ◆ ◆




青空の下で、食べるお弁当はすごくおいしかった。
「んにゅ~、この唐揚げ美味しいです!」
「でしょ!でも、正樹の料理の神髄は煮物よ!すごくおいしいんだから!」
「それ、同感です!」
「どれも、自信作のつもりなんだけどな」
「もちろん、全部美味しいですけどね?」
「おほめ預かり光栄の極み、ってなわけで、オニオンリングはもらっとく」
「んNOOOOォォオ!、なにが、という訳ですかぁ!私のオニオンリング返して下さいぃ!」
「これも、貰っとくわ」
「ぬぉおおおおお!酢豚まで!酷いです!鬼です!悪魔です!やはり、ド鬼畜です!鬼畜メガネです!」
「なんだと、コラッ!」


と、そんな風景を見て、尊がポンっと、手を打って何やら納得しながらニヤニヤ笑う。
「ねぇ、ちょっと、みゃあちゃん」
と、みゃあに耳を貸すように言う。
正樹の目の前で何やら内緒話をする二人。
「なんだよ、感じ悪いなぁ」
と、正樹は呟きながら、ほっといて自分の作ったお弁当に集中する。
「え?それって、どういうことですか?」
「いいから、いいから。ね?」




と、そんな光景を隠れてみている集団がいた。
絶賛正樹のふられる瞬間を見ようと集まった皆様である。
「ちっくしょう、なんでこんな展開なんだ?」
「あれか?イケメンだからか?イケメンニ限るからか?」
「く、くやしい、ぐぎぎぎぎ・・・・」
「結局、またも、浅茅の総取りか」
と、結果に不満たらたらの集団。
その後ろに、伊神がやってきた。
「あの~」
「なんだよ、伊神。今、忙しいんだって」


「いやぁ、先生に言われて来たんだけど、君たち、もう昼休みとっくの昔に終わってるよ」


「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
―その時、確かに時間が止まった。



「「「「「なんだってぇぇぇぇえええええ!!??」」」」」

キーンコーンカーンコーン!
次の瞬間聞こえたのは、間違えようもなく五時間目の終了を告げるチャイムの音だった。



◆ ◆ ◆




と、その日の晩の話になるが―。


―今日のペット応援バラエティ、『これからペットちゃん』特集は玉ねぎ中毒のお話です―
―かわいい、ねこちゃん、わんちゃんに人間用の食事は体によくありません―
―特に、玉ねぎに含まれるアリルプロピルジスルファイドには、溶血作用があり、貧血や、下痢、嘔吐などの症状も・・・・―


「へぇ、地球の犬や猫は大変なんですねぇ・・・」
「ん?何見てんだ?そろそろ、飯にするからテレビ消せよ~」
「は~い」
と、みゃあは、新しく買ったテレビの電源を消した。
すると、程なくして、料理が運ばれてくる。

と、みゃあが、その料理の数々、自分の目の前に置かれているものと、正樹におかれているものを見比べて―・・・・。


ポン、と手を打った。


「ああ、そういう事ですかぁ・・・・」


調理実験、死ぬかもしれない、食べさせてない・・・ああなるほどなるほど。
「ん、何がそういう事なんだよ?」
と、みゃあが急に正樹を覗き込んだ。
覗き込んで、尊に教えられた通りの言葉をみゃあは言った。


「正樹さん」



「なんだよ?」




「私、玉ねぎ食べられますよ?」





その瞬間、正樹の顔が沸騰したかのように真っ赤に染まって、あわわわ、と口元がしどろもどろになっていく。




「べべべ、別にお前のために、玉ねぎぬいてたんじゃ、ないんだからなッ!いいいい、嫌がらせだ!そう、嫌がらせッ!」




なるほど、これは可愛い。これは優しい。

まさかまさかのツンデレだった。



「えへっ☆」
みゃあは、思わず笑ってしまった。

先行掲載版 月猫@HOME 第四話 「猫耳登校!」 上

第四話  「猫耳登校!」




仮に、僕と『みゃあ』の関係を論ずるならば―

今において過去・・・、
過去をこの物語の基軸とするならば、
それ即ち
未来の僕から察すればと言う事になるのか?




ここまでの物語、つまり、『みゃあ』が僕達、浅茅家の家族となるまではいわばプロローグの様なもので、ここからが僕自身不可解だと思うが、本編の伏線に当たる『番外編』と言う事になるのだと思う。


言いかえれば、取るに足らない日常となるのか?いや、そうじゃない。


人生を物語とするならば、特別な転機やイベントなどというものはそれこそ瑣末な瑣事であって、
日常と呼ばれる何一つ問題のない日常こそが本題だと言っていい。
そうでなければ、ただの毎日が惰眠をむさぼるかのごとく無価値であると断じているようなものだ。
そんな風に重要な点を勘違いしている人間だとしれたら、僕は、きっと『みゃあ』に笑われてしまう。
あくまで重要なのは日常、転機やイベントなど、積み重ねてきた100や1000の日常がもたらした副産物的結果に過ぎない。


ノーベル賞受賞者は、ノーベル賞を取ったがために、研究をしているのではない。
日々研究した結果にノーベル賞がぶち当たるのだ。
そういった毎日毎日を大切に過ごした軌跡が、思い返せば目印となってイベントを生み出してくれているに過ぎない。
祭の準備をせずに、いきなり、祭りをすることはできないのである。
だから、やっぱり、これからの事は『本編』と言う事だと思う。


だから、ここからが・・・・
浅茅正樹の―浅茅正樹と、一匹の月猫(彼女)のアット・ホームな『大本編』だ。




◆ ◆ ◆




早朝
静かな調理場に湯気が立つ。
ふわりふわり。
それは少女が最もあったかくなる風景(映像)、ぽかぽかする心(夢)。


「こっれくら~いの、お弁当箱に、お~にぎ~り、お~にぎ~り、ちょいっとつ~めて」
と、熱いご飯が、少女の白く透明な手のひらで、三角形に握られていく。
「きざ~みしょ~うが~に、ご~まふ~りか~けて☆」
トントンと包丁とまな板がリズムを刻んで、あっという間に、食材が刻まれていく。
ぐつぐつと音を立てる
静かな部屋の中で、大好きな人思いながら料理をする。
「に~んじ~んさん☆、さんしょ~さん☆、しいた~けさん☆」

それってなんて・・・・。

「あはっ☆乙女だ。私。」

さらりと、漆を塗ったような美しい黒髪を持つ絶世の美少女―天縁尊(あまより みこと)の笑顔は、春の陽気の中で、これ以上ないくらいに輝いていた。


◆ ◆ ◆



早朝
静かな調理場に湯気が立つ。
ふわりふわり。
それは少年にとって、「I”ll be back」などと、頼んでもいないのに、舞い戻ってきたいつもの日常(雑務)、せかされる心(睡魔)。


「まぁ、仕方ない・・・」
また何時かのように浅茅家の食料庫を空にするわけにはいかないのだから。

みゃあが駆け抜けたあの夜から、三日ほど経ち
正樹達の心配をよそに、みゃあは程なく全快した。
それからさらに、二日。
給仕の仕事に復帰したみゃあは、初日同様問題続き、正樹がため息をつきながらあと始末すること五回。輝樹が頭を抱えて、「正樹、後は頼んだ・・・」と現実逃避すること三回。親父がみゃあに萌えた回数23回―という中々にすさまじきスコアブックの刻み具合を発揮しつつも、初日を含め三日目には、漸く、はたきを追いかける狩猟本能の制御に成功したらしく、掃除くらいはそこそこにできるようになりつつ・・・あるようなないような―。




兎にも角にも、みゃあは、現在進行形で問題山積しつつも今も給仕の仕事を続けている。
それでも、正樹が朝調理場に立たざるをえないのは、みゃあの調理技術に関して、早々に見切りをつけたからである。―というより、見切りをつけざるをえなかった。
掃除に関しては、狩猟本能の制御さえできれば『常識の範疇内』に収まってくれるのが、事これが『料理』となれば、みゃあはその範疇を一足飛びどころか、ICBMさながらに成層圏のかなたまでぶっ飛んで超えて行ってしまう。

そして、その落下地点(ネタ的なね☆)は、果てしなくジェノサイドなのである。


と、いっても何のことか理解が追い付かないと思うので一応、具体例をあげるとしよう。



初日、質量保存の法則以外の法則をガン無視し、元素組成を変革してねこまんまが完成したそれも、まさしくそうだが、最近であれば、野菜の炒め物を作ろうとしたら、黒色火薬ができてしまったり(焦げたという意味ではなく、素直に受け取ってほしい)、シチューを作ろうとすれば、得体の知れない、ヘドロの様なものができがり、その毒性たるや地上最強の毒素ボツリヌス毒をはるかに上回る致死性を発揮し、一番グロイものでは、卵焼きを作ろうとして、孵化直前のカマキリの卵が出てきたときには、不覚にも正樹は上ずった声を出してしまった。意味不明なものであれば、野菜ジュースを作ろうとしたら、PSPが完成したってのもあったが、それは『たなぼた』であったので失敗に入れないでおこうと思う。



何を言っているかわからないだろうと思うだろうが、そんなもの著者にしたってわからん。
自信を持って言える。



問題なのは、作り方が間違っているとかではないということだ。


正しい食材を用い、正しい手順にて、正しい調理法を行っているにもかかわらず、生み出される結果は『パルプンテ』―次の瞬間何が出てくるかわからない―カオスな状態なのだ。
それはもはや、『ポイズンクッキング』とかいう可愛いものではない。
もはや、『錬金術』か、なにかだ。地味にトリプルアルファ反応くらいは起きてるのかもしれない。当然、反応条件は完全無視の方向で・・・・。
黒色火薬のときには、危うく浅茅家が爆発しかねなかったし。
―そんな、カオスな理由から、みゃあが調理場に立つことはなくなったのである。



「このまま進むと、核爆弾くらいならまだしも、我が家の調理場から超新星爆発が起こりかねない。太陽系が消えかねないし・・・」


冗談みたいな事だが、正樹的には半分本気だ。
そう思えば、むしろ初日のねこまんま事件は、比較的『大成功』だったのだろう。なにしろ、食べ物が出来上がったのだから。

なにわともあれ、今日も今日とて浅茅正樹の朝は相も変わらず早かったのである。

「ん?今日の味噌汁ちょっとうす味かな?輝樹疲れてるし、もっと、濃い方がいいかも?」
なんて、考えつつ、今日の帰り、夕飯に何を買って帰ろうか考える。

(ニンジンだろ・・卵に・・・あと・・・玉ねぎは三人分でいいか)




◆ ◆ ◆




「よし、終わり終わりっと・・・」
朝ごはんの用意と、弁当の準備を済ます。

しかし・・・・。

「めんどくさい、めんどくさいと言いながら、重箱の弁当を二つ完成させてしまうとは・・・なんか、完全に職業病だな。」
病名=主夫。
これは、掃除だけでもみゃあに代わってもらって助かってるのかもしれない。
さすがに、リハビリが必要なレベルだ。
なーんて、考えていると。
突然家の固定電話が鳴った。
こんな朝っぱらから珍しい。
と、取ると受話器から聞きなれた声が聞こえてきた。

「ぉぉっす・・・。正樹。」


死ぬほど眠たそうないつもの低い声が聞こえた、輝樹だ。
「お前なぁ、内線なんか使うなよ。家(うち)のは家じゅうの電話が同時になるんだぞ?近所迷惑もいいところだ。せめて、携帯電話でかけてこい」
「ああ了解、うん?近所?お前、鬼畜の上に嘘吐きの属性ついてたっけ?」
「うるさい、馬鹿!要件を早く言えよ」
「ああ、悪い悪い。今日は俺、学校休んで、名古屋直行だ。多分、向こうで馳走になるから弁当いらない。だからいつも通り作らんでいいぞ。言うの忘れてた。すまんな。」
言うのが少しばかり、遅かった。
残念ながら、完璧に近いくらい完成形である。
「しゃーなし、了解、お勤めごくろうさん。名古屋土産買ってこいよ?『ういろう』な?」
「受諾、じゃ、俺はもう少し寝る。」

と、いうわけで・・・・。

「弁当が一つ余っちまったな。」
さて、どうしたものか?

みゃあの昼飯も、昨日の晩御飯の残りを冷蔵庫に入れてあるので、それは足りているし。親父は親父で、昨日から関東連合の方に出向いてるしな・・・。
仕方ないから、晩御飯に再利用でもするか?
と、考えているうちに、携帯電話のアラームが鳴った。
「おっと、もうこんな時間か。」
陸上部の朝連に間に合わなくなってしまう。
いつも通り、自身はカロリーメイトチョコレート味を手に取り出動。

どうにもこうにも、めんどくさい朝の一風景が、今日も正樹に活力を与えていた。


その片隅に置かれた輝樹の分の一つ余ったお弁当


―それが事件のきっかけだった。




◆ ◆ ◆




浅茅正樹は、陸上部員である。
競技は長距離、というか、マラソン。
特に、走ることに興味があったわけではなかったのだけれど・・・・。

まだ、空の向こうからひんやりと入ってくる青い光が教室をわずかに照らしている。
正樹は、部活用のユニフォームに着替える。
細身ながら、しっかりと程良い筋肉が体を覆っていた。



「しかし、部活用の更衣室くらい作ってくれりゃいいのに・・・。」



この学校の陸上部には更衣室が割り当てられていない。
部室自体は存在するが、そこのロッカーは大体、三年の先輩が夏まで占拠しているのだ。
そのため、人目のない、この時間帯ならば、着替えは教室で。朝連の終わりには、体育館倉庫や、トイレなんかで、いそいそと着替える羽目になる。




「そう?私は、正樹の鍛えられた体が観賞できてとっても好きよ?」




と、突然、暗がりから声が聞こえ、正樹は驚いて振り返る。
朝の光がわずかに差し込むと、そこにはにっこりと笑う、黒髪の少女の姿があった。
美少女と呼ぶに似つかわしい、白い肌と、漆を塗った様な黒くてきれいな髪。
そんな少女が、イヤに上機嫌で、こちらを覗いている。
正樹は、うわっと声をあげて後ずさる。
「お、お前!教室の電気もつけないで何やってんだよ!」
正樹は目が点になるほど驚いてから慌てると、その少女天縁尊を指差して言った。
「正確には、電気もつけなかったのは正樹の方よ?私、正樹の後から入ってきたんだもの」
「あ、いや、そうじゃなくて、なにやってるんだよ。尊。」
「正樹の観賞?」
「こんな朝早くに起きてまでやることか!?」
「そう卑屈にならなくていいと思うよ、正樹。正樹の裸は、一見の価値があると思うわ」
「そんなもんあるか!」
「あるわ、断言する。早起きは三文の得と合わせて四文ね」
「一文くらい何とかしろよ、ついでに昔落語『時蕎麦』できいた蕎麦の値段が十六文くらいだから、多分三文って百円くらいしか価値ないぞ、ってことは一文て―」
「正樹の裸には33円分の価値があると思う!」
「限りなくうれしくねぇよ!」
「なんなら、私の見る?多分、万札が幾枚も飛ぶと思うの」
「なんだ!?その戦闘力の違いを見せつけようとする動きは!?」
「見たくないの?」
「馬鹿なこと言うな!」
「当然見たいというわけね?」
「そう取られた!?」
「違うの?」
「違う!」
「そうね、昔お風呂一緒に入った様な仲だものね。私の体になんて、もう正樹は何の興味もないか・・・、なんか、落ち込んじゃうなぁ」
「スミマセン、ナンマンエンデショウカ?」

「正樹になら只よ。」
と、即答する尊。


じっとこちらを―正樹を―見つめている。


その瞳から、何故だか眼が離せない。
相変わらず口元は笑っているのに、声の調子は軽口なのに。
眼が―。


「私は、正樹になら見られてもいい。恥ずかしいけど、見られてもいいもの・・・・」


・・・・・。
・・・。
(あぁ・・・そんなこと気軽に言っちゃうんだ。卑怯だ。こっちの気持も知らないで・・・)



「だったら、僕だって見られてもいいよ。いくらだって観賞しろよ。たく、何が楽しいんだよ。」
と、着替えの続きをする。


「じゃ、私は、そんな正樹をスケッチするわね?」


「まて!なんだ?その展開は!?」
と、着替えの続きを中断する。
「だって、正樹がいくらでも観賞していいって言ったのよ?」
「いや、せめて何故かを聞かせてもらいたい。」
「ほら、私美術部員だし?」
「関係あるのか?」
「実は、男の人のデッサンをしようってことになったのだけれど、モデルがいなくてね」
「て―今までの会話は全部、僕に絵のモデルを自分から承諾させるための前ふりだったのか?すごいな、お前」
「正樹の事で、知らないことなんてありません!」
「その発言は、幼馴染のものだとしても、マジだったら軽く怖いぞ」


「今日の晩ご飯は肉じゃがにしようと思っている」


ドンピシャで当てられた。マジだった。


「まぁ、何にしても、だったら初めっからそう頼んでくれたらいいだろ?僕は、全然かまわないぞ、絵のモデルくらい。」
ま、尊だからだけど・・・・、と心の中で付け加えておく。
「いいの?モデルってあれで結構しんどいよ?ずっと動かないってのも疲れるんだし」
「まぁ、そのくらいなら。」
「いろいろなポーズ取ってもらうけどかまわない?」
「問題ない」
「全裸だよ?」
「勘弁願おう」
「私からも勘弁願います。」
と、それだけ言うと、尊はすっと立ち上がり,クスッと笑いながら、黒髪をふわりと浮かせて二三歩後ろにさがった。鉛筆を手に取り、ぐっと、こちらに目当てして、頭身を量る。それが終わると、うんうんとうなずく。
「じゃ、正樹も忙しいだろうから、お昼休みにお願いするね?約束よ?」
「了解」




◆ ◆ ◆




記憶の片隅の少年は、とても強気な男の子だった。

兄の輝樹に比べると活動的で、今とは対照的のように思える。


星語り(ほしがたり)が大好きな少年は、夜空を見上げる度目を輝かせていたと思う。


少年の指先が、星と星の間を指でなぞる度、口元からこぼれおちる幾百の物語。

少年の夢が、灯と灯を結んで、そこから紡がれる言葉が、私の鼓膜を震わす度に、温かいものが、反して心を締め付け、・・・切なくさせた。


この愛しさが、心をつなぎ止める鎖であればいいと思った。



私は、彼を好きになっていた。



  それまで―、あんなに嫌いだったのに・・・・。




◆ ◆ ◆





「ふなぁ~(魚的な意味で)」
と、大きく欠伸をする。
みゃあが、起き上がったのは9時ごろである。
その時間帯に、輝樹を起こすように言われたのもあるのだが、単純に昨日の晩、PSPでMHPGをやりすぎて、それ以上早く起きることができなかったのもある。


―給仕(メイド)としては完全に失格である―


みゃあは、ぐっと背伸びをすると、いつもの戦闘服(黒いワンピースにエプロン、黒のストッキング)に着替える。
と、早々に輝樹を起こしに行く。

「ふぁぁ、輝樹さぁ~ん、朝ですよぉ」

と、輝樹の部屋の扉を開けた―裸でした―閉めました。
「な、なんて格好してるんですか!?」
扉越しに、顔を真っ赤にしながら叫ぶみゃあ。
いきなり、扉を開けたら、上半身裸の輝樹が寝ていたのだ。完全に、目が覚めるとともに、頭が湯立て仕方ない。
と、扉越しに
「お、悪い悪い。何分、男だけでの生活空間だったからな。」
と、低い声と共に、何やら置きあげる音が聞こえる。
「悪い、正樹の作った朝食をよそっといてくれ。」
その輝樹の、言葉に「はい」とだけ答えて、逃げるように調理場へと走った。




「と、とと、あつつ。」
お味噌汁を温めなおしてお椀に注ぐ。
「はい、これでパーぺキですね。サービスに梅干しを入れときましょう」
「いや、それは止めとけって」
と、降りてきた輝樹に頭をガシッとつかまれ、止められる。
「おはようございます、輝樹さん。じゃあ、イナゴの佃煮にします?」
「余計に却下だ・・・」
「えぇ~」
「その不満の意味がわからん」
「でも、正樹さんの料理はとっても美味しいんですけど、月猫的には一味足りないんですよ~、何が足りないのかわからないんですけど。」
「ま、そりゃ、お前の分だけ基本別に作ってるからだろ?」
「は?何故そんな手間を!?」
「正樹は調理実験と言っていたが」
「何を!?何を食べさせられてるんですか!?私は!?」
「正樹は死ぬかも知れんっと言っていたが?」
「毒!?毒なんですね!?そうなんですね!?」
「むしろ、喰わしてないと言っていた」
「も~、わけわかんねぇ~!!!むきゅいいい!!あの人は、なんですか?月猫に恨みつらみ妬み嫉みぐるっと回って憎しみでもあるんですか!?」
「さーてな、ま、そんな事より朝食だせ、こっちはすぐに出かけるんだ」
「―て、今日は、スーツですね。学校には行かないんですか?」
「今日は、ちょっと名古屋までな」
「お土産は、カスタードカステラ焼きでお願いします!」
「名古屋と聞いた瞬間、お土産の筆頭にそれをあげてくるお前は本当に宇宙人か?」
「月猫は大好きです」
「まぁ、正樹にもういろう頼まれたしな」
「バナナういろうですか?」
「どこまで詳しいんだ?お前・・・」
「いえ、わらびういろですかね?」
「いや、あれはもはや、わらび餅だろ」
「自ら新食感をうたうのは、なかなかできる事ではありませんよ。相当な自信のはずです!べジータ程のプライドを感じます」
「べジータは、最終的に、そのプライドを捨てたがな」




◆ ◆ ◆




輝樹を送り出した後、ようやく、掃除に取りかかる。
(なんだか、この生活も慣れてきましたねぇ。なんとか、仕事もこなせるようになってきましたし、浅茅家の皆さんとの会話もはずんできました・・・けど)

と、みゃあは、一つの不満が頭に浮かぶ。


(それにしても、輝樹さんは、割とよく話してくれますが・・・。問題は、正樹さんがあんまり話してくれないんですよね。っていうか、今までの会話の殆どは、正樹さんからのお説教の様な気がします。まぁ、そりゃ、怒られるような失敗もたくさんしているんですが。こう、いっつも『むす~』っとしてるというか、なんというか。ま、いつかはべた褒めさせて見せますけどねぇ~、とととぉ?)


と、掃除をしようと、箒を採りに台所を横切った時、隅に重箱を見かけた。


「これ・・・・、お弁当ですよね?」
と、中身を確認してみると、やはり中身はお弁当である。


「だれのでしょうか?今日は輝樹さんは、向こうでお食事をとられるとのことでしたので・・・。ははぁ~ん、あれですね。正樹さんの忘れ物ですね?」


と、その瞬間みゃあの頭に閃光のように閃いたある考え。



お弁当を忘れて困る正樹さん→お弁当を届ける→月猫、褒められる!



「ふふぅ~ん、意外と早く機会が来ましたねぇ」
と、掃除そっち抜けでお重を片手に、みゃあは浅茅の家から鼻歌交じりに飛び出していた。




◆ ◆ ◆




浅茅正樹の学校でのクラスメイトの評価は、鬼畜である。眼鏡と合わせて鬼畜メガネである。
それには、理由がある。
一見、成績優秀、きわめて真面目、スポーツもそこそここなし、尚且つイケメンである正樹には、性格的に問題がある。

それは、兄、輝樹にも同様の事が言えると思うが、兎に角、ドSなのである。


あらゆる事において、あのイケメン兄弟は、対抗する勢力に対して容赦がない。


以前、浅茅兄弟に喧嘩を売ったガラの悪い上級生が、病院送りにした挙句、病院で更に、浅茅正樹に看病されるという鬼畜な目にあったらしい。―それのどこが鬼畜なのか?―ここでは、あまり明言しないが・・・それは『看護』という名の『拷問』であったらしい。結果として、先輩は、廃人寸前まで追い込まれた。
最初の病院送りだけでも相当鬼畜なめにあったらしいが、浅茅正樹はさらに、そこから追撃を掛けてきたのである。
だが、まぁ、これは浅茅正樹が鬼畜と言われるエピソードとしては、割と小さな部分になる。
男同士の喧嘩だ。とことんまでやるのはさほど珍しい事ではない。
浅茅正樹が、鬼畜と呼ばれる要因は次のほうが大きい。
前述した通り、浅茅兄弟は両方がイケメンである。
その上、スペックは否のつけどころがない。
もちろんの事、当然のようにモテるのだ。


浅茅正樹という鬼畜が、告白された事365回。全校生徒2600人の半数が女性として1300人その四分の一以上が一度は正樹に告白した事があることになる。いや、彼の鬼畜がそこまでにとどめたと言うべきか?なお、ラブレターの数はその比ではない。

兎に角、浅茅正樹はその全てを切って落とした。フってフってフりまくった。
只振るだけではなく、フる内容が嫌に明確なのだ。
一切間違ったことは言ってないのが真を得たその一言に、心がえぐられ、告白後気絶した娘や、しばらく学校に来れなくなった娘までいる。一時期PTAの議題に挙がった事さえある―まぁ、PTA会長自身が、被害者と言う痛々しい結果にこの議論はなかったことにされたが・・・―
故に鬼畜なのだ。


以前自称したように、まぎれもないフェミニスト(男にも女にも平等に容赦がない)なのである。


今では、正樹に告白しようという女子はいない。むしろ遠くから眺めるのが彼の正しい扱い方なのだ。
勘違いしてはいけない。動物園のトラは、撫でて愛でるものではなく、檻の向こうから眺めて愛でるものなのである。
唯一例外があるとすれば、兄弟二人の幼馴染である学園のアイドル(非公式)天縁尊くらいであろうか?




昼休み―尊との約束のために美術室に行く途中。
そんな、鬼畜―浅茅正樹は、若干頭を悩ませていた。
今日の晩御飯の事である。
正確には、今晩の『調理実験』のことである。
いかに『アレ』を使わずに肉じゃがを作るかというところだ。
『アレ』は肉じゃがには不可欠な存在であり、それを代替する食感もさることながら・・・。
「用は、甘味と旨味をどう表現するかなんだよなぁ・・・・」
『アレ』の醸し出す自然な甘みと旨味は独特なものがある。『アレ』類全般に言える事だが、『アレ』を煮たり炒めたりすることででる旨味成分があって、成り立つ料理は数多い。脇役は脇役なのだが名脇役なのだ。
などとおもんばかっていると、向こうからクラスメイト伊神金丸が、スキップしながら上機嫌で歩いてくる。
実に気持ち悪い。
赤いカーペットと上をお付きの人と一緒にやってくるところ含めてキモイ。


「ややぁ?あそこに、見えるのは我がライバル浅茅正樹君ではないかね?相も変わらずムスッとしているねぇ、そんな気分の乗らぬ時は、僕が気分を盛り上げるために、ハイタッチをしてやろう!」


と、言って腕を高々と上げながらこちらに向かってくる。
正樹もそれに合わせるように高々と手を挙げ―


「ハイ、タ~~~ッ・・・・・・」


思い切り、金丸の顔面めがけて振り下ろした。
パンっと、乾いた音が廊下中に響いた。
金丸は何が起こったかわからずキョトンとしていた。
正樹はそれを無視して通り過ぎようとしたところで、金丸に肩を掴まれる。


「正樹、正樹、コレコレ」


と、自分の頬を指差して、何か訴えてる。


「ん?どうした?」
「いや、痛い痛い、ほっぺた痛いんだけど正樹・・・」
「知らん」
「いや、見てよ、正樹が叩いた後、赤くなってんじゃん。痛いじゃん。」
「おおお!お前どうした!?」
「いや、君が殴ったんだよッ!?」
「自分を指差して、イタイとか!やっと自覚もったのかよ!」
「そーじゃねぇよ!僕はイタクないよ!そーじゃなくて、ほっぺたが痛いだろって―」
「はぁ?お前さっき、痛くないって言ってなかったっけ?お前そんなに主張ころころ変えてたら社会で信用されないぞ」
「そーじゃなくて、な?そーいうことじゃなくて!!」
「黙れ!それ以上何も言うな!言い訳するたびにお前が哀れになってくるぞ!」
「いや!でも!!」

「『いや!でも!!』またそれだ!そーやって、恥の上塗りをしてる事になんで気がつかないんだ!それがどれだけの人の信用をなくすと思う!?そんな事を繰り返していたら、お前はいつの間にか独り―孤独になっているぞ!」


「マジッ!?僕、一人ぼっちになってるの!?」


「そうだ!お前の父親も母親も、兄弟も、使用人も全てお前から離れていく!だが、お前はここで気付けた!ラッキーだったんだ!これからは、それを心に刻んで、日々精進して生きればいい!言い訳はしないと!主張をころころ変えたりしないと!」
「うおおお!なんか、目から汗みたいな謎の液体があふれ返らんばかりだよ!誓う、誓うよ!僕は、もう間違ったりしない!」
「そうか!じゃあ、お前の頬は痛くない!そうだな!?」
「ああ、痛くない!痛くないさ!痛くなんてあるものか!!」
「一つ教訓になったな!」
「ああ、勉強になった!」


「なら、授業料三万円。」


「ああ!もちろんだ!」
と、何の疑問もなく譲渡。


「じゃあな、もう間違えるなよ。自分の道を。俺はこれから美術室で尊と約束があるから、向こうの方に行くけど、お前の健闘を祈っている」
「おおおお!正樹、ありがとう!お前が、こんなに熱くて良いやつだったとは、僕も思ってなかったよ!心の底からの感動ありがとう!僕、やっていくよ!」
と、何の疑問もなく、伊神金丸=バカね丸は、スキップして立ち去っていく。
(容易い・・・・バカの扱いはあまりにも容易い・・・・)
と、握りしめた三万円をポケットにしまいながら、幸せそうに走り去っていく金丸を見送って思う。




彼、伊神バカね丸が、この事を疑問に思い小首をかしげるのはまだ先の事である。




◆ ◆ ◆




一方、みゃあは、正樹達の学校―市立型屋月高校にやってきていた。
市立型屋月高校は進学校である。市内で一番高い偏差値の高校であり県内でも有数、同時に生徒の人数も多い県内ではマンモス校でもある。
一応、進学校ではあるが、クラブ活動も盛んで、学生の頑張りもあってIH(インターハイ)出場クラブがバスケット、柔道、水泳と三つもある。その上、野球部は今年甲子園の出場も決めた。
このことから、学校サイドは文武両道を旨としていると、内外に主張している。
正確には、何事においても生徒が活発すぎるというのが本当のところだ。
あまりに活発すぎて、この地区のボランティアの殆どは、この学校の生徒の自主的活動であるほどである。
校舎は、東棟、西棟、南棟、北棟の四棟もあり、図書館棟の設備は大学図書館ばりの蔵書量を誇る。
なお、プールは室内プール。グラウンドは第三まであって、体育館二つ。正確には、体育館の一つはいわゆる道場棟。剣道場と、柔道場、それにフェンシングの練場までがある。
そうクラブ数は大小合わせて二十五。同好会を合わせるとそれ以上になる。
これだけの規模でわかると思うが、この高校の敷地面積は大学キャンパス級に広い。
特に園芸部の管轄する通称『中庭』は、中庭と言うより公園に近い。
その上、背にする裏山も実質的にはこの高校の所有地に近い。頂上には祭神天児屋根命(あめのこやねのみこと)を祭っている神社まである。
そのため、みゃあが、この学校の全体像を把握した時、


「ここから、正樹さんをさがすのは・・・そうとう大変そうです。」


と、茫然としてしまったのは無理はない。
しかも匂いで探そうにも、こう匂いのもとが一か所に集まるとさすがにかぎわけるのは骨である。
「まぁ、人に聞けば大丈夫ですよねぇ」
などと言っていると


「あれ?君どうしたの?」


と、校舎前、集団でたむろっていた少年たちに声を掛けられた。見れば、正樹達と同じ制服を着ている。この学校の生徒であるのは間違いないと思うが・・・。
「あ、あの・・・・」
と、声を掛けた瞬間、みゃあの、脳裏に最悪の事態がよぎった。
(いえ、まままま、待ってください。よく考えたら、宇宙人の私がこんな気軽に地球猿の前に現れたら・・・・みんな、私をこぞって解剖しようと・・・・)
そんな疑心の種がまかれた瞬間、急に目の前の人間が、悪鬼や何かに見えてくる。

「なに?この子、すごくかわいいじゃん。ねぇ、どこの高校?」
「うわぁ~、なになに、猫耳付いてるよ、この子。尻尾も!コスプレってやつ?初めて見た」
「俺、こういうの今までマジ引きだったけど、こんだけ可愛いと、あ、ありだわ。写メ取っていい?」
カシャリ―シャッター音
「何お前、目覚めすぎ。ね、君どうしたの?俺達の高校に何かよう?」

突然、浴びせかけられる言葉の数々が、みゃあには別の言葉に聞こえる。

『なに?こいつ、地球人じゃねぇ名ぁ、どこの、星の人間だぁ?あん?』
『こいつ、猫耳がついてるぞ!尻尾までありやがる!ぐふふふ、これは解剖しがいがありそうだぜ、ゲへへへへ』
『俺は、こういうの見るとマジ轢き潰したくなるんだよ!良い声で鳴きそうだぜ!嵌め撮りするかぁ?』
『何だ、お前、目覚めすぎ(狂気的な意味で)。どうした?異星人、我が高校の前に来て逃げられるとでも?』



「あ、あわ、あわわわわわッッ、わ!わた、わた、わたたたた!」
((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル



もう、完全にみゃあには、目の前の人間が恐ろしい怪物にしか見えていない。
「君、大丈夫?」『君の大腸太い?』
そうとは知らず、声を掛ける少年達。
「この子、すっごい汗かいてるよ?」『こいつ、汗かいてやがる』
「気分悪いなら、学校(うち)の保健室よっていきなよ。うちの保健室の先生、怪しい人だけど良い人だぜ?」
『気分がよくなる薬を撃ってやるぜ、うちの解剖室でなぁぁ。うちの解剖医の先生は、怪しくて残酷だぜ?』
「あはは、若干、黒魔術入ってるよな、あの人の治療って」
『かはは、若干、黒魔術入ってるからな、あの人の腑分けわよぉ』
「美人なんだけどねぇ」『奇人だからなぁ!』



「ふんぎゃあああああああああああああああああ!!!!」




「あ、逃げた・・・」
耐えきれず、奇声を発しながら、学校に向かって逃げるみゃあを、少年たちは見送るしかなかったわけだが・・・。
「送信、完了・・・と。」
と、さっき、写メを取った少年が、呟いた。
「お前何してんの?」
「ん?まぁ、一応、みんなに報告。困ってるっぽいし、助けてあげてね的な?」
「それ、学校のネット掲示板?・・・ちょ、伸びがすごいぞ!」



絵 練習 立ち絵

どうも、N,Tです。


なん・ちゃっての略です。

嘘です・・・・てか、今回はさすがに無理があるか


ちょっと、連日循環器の勉強会で忙しく、


皆さんのところになかなかコメなりペタなりできなくてすいません。

あと、数日こんな状態かも・・・・。



新塵碕行の蒸れないブログ-mikoto

で、前回の暑中見舞いで上手く書けなかった、天縁尊(あまよりみこと)ちゃんのラフです。

製作時間15分。いつものように、さらさらっとていうより、ガシガシ描いた。

明日明後日の昼くらいには、この尊がメイン?の月猫@HOME第四話の先行掲載版がうpできると思います。

いつもの如く、誤字脱字チェッカーさんたち頼みます。


んでもって、僕は、ひたすら正樹、輝樹のオヤジを描く練習です。


おっさん書くの好きです。

中年こそは、世界の至宝です。

幼女より萌えポイントは高いです。

もちろん、嘘です。

いくらなんでも、それはなかろう。


ついでに、僕の考えるもっとも萌え度が高いものは

わんこです。


子犬です。


子犬に勝る萌えはありません!

あえて、それ以上を求めるとしたら、「ダイエットしなきゃなぁ」と、言いながらバナナをむさぼる俺の親父くらいです。超萌え~、超蕩れぇ~


俺の親父は世界で一番頑張り屋で萌えでござる。


そんな、親父自慢はさておき



たち絵を久々に描いたので、ものすごく技術が落ちてました。

もう、その落ち具合は、自由落下よろしくという感じです。

空気抵抗カマンッ!って感じ。


立ち絵へた~。


まぁ、昔からさして得意ではなかったのですが。


で、なんか尊のデザイン軽く変わった?って思った人。

うん、変えたよ。

こっちの方がかわいいもの。

パーツはほとんど同じだけど、大きさと、角度と分量と髪質を変えた。

そもそも、オリキャラを安定して書けないってのも問題あるしね。

かわいらしさと、描きやすさを重視しました。


まぁ、今回はそんだけ。