空気読まずに、長文失礼します。

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赤の他人には、青のベンザブロック

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 三年前、コロナ禍到来によりリモートワークとなったタイミングで前職を病気休職し、そのまま職場に戻らずに退職した。新卒入社から六年、そろそろ発展的な機能開発を任せてみようかと管理職に託され、従来の優しいチームリーダーから新しいパワハラ気味の人のもとに配属替えされた時期と重なっていた。自宅で一人、漠然とした業務指示について誰かに質問することも難しく、どんどん自己嫌悪がはかどって、全てが嫌になったのだった。コロナと共に去りぬ。
 結局一年ほど無職を満喫したのち、創造性高めの設計開発の前職から、定型作業を多く正確にこなすタイプの現職にジョブチェンジした。新しい仕事に必死に食らいついて、生活リズムを整えるのに一年。仕事のかたわら、自分のセクシャリティーや会社員生活のモヤモヤを小説作品に落とし込んで新人賞に投稿するスタイルを確立するのに、さらに一年がかかった。
 新卒からずっとお世話になった優しいリーダーに、何度かラインをもらっていた。求職活動の時リファレンスチェックをお願いして、企業の「まともな人でした?」という短い電話にも付き合ってもらった(結局その企業ではないところに決まったのだけど)。
「コロナが落ち着いたら飲みに行こう」
 そんなふうに連絡をいただいては実現しないまま、三年が経っていた。いい加減会いましょう(笑)と連絡を受け、先週の金曜、飲みに行った。優しいリーダーと、これまた新卒の頃からお世話になったチームの優しい先輩Aと先輩Bと、合計四人でのささやかな会。
 男だらけのメーカー開発部飲み会は、お前は彼女いないのか、とかすぐに聞いてくるから嫌でしょうがなかったけど、身近なチーム人員は穏やかな人が多かった。このメンツなら大丈夫だ、という信頼があった。
「おー! 変わらないね!」
 嬉しそうに笑ってくださる三人も変わっていなくて、嬉しかった。
 ずっと頭から追いやっていた前職のその後の話を、まったく無責任な客観的な立場で聞くのは楽しい。新卒から長く携わったチームの機種は、新規事業という立ち位置で、なかなか目が出ないまま、お客さん先でクレームを受けながらもみんなで必死に業務に励んでいた。出張でヨーロッパに行ったりしたのも懐かしい。
 私が隣の分野の製品のパワハラ気味の人の下に配され程なくしてドロップアウトしたあと、元のチームの新規開発は中断され、大幅な人員削減があったそうだ。半数近くが別部署に異動となり、コロナ禍も経て、特に若い同僚たちのほとんどが転職で姿を消したらしい。
 そんな中でも残った人たちで現行機種の販売、客先サポートに尽力した結果、部署の収支が初めて黒字に転じたということだった。私と歳の近かった先輩Bさんも一時は別部署に異動していて、転職も頭をよぎっていたようだ。だが黒字に転じた古巣でいよいよこの二〇二三年、新規開発が再開できる目途が立った。社内公募で開発人員の掲示がなされた瞬間に彼は手を挙げ、四月から晴れて三人のチームが実現したという。
「やっと開発ができるんだ。人がいなさすぎて、猫の手も借りたいくらいだよ」
 そう言う三人の顔は充足感に満ちていた。そして不意にリーダーが私に、
「あとは〇〇くんが戻ってくるだけだよ」
 と言った。
 一瞬、言葉の意味がわからなかった。
「新人を一から教えてる余裕もないしね」
「三十代前半くらいの即戦力が必要なんだよ」
 AさんもBさんも口を揃える。どうやら、もう少ししたら中途採用の募集を出す予定があるらしく、私が舞い戻ることを希望し、わりと真面目に誘ってくれているようだとわかった。たしかに前の会社には、別の会社に転職した人がジョブリターンできる制度もあった。
「でも設計なんて、三年もしてないですし」
「自転車の運転みたいなもんだから大丈夫。〇〇くんが新人の頃に検討してくれた誤検知問題のことで、いまだに問い合わせをもらったりするんだ。あと君が特許をとった補正機能のおかげで、競合に差をつけて売れた製品が客先で稼働してくれての、黒字なんだし」
 仕事に追いつかなくなって、後ろ足で砂をかけるようにして前職を逃げた認識でいた。けれど言われてみれば、ちゃんと仕事をしていたのだった。ずっと苦手意識があり、ノルマをこなす姿勢でしか取り組んでいなかったけど、自分の実績を認めてくれる人がいた。思いがけず、胸が熱くなる。
 タイミングも絶妙だった。自分のペースが掴めた現職も、また忙しさのピークで疲弊していた。上司はモラハラタイプの二重人格で、こちらがミスをしなければ機嫌がいいが、もはやミスが免れないくらいに最近は忙しく、気が張り詰めている。
 五年近く続けている小説創作も行き詰まっている。気分転換に新しく始めた文章教室でも、様々な人から意見をもらえるのはありがたいが、どれを指標にすればいいのか気が狂いそうになる。真剣に取り組んだ作品へのアドバイスを真摯に受け止めるには、どんな形でも心が消耗した。
 まっすぐな肯定の言葉が久しぶりだった。評価されることに疲れた心に、信頼する人からの好意は、ぐっと沁みる。
 前の仕事がまたできるとは到底思えないし、苦手な人は別部署に残っている。よっしゃ戻ろう! と思える純真さはない。
 でも予想外だったから。忘れたくないと思った。生き方に迷走するの何度目だよって最近だったけど、ふと足元をライトで照らしてもらえたような気がして、本当に嬉しかったな。