学校から帰って 家にいたニートちゃんに、一本の電話がかかりました。
プルルルル、がちゃり。
「ハイ、もしもし。ニートです」
「僕、オドケといいまスョン。心のお洒落家ですヤン!
ところで君は先週の土曜日の午後、キャイキャイ横町の横断歩道で、お年寄りの手を引いてくれましたネン。あれはぼくのお母さんだったんですワイ。母に親切にしてくれたお礼をしたいヨイ。僕の店に遊びに来ないかララ?」。
おかしな喋り方の持ち主の突然の誘いに、ニートはまごつきましたが、お父さんは「犬のラブと一緒ならいいよ」と言ってくれましたので、思い切って出掛けてみることにしました。
で、クリクリ三丁目のお花畑の一軒家のお店。看板は「心のお洒落屋さん」と出ています。
入り口に緑の草が山盛りになっていて、ほほ笑みの夕顔が咲いていました。
見上げると、二階のベランダからもお花が背伸びして、こっちを見つめています。思いがけない素敵なお迎えに、ニートはなんだかうれしくなりました。
細長いハート型の切り株ドアを押すと、「パンパカパーン!」とトランペットの大歓迎。 そおっと中をのぞくと、壁にかかった時計が「チュンチュン」と鳥の鳴き声のリズムで時間を刻んでいます。
ニートはまるで森に迷い込んだように思い、喜びの前触れのようなゾクゾク感がしました。
ちょうど四時になったので、「よじ、よじ」とフクロウの飛び出し声が・・・。
天井のライトはぴかぴかの金色で、あたりはくっきり、豪華に見えます。
新しい木の匂いがプーンとする手摺り、青空色の壁、腕を五回以上渡せる程でっかい柱、どれもが輝いていて、ニートには眩しいくらい。
正面のには鏡が何枚も重ねてあって、ニートとラブの顔は、前、後ろ、横、斜め、上下、奥、手前、と何通りもに反射して見えるんです。じっとしていても自分たちの姿が少しずつズレていて、まるでブレイク・ダンスを踊っているみたい。
「うわぁーっ何だかおもしろいっ」
ラブもびっくり。「ヒューッ」と目が回るような仕草をしています。
そんな不思議な部屋の中を、奥の方からピエロのお兄ちゃんが、バレリーナみたいにクネクネ腰を振りながら出て来ました。これがオドケさんです。
「ヤアヤア、ようこそボクんちへピャイ。さあ、おとぎの国へご案内しましょうドゥリ」 長い髪を王子さながらフワフワなびかせて、ヘンテコな言葉を使うけど、それがまたおもしろそうな人っ!
ニートがラブを紹介したら、オドケは、
「かっわいーい子犬だね!ユワウッ」
なんて、またまた変てこな驚き方。
「アハハハッ」とひとしきり声を出したニートは、そのままポッカリ口を開けたまま部屋を見渡し、壁に貼られたカレンダーを見つめまして、二度びっくり仰天!
なぜ?って、普通は黒色の多いカレンダーの数字が全部が全部真っ赤な印で塗られてて、毎日がお休みのようなんです。
「お仕事や お勉強はいつするの?」
ツルツルあごを撫でながら、答えます。
「しなさいと言われてするんじゃなくって、自分で時間を決めてお稽古を楽しむのさムン」
そばではコトコトとお湯が沸いて、いい匂いのミルク・スープが入っています。
「例えば、朝起きてイングリッシュ数かぞえパーティーぞぞっ。百まで起きぬけのステップを踏みながら、クシで髪をといたり、シュシュリシュリーッと歯ブラシ。サラサラの毛とキュンキリ歯ぐきになった上、ついでに気分もシャキシャキさ、アハアッ」。
飲み物を戴く前に、チュリチュリッと手洗い。ニートも指の間まで、よく汚れ取り。 「お昼には、窓ガラスのノートに漢字を書き取りしますウイ。冷えたガラスに暖かい息をハアーッと吹きかけて、指で文字を入れて行くのヨンネ。上手く書けた字は、霧吹きで墨を塗って、テイッシュのスタンプを張りつけ、形を取っておくッポ。
そうしておいて外の物干しに飾って、太陽に見せるんだビーム!」
スープを嘗めると、舌の奥で溶けて、バターの味が「ベリー・グウッ」。
「暗くなったら、星の観察タイム。望遠鏡で見ていて『綺麗だなア』と思った星の名前を本で調べて、さらに星博士(ほしはかせ)に電話で質問するのさナハハ。
ゆうべはこうだった。『M78番の星の色はオレンジでしょうか?それとも赤ですか?
オレンジはオレンジだけど、赤にも近い気がするズッキー。筆で塗るとき、絵の具はどのくらいづつ、混ぜ合わせるといいですか?』 博士の答えは、『絞り出す絵の具は、オレンジ5ミリに赤3ミリ』だったヌワサ。
お洒落を楽しみ、こうして優しい人を喜ばせる。それがボク流の暮らしなんだブン」。 「私も大人になったら、みんなに夢をあげられるお洒落屋さんになりたい」。
ニートはうっとりして、オドケの自由な生活を羨ましがりました。
奥の部屋には、透き通ったワタの海が広がっていて、あちこちに小さな島がポッカリ浮かんでいます。その島は実は机で、机の上には、今聞いた話に出て来るような、色んな遊び道具がちりばめられていました。
「君はお洒落が好きかい?」
真っすぐな目でこっちを見つめてオドケが尋ねたので、ニートはコックリ頷きました。 「そしたらハートのお洒落をしようよ!自分なりに優しくなろう!優しいってのは、人に柔らかさをあげられることなんダダダ。 困った人を助ける。弱い人を励ます。『頑張れっ』と心で言葉をかけ、応援する。
一生懸命な人を元気づけてみて、やってみて。人のためになにかしてあげられるってことは、とってもお洒落なことなのさ ピッチリュン!」。
それからオドケは、あれこれと「心のお洒落」の方法を聞かせてくれました。
「親切にしてあげて、人が返してくれる『ありがとう』は、どんなごちそうよりもおいしいよ。さよう、僕は『感謝感激アメアラレ』のアラレを食べて生きているんだ」。
なんだかヘンテコな所もあるけど、ニートは胸が跳ね返るほど嬉しく、喜んだのでした。
次の日。オドケが教えてくれた心のお洒落をして、町を歩くニート。
お店で貰った「摘みたての葉っぱで編んだ薄緑そよそよの網目ドレス」が自慢です。
着てると、軽やかにスイスイ歩けます。からだじゅうはずませて、靴音キュッキュッと。 するとすると不思議! いつもより、かっこいいい男の子を見かける回数が増えました。 かわいい子やキラキラした人も、なんだか普段以上によく見つけることが出来ます。
マニキュア通りを歩いていても、一人、二人・・・と次々にすれ違う人と「ほほ笑みの挨拶」。
レストランの中にも、窓際に一人、隅っこに二人。どれもこれもドキドキ胸キュンな男の子だらけで、目移りしちゃう。
向こうの子も誰もがニートに気がありそうで、少し見つめ合う。三秒?五秒?いや、七秒? なんて瞬間的な恋なの!
でも、まだ少しばかりあどけないニートには、それだけで胸が一杯、満足だったんだ。
さっそくキンキラの心のまま、キャイキャイ横町に出て、車椅子の人の椅子を押したり、松葉杖の人と肩組んで歩いたり、おばあちゃんがいたら手を取って、一緒に横断歩道を渡ってあげます。
最初はまごまごだったけど、勇気を出して一、二、三・・・、ホラ出来たっ!
さらにシュリシュワ大通りに行って、「大丈夫ですか?」と声をかけながら、おじいちゃんにピッタリと付き添って、車道を横断してあげます。
すると、どうでしょう。
自分の心がピカピカに磨かれて、気持ちがお洒落になって行くのが分かります。
人に親切が出来た後は、体がフワリと浮いてきて、もう嬉しくてたまらなくって、友達みんなに大声で伝えたくなって・・・。
「私みたいな小さな子どもも、大人に愛をあげる事が出来るんだわ。オドケさんが教えてくれたとてもいいコト。ありがとう、ありがとう」。
不思議な力を持った言葉「ありがとう」。 ニートは鼻歌まじりに繰り返しながら、いつの間にかオドケさんが好きになってしまってる事に気づきました。
それはお父さんやお母さんとはちょっと違う感じ。
グイグイと自分の行き先を引っ張ってくれるような、強い力した安心感・・・。
オドケさんに習った思いやりで「ありがとう、かわいい子!」と人にお礼を言われたら、もう有頂天!
その度、バンザイをしてみたりして。
学校からの行き帰り、「思い立ったら手を貸し屋さん」になったニートは、今日も胸を弾ませて、行き交う人々を見渡します。
きっとオドケさんは人込みのどこかにいて、 「車に注意してネ。お洒落心も忘れずに。 さて次の招待電話をいつ掛けようか?」
と、ほほ笑んで、ニートを見守ってくれていることでしょう。