「そうかい……ん?」


少女の顔の一部が黒くなっているので、

路夏はポケットからハンドタオルを出した。


「頬が煤(すす)で汚れてるよ


「……あなたはできているようですね。ですが……」


少女は透けるような白い手でハンドタオルを

受け取って、そのまま路夏の横をすり抜けた。


「脇(わき)が甘い」


少女は周囲に展開()している蔓(つる)を伸ばして、

路夏の背後でけん銃を構える小男を

鞭(むち)でやるように打った。


「はっ?」


路夏も最初何が起こったのかわからなかったが、

すぐに頭が回った。


保護対象者が自分にけん銃を向けていた――

きなくさい話――最初から配置されていた狙撃手――

その意味する所――この仕事の裏が見えてくる。

「かはっ」


少女は咳き込むように息を(吐いた


続け様にうわ言のようにつぶやく。


「八式…破瞳……」


「……」


路夏はだまって少女を見ている。


少女の目がゆっくりと開いて、視線が路夏をとらえる。


「……あなた誰です!?


少女は身構え、ソファーになっている

無数の蔓(つる)が路夏に攻撃の姿勢を見せる。


が、修羅場(しゅらば)慣れしている路夏は

毛一本震わせず明るい声で少女に話した。


「まず状況説明をするよ。

仕事中にお前が空から落っこちてきて、

助けようとしたらこうなった。

俺に敵意があるなら、

お前が目を覚ます前に始末しているだろ?」


な、と路夏は少女を納得させようとして、

返事を待たずに話を続ける。


「次に自己紹介な。俺、裁器路夏。

それで、あちらさんが俺の仕事を

邪魔してくれた殺し屋(ヒットマン)


路夏は狙撃手の方に一瞬視線をやり、

少女の薄紅色の瞳)を見つめた。


「瞳の色も妙だな……

研究所預かりだったのか?」


「いいえ。

腕と脚のソケット以外生まれつきです。

一時研究所に捕まっていたので

いいところを突いていますが」


路夏の冷静さに少女は少し気を許したようで、

を引っ込めて、地面に着地した。

ガッと足を踏ん張る


急制動でスニーカーの踵(かかと)
部分が擦り切れ、ゴムが焼けるにおいを

撒(ま)き散らしながらズササッと止まる。


だが路夏が腕を広げるよりも速く、

少女の近くにある何かがネット状に地面に伸びた。


ドフッという衝突の低い音を立て、

少女が何かのネットに不時着。


細かく絡まったそれは少女を

ゆっくりと地面に降ろした。


路夏はその変形していく細長いものを

まじまじと見つめて、正体がわかった気がした。


が、よく知っているそれとはまったく

別物なのではないか、という思いもある。


「蔓(つる)か、これ……

なんかソファーみたいになってるし……」


少女は植物の蔓で編み込まれたソファーの上にいる。


そして驚くべき事に少女の髪の色は新緑のように碧く

両腕両脚の外側にソケットのような物が

左右対称で埋まっている


「パンクか?

外国人っぽいけど、無茶な奴だな……でもこの子……


体にソケットを埋め込むなんて頭のおかしい事は、

エッジのやばい連中でもまずやらない。


が、少女の顔立ちはこれが天使のように可愛く、

背の小さい路夏より小柄で愛らしい