ゼーベック素子の片側と反対側に温度差があると、原理的には1℃の温度差でも発電する。もちろん、熱源と冷却源の二つを組み合わせて温度差を高めれば発電電力は増加する。だが問題は二つある。一つは、従来のゼーベック素子は原料にレアメタルを使用するため高価であること。もう一つは、極めて小規模な発電しか望めないことである。参考だが、約3万円の40mm×40mmのゼーベック素子で温度差が165℃の場合の発電電力は約7Wである。

だが、技術は日進月歩しており、近年ゼーベック効果で実用的な発電の可能性を示唆する研究が現れている。一つは、パナソニックが開発した「熱発電チューブ」だ。チューブの内側に温水を、外側に冷却水を通じるだけで発電する。変換効率20%の太陽電池と比較すると、面積当たり約4倍の電力を得られたという。チューブの価格は高価で即実用化できるものではないが、今後研究が進んで高性能で安価な熱発電チューブが開発されれば、工場や温泉などの温排水と雪冷熱エネルギーを組み合わせた実用的な発電も決して夢ではない。

もう一つの温度差発電新技術は、日本電気と東北大学が開発した「スピンゼーベック素子」だ。これは基材へのコーティングで製造が可能で、従来のゼーベック素子より構造が単純で高効率かつ低コストとのことだ。つまり、温度差が比較的小さくても、規模を大きくすれば廃熱を効率的に実用的な電力へと変換できる可能性がある。

他にも、アドバンス理工(株)が開発した「可搬型小型発電システム」がある。これはスターリングエンジンやゼーベック効果を用いない第三の温度差発電だ。お湯で冷媒を沸騰させて回転子を回転させ、そのエネルギーで発電するシステムだ。同社の可搬型小型発電システムは、75-100℃のお湯と5-30℃の水との温度差70℃で発電した場合、月間2000kWh程度の発電量が得られる可能性があるという。雪で温度差を大きくすれば、発電量はさらに増える。現在は実証試験機段階だが、今後の実用機開発に期待しよう。

以上三つの最先端技術を紹介したが、これらがスターリングエンジンと並んで、発電効率を上げる手段としても使われる可能性は十分ある。

大型雪室を建設すれば、豪雪地帯の冷却源は年間を通じて利用できる。廃熱や温排水は至る所に存在する。今後、研究開発が進めば、豪雪地帯の雪が実用的な電気に変換されることも夢ではない。
豪雪地帯は山林と中山間地が広がっているが、高齢化や離村や木材価格の低迷などで間伐もされず放置されている山林が多い。日本の植林地は概ね小さな山の連続で、伐採した木材を効率的に搬出するのは容易ではない。だが、広大な山林には膨大なバイオマスが活用もされず眠っている。木質ペレット発電のエネルギー収支比は、規模と何を原料とするかでかなり変動があるが、試算では3~6程度になるようである。つまり1のエネルギーを投入すれば、4程度のエネルギーが取り出せるのだ。

間伐材を木質ペレット発電燃料として積極的に大量に活用するためには、政府や自治体などが各地の森林組合や営林業者などに対して抜本的なてこ入れをする必要がある。林業従事者を大幅に増やすさなければならない。ペレットの生産量が増えれば安定的に発電燃料として用いることができる。そうすれば、雪とスターリングエンジンで発電効率を上げることになり、雪の冷熱エネルギーの利用が促進されるのだ。

ちなみに、ヨーロッパでは温室効果ガスの排出を減らすため、石炭発電所が米国から木質ペレットの輸入を始めた。米国では森林を切り払って木質ペレットを大量生産しているため、森林と野生動物を危機にさらしているとの指摘がある。木質ペレットは再生可能エネルギーだから、これを燃料として発電すれば二酸化炭素を排出したことにはならないという、歪んだ論理が自然破壊をするという皮肉な結果も生み出している。

豪雪地帯における木質ペレット発電は、大規模集中型ではなく、自然環境に配慮した小規模分散型であるべきだ。

木質バイオマスのさらなる活用をte提唱するのは、エネルギー源としてだけではなく、雪冷熱エネルギー活用だけではなく、疲弊した豪雪地帯の中山間地活性化に資するからだ。間伐材を効果的に搬出できる体制が整えば、豪雪地帯の森林を育てることにもなる。自然エネルギーの活用は、自然を育てるのだ。
雪冷熱エネルギーは冷房や冷蔵のみならず、電気エネルギーも生み出すことができる。具体的には温度差を利用した発電だ。現在の技術で効率的な温度差発電ができるかどうかは明言できないが以下、その可能性について述べたい。

スターリングエンジンは外燃機関で、熱機関の中で最も高い効率で熱エネルギーを運動エネルギーに変換する事ができると言われている。だが出力の割に大型となってしまうので、歴史は古いものの内燃機関に圧倒されてきた。しかし近年、著しい進化を見せて商用・量産スターリングエンジンが出現している。一機の出力は小さいが、並列して用いれば大きな出力が可能だ。

現在様々な企業が工場廃熱などを有効利用するため、スターリングエンジンを用いた発電に取り組んでいる。改良されたスターリングエンジンは熱源があれば十分な発電が可能だが、冷却源があれば発電効率は格段に上がる。冷却源はもちろん雪室に貯えた雪だ。

熱源としては、工場などの廃熱、ゴミ焼却場の廃熱、温泉廃湯、木質ペレット発電熱、ガスや重油などを用いた発電熱などが考えられる。これれらの熱源と雪冷熱エネルギーを組み合わせてスターリングエンジンを用いれば熱効率は非常に高くなり、廃熱を電気に変えることができる。

しかし、よほど条件が整っていないかぎり、現在の熱源の近くに雪室を建設してスターリングエンジンで余熱発電することは難しい。焼却場や熱を大量に発生させる工場や小型発電所などを新規に建設する際、合掌雪室も計画に組み入れて建設することになる。

本論文で提唱したいのは、合掌雪室を併設した新規の小規模発電所を多数建設することだ。スターリングエンジンと雪冷熱エネルギーを活用して、発電効率を高めるのだ。発電所の規模にもよるが、建物は学校体育館程度の合掌雪室となろう。地下を雪室として、地上部の建造物内に発電施設を設ける。

これらの発電施設は概ね小規模のもので、たぶん1万から数万キロワット程度でよかろう。燃料はガス、石油、木質ペレットなどで、その土地で十分供給できるものを選べばよい。こうした高効率の小型発電所を豪雪地帯に多数建設すれば広域発電ネットワークを構築できる。既存の送電ネットワークに組み入れれば電気の安定的供給に資することができよう。生み出す電気の一部は自然エネルギーを活用するもので、その意義は大きいと考える。

現在、都会ではビルの地下などでガスタービンエンジンやディーゼルエンジンなどで発電し、発生熱もお湯などにして利用するコージェネレーション(熱併給発電)が普及しつつある。発電規模は千~1万キロワット程度の小型発電所だ。発生熱をスターリングエンジンでさらに発電する設備もある。ガスタービンエンジンで発電効率23~39パーセント、総合効率で69~86パーセントが可能とのことだが、雪冷却スターリングエンジンを併用すれば、発電効率はさらに高くなるはずだ。

雪冷却スターリングエンジンで発電効率を上げる発電所は、小規模発電所に限る必要は全くない。豪雪地帯で石炭も含めた大量の燃料が安定的に供給可能な場合は、さらに大型の5万キロワット程度の発電所を建設すれば良い。この規模の発電所に雪冷却スターリングエンジンを併用するなら、雪室は東京ドーム級の規模が必要だろう。超巨大雪室の使い道はあるのだ。
豪雪地帯に住む多くの人たちは、雪は災害であり苦痛だという意識が強く、数十年前からの激しい人口流出が示すように、できれば豪雪地帯から逃げ出したいという本音を抱いている。雪は大地と空気と水を清浄にしてくれrる恵みであり、うまく活用すれば自然エネルギーとなり、観光の目玉ともなれる貴重な資源だ。「第一章 雪国住宅改造論」で述べたように、創意工夫すれば快適な居住空間も創れる。

雪国固有の風習や伝統を否定はしないが、第一章で分析したように豪雪地帯に住む人たちは、無雪地帯の生活様式や思考様式から抜け出せなかったため、合理的に雪に対処する文化を生み出せなかった。それゆえ彼らは概ね保守的であるものの、自分たちを苦しめる豪雪の土地を誇りに思っていない。

だが本章で述べたような雪冷熱エネルギーを活用した農産物等販売所兼観光施設が、遠方の多くの人呼べるとなれば、人々の雪に対する意識と自分たちが住む土地に対する意識は大きく変わるはずである。自分たちの農産物を遠方の来客が買ってくれるとなれば、農家の人たちの生産意欲も湧くだろう。通年の観光施設は新たな雇用を生み出し、また人々の交流を生み出す。

豪雪地帯であろうとどこでも、生産者は自分たちの様々な製品や農産物をあちこち遠方にも売ろうと努力する。この施設の考え方は遠方にモノを送って売るのではなく、遠方から来てもらって買ってもらうのだ。人口流出に悩む豪雪地帯で、常に人で賑わう場所は大手企業が経営するショッピングセンターくらいなもので、かつての中心市街地は閑散として寂しい限りだ。通年の来客で人が賑わう場があれば、おのずと地元の人たちもそこに足を運ぶようになる。

このような施設が多くの観光客を呼び、自分たちの産物を買ってくれるとなれば、長年苦しめてきた雪が、実は偉大な資源であることに気付く筈だ。そうすれば自分たちの土地や風土を見直し、愛着が沸くだろう。人口流出に多少の歯止めがかかるかも知れない。
雪国ではスキーやスノーボードなどによる集客や、雪像や雪上舞台を作っての雪祭りなどの観光が盛んだ。だがこれらで集客できるのは冬期のみで、地域経済に与える効果は限定的とならざるを得ない。雪祭りなどのイベント観光は投入した労力と費用を回収できるかどうかはなはだ疑問である。本章で提唱するのは雪を活用した通年の観光施設である。



前章で述べた生鮮食品貯蔵用の大型雪室は観光施設も兼ねることができる。前ページの概略図をご参考頂きたい。二階をホテル、三階を展望レストランと展望風呂としたのはあくまでも一つの例であり、施設の立地条件などにより雪室を活用した様々な形態の観光施設が考えられる。以下、要点を列挙する。

1)雪室は地階で食品貯蔵室は地階及び一階となる。一階の一部は農産物や生鮮食品などの販売所とする。雪室に貯蔵した野菜や果物や穀物などの食味は向上することが知られているため、これらを直接購入できるとなれば評判を呼ぶはずだ。

2)この施設は単なる食品貯蔵販売施設ではなく、生鮮食料品を一旦集積し、需要に応じて消費地に輸送する基地でもある。

3)雪室の雪と貯蔵中の生鮮食料品の一部は、例えば透明アクリル窓から客がいつでも見学できる構造とする。これまでの雪室にはなかった発想であり、これも客を呼べる大きな要素となるだろう。

4)一部を特別な雪室として、盛夏に客が直接雪に触れることができるようにする。猛暑時に雪室で涼み、雪に触れることだできるとなればこれも評判を呼ぶだろう。

5)冷凍庫の廃熱部を雪で冷やす構造にすれば、低電力消費の冷凍庫となる。生鮮食品に加えてさまざまな冷凍食品や冷凍肉や冷凍魚介類などを貯蔵・販売できる。

6)施設の冷房はもちろん雪室の雪を利用する。雪室の下の地中に熱交換器を埋設すれば、地中熱を取り出して冬期の補助暖房にできる。

7)屋根勾配を十七寸勾配程度にすると、建物の高さは非常に高くなる。屋根の一部にガラスか透明アクリル板をはめ込んで、最上階を展望レストランや展望浴場にすれば、観光施設としての魅力はさらに高まる。この下の階はホテルにしても良いだろう。

8)雪国の米や山菜は非常に美味しい。レストランでは薪と羽根釜炊きのご飯や、様々な山菜料理を提供すれば、これも評判を呼ぶだろう。

9)日本酒を雪中貯蔵すると芳醇になることが知られている。豪雪地帯には多くの銘酒がある。これも雪室熟成だ。

10)生ハムなども雪室で熟成させると美味しくなるようだ。雪室で美味しくなるものは何でもやってみよう。


11)この施設で貯蔵・販売する食品・農産物はすべて一定の基準を満たした無農薬・有機・自然栽培のものとするなど、遠方の観光客を引き寄せるためのセールスポイントをいくつか構築する。ここは自然エネルギーを活用した施設だ。より多くの人々が自然で健康的な食生活を享受できるようにすべきだろう。またこの観光販売所に無農薬・有機・自然栽培に取り組む地元の農家を育成する機能も持たせれば、地域振興の一助ともなる。

13)雪国の魅力的な食品・農産物などをこの施設に集積させることも重要だが、他の地方の産物も数多く取り寄せて品揃えを豊富にして魅力的な販売所とすべきだろう。

14)雪国の杉材は高品質である。観光客の目に触れる部分はできるだけ地元産の杉材を使用すれば観光施設としての魅力が高まる。地元産の木材の使用はすなわち地元の林業の育成ともなる。第二章で新月の木の優れた特性について触れたが、すべてを新月伐採の木材にすることは無理だろうが、要所要所に使用すればこれも施設のセールスポイントとなる。

雪室を観光の目玉にした施設は実はすでにある。八海醸造(株)が新潟県南魚沼市で運営している「魚沼の里」である。雪室は日本酒の熟成を目的としたものだが、見学を希望する人には雪室内を案内してくれる。販売している食品や商品も魅力的であり、かなりの観光客が訪れている。筆者が提示した観光施設の考え方とは少々異なるが、画期的な試みとしておおいに評価できる。むしろ、雪室を売りにした様々なタイプの観光施設があってしかるべきで、豪雪地帯の市や町に少なくとも一つの雪室観光施設があってよいだろう。スキーや雪祭りなどとは異なる通年の観光施設だ。
学校体育館程度のを大きさの合掌雪室を建設すれば、低電力消費で生鮮食品を大量かつ有効に貯蔵できる。しかも、前章で詳述したように様々な試験と経験から雪室貯蔵の生鮮食品は電力で冷やす冷蔵庫より食味が向上するため付加価値をつけることができる。

冷蔵保存する生鮮食品は豪雪地帯のものとは限らず、むしろ積極的に無雪地帯の産物を豪雪地帯に輸送して大型雪室に貯蔵し、需要に応じて消費地に再輸送すれば日本の生鮮食品の貯蔵と流通は一変するだろう。日本の冷蔵エネルギー節約に資するだけでなく、生産者、流通業者、小売り業者、消費者にとっても益をもたらす。現在では高速道路網が発達しているので、沖縄と南九州を除いた無雪地帯の産物を大型トラックで豪雪地帯に輸送して日帰りすることが十分可能だ。下の地図をご参考。



輸送コストは掛かるが、「はじめに」で述べたように、雪冷熱エネルギーを利用した冷蔵や冷房は、無雪地帯の約二十分の一という試算もある。効率的な合掌雪室方式ならエネルギー使用はさらに少なくなる。費用対効果については綿密な計算と評価が必要だが、大量輸送・大量貯蔵になればなるほど野菜、果物、穀物などの食品を一旦豪雪地帯に貯蔵したほうが有利になり、出荷調整にも資する。雪室貯蔵は冷蔵庫より日持ちすることが期待できるので、多くの種類の無雪地帯の農産物を豪雪地帯に貯蔵することができよう。

雪の冷熱エネルギーを利用すれば低電力消費の冷凍保存も可能だ。マイナス60℃以下の大型超低温冷凍庫の放熱部を大型雪室で冷やすのだ。メーカーに依頼すれば、このような冷凍庫の製作は簡単にできるはずだ。雪室を活用した冷凍コスト低減率は、冷蔵コスト低減率とほぼ同じになるだろう。野菜などと同様に大量の冷凍食品や冷凍魚肉類などを一旦豪雪地帯に集め、需要に応じて消費地に再輸送するのだ。冷凍品は冷蔵品より長期の保存が効くため、雪室冷凍はコスト面でも有利となる。先の豪雪地帯を示した図を見れば、長期間冷凍保存が可能な魚介類は、北海道から北陸までの豪雪地帯の雪室冷凍庫に一旦貯蔵すれば出荷調整などでも有利になるだろう。

以上のような大規模冷蔵と大規模冷凍は、国家的な食糧備蓄戦略としても有効に機能しうる。野菜や果物の有効冷蔵期間は比較的短いが、穀物は食味をさほど落とすことなく長期間の保存が可能だ。穀物の効果的な雪室冷蔵を研究すれば、数年の貯蔵なら熟成を期待できるだろう。特に米の戦略的備蓄には有効だ。大型超低温冷凍庫による魚肉類や冷凍食品も国家的食糧備蓄戦略の対象とすべきだ。電気に頼る冷蔵は、大災害などで長期間の停電に見舞われれば、冷蔵品は廃棄処分の憂き目を見る恐れがある。雪室冷蔵ならその恐れはない。

平成24年7月、「アセアン+3緊急米備蓄」の協定が発効した。これは東アジア地域13国の食料安全保障の強化と貧困の撲滅を目的とし、大規模災害等の緊急事態に備えるための米の備蓄制度である。協定における日本のイヤマーク備蓄は25万トンである。この制度の備蓄米は倉庫会社や商社などの倉庫に貯蔵されるのだろうが、将来的には大型雪室に備蓄すれば、長期間食味を落とさず備蓄でき、また冷蔵電力を大幅に節約できる。

冷蔵及び冷凍のための大型雪室を多数建設すれば、豪雪地帯は雪冷熱エネルギーを活用した生鮮食品や穀物や冷凍食品などの集積基地となり、日本の食品・食糧流通形態を大きく変えるだろう。流通大手企業や穀物取り扱い大手商社などが雪の冷熱エネルギー活用の有利さを認めれば、「初めに」で述べた東京ドーム級の雪室建設に乗り出すかも知れない。いや、政府が支援して超大型雪室の建設を促進すべきだ。この規模の雪室は合掌雪室では背が高くなり過ぎるので、別の形態となるだろう。屋根の雪は地下の雪室に落下させ、かつダンプカーで雪をどんどん運び込むのだから、ドーム型かかまぼこ型が適しているかも知れない。

大型冷蔵・冷凍雪室が増えるに従い、豪雪地帯の雇用は増え、道路は整備される。「初めに」で指摘した日本の偏った人口分布と産業配置是正に貢献できるだろう。道路が整備されれば除雪量は増える。除雪した雪は大型雪室に運び込めば良い。これが建設的かつ生産的な除雪だ。

豪雪地帯が食糧集積流通基地として整備されるに従い、業務に従事する人たちの移住が増える。合掌雪室住宅に住んでもらえば、冬期でも無雪地帯と同様の快適な生活を享受できよう。
第一章で提示した合掌雪室住宅をそのまま大型にすれば、様々な用途の雪室にできる。下記の概念図をご参照。冷蔵貯蔵用のみならず、学校校舎や体育館、様々な公共施設や企業の社屋や倉庫や工場などに採用可能だ。冷蔵に重きをおいた雪室でも、冷房に重きをおいた雪室でも、あるいは両方を目的とした雪室も可能だ。学校校舎や体育館を合掌雪室方式にすれば、児童生徒のための夏期の健康的な冷房に活用でき、子供たちは猛暑時に雪で遊ぶこともできる。



大型合掌雪室建築の屋根勾配は10~17寸程度とするのが適当だろう。5~6寸勾配でも雪は落ちてくれるが、落雪が遠くに飛ぶため、急勾配屋根で建物のすぐ脇に落雪させて雪室に落としたほうが良いだろう。10寸勾配程度なら二、三階建て、17寸勾配程度なら三、四階建ての建造物になろう。屋根からの落雪を直接地下に貯める大型雪室なら、雪室への雪投入エネルギーは大幅に減少し、かつ冷房・冷蔵に要していた電気代ほぼゼロになる。

大型合掌雪室は小雪の年の場合、周囲の雪を投雪機で投入すれば何の問題もない。個人住宅の合掌雪室なら内部の雪を人力でならすことは簡単だが、大型合掌雪室の場合はブルドーザーなどで雪をならす必要がある。排気ガスを雪室内部で出さないよう、ならすための重機は電動にしなければならない。

下の写真は豪雪地帯のある小学校校舎で、落雪屋根となっている。豪雪地帯の多くの学校体育館は写真のような形の落雪屋根を採用している。一般的な学校体育館の屋根面積が1,000平方メートルとすると、積雪深2メートルの時の雪の重量は、1,000×0,9トン=900トンである。積雪深が3メートルの場合は約1,350トンにもなり、日本最大級の雪室の貯雪量に匹敵する。この規模の建造物を大型合掌雪室にすれば、重機で雪を集めて投雪機で雪室に押し込まなくとも、膨大な雪を貯えることができる。



雪1トンは石油10リットル相当の冷却エネルギーに相当するので、1,350トンは13,500リットル分もの石油となる。200リットルのドラム缶に換算すると67個だ。1リットルが100円とすれば、1,350,000円となる。だが、豪雪地帯の学校体育館の屋根から滑り落ちる大量の石油はまったく利用されていない。

大型建造物を合掌雪室にした場合、冷房・冷蔵に必要な電気代が不要となるだけでなく、もう一つ重要な利点がある。鉄筋コンクリートの大型建造物でも積雪深が3メートル近くになると通常は屋上の雪下ろしが必要となる。もちろん耐雪設計になっているが、建設費用がかさむため、積雪深3メートル程度の荷重に耐えられる設計にはしていないようだ。そこで安全確保のため屋上の雪が規定重量を超えたら雪を下ろしをするのだ。例えば、千平方メートルもの屋上の雪を人力で下ろすことはほぼ不可能で、クレーンで投雪機を何台か屋上に吊り上げての作業となる。千平方メートルの屋上なら、この雪下ろし作業のための費用は二百万円近くになるはずだ。大型合掌雪室建造物ならこのような費用は一切発生しない。

下の写真は平成26年冬の豪雪地帯の某市役所。撮影時には積雪深が2.5メートルを超え、担当課職員によると雪下ろしを検討しているとのことだった。左隅も市役所の建物で、こちらはすでに雪下ろしをしたとのことだ。屋上に上げた投雪機で雪を投げ落とすだけではなく、駐車場を確保するため地上でも重機による除雪作業が必要である。無雪地帯の鉄筋コンクリート建造物の概念をひきずっているがゆえに、豪雪地帯でこのような建造物にして雪下ろしと除雪に多額の費用をかけるのだ。ちなみに撮影時点の本庁舎屋上の雪重量は推定で約千トンで、この冷熱エネルギーを石油に換算すれば、200リットルのドラム缶で50個だ。



以下で述べることは科学的理論では説明が困難な事象に関してであり、あくまでも私見であることをお断りしておく。だが、条件を整えた比較による実証は可能である。

冷蔵庫貯蔵の生鮮食品は低温にも関わらずさほど日持ちしない。低温下でも黴が生えたり、腐敗したりする。湿度が低いだけでなく、冷蔵庫という特殊な環境が原因ではないかと考えている。一つは、電磁波の食品に対する悪影響である。筆者が自宅の冷蔵庫の電磁波を測定したところ、モーターが動いていなくとも通電しているだけで、冷蔵庫の中も外も強く電磁波に反応した。冷蔵庫をアースしたところ、電磁波反応はまったくなくなり食品も日持ちするようになった。ただし、日持ちの改善に関しては厳密に比較したわけではなく、あくまでも主観的なものである。

他にも、冷蔵庫内部を覆うプラスチック素材が食品に悪影響を及ぼしていると推測している。プラスチックは経年劣化しつつ、有害物質を排出しているとの指摘がある。有害物質の発生量はごく僅かでも、密閉された冷蔵庫内では生鮮食品に対する悪影響は無視できないはずだ。冷蔵庫内に悪臭がこもりがちなのは、劣悪な環境によるものだろう。このような環境下で生鮮食品を健全に保存できるとは思えない。冷蔵食品の日持ちの悪さを改善するため、メーカー各社はマイナスイオン発生装置を取り付けるなどの工夫をしているが、電磁波と内壁素材の問題には気付いていないようだ。

人間の住居の内装を壁も天井も床もすべてプラスチックにし、電磁波を充満させたらどうだろう。このような住宅は誰もが不健全であると直感する。この不健全な住環境にマイナスイオン発生装置を導入しても改善はほとんど見込めないはずだ。家屋の内装には誰もができうる限り自然素材を使いたいと思うだろう。だが、人間の生命を養い、生きている生鮮食品の保存については無頓着であると指摘しておこう。誤解を恐れずに言えば、電磁波もプラスチック素材も生命エネルギーに悪影響を与えるのだ。

一方、雪室では冷蔵庫のような電磁波による悪影響はないものの、有害物質による悪影響は否定できない。コンクリートから発生するアクと、断熱材とそれを覆うプラスチックボードの経年劣化に伴う有害物質の発生である。だが雪室では、大量の雪がこれらの有害物質を吸収してくれるので、冷蔵庫よりはるかに生鮮食品などにとって健全な環境が作られているはずだ。雪室建設にコンクリートと断熱材の使用は不可欠だが、断熱材を覆う素材は杉などの板のほうがより健全な環境を作り出すのではないか。健康住宅ならぬ、健康雪室である。以上はあくまでも推測だが、生鮮食料品などを日持ちさせ、食味をhより向上させるための冷蔵庫や雪室の素材も研究すべきだろう。

話題は若干逸れるが、新月伐採の木材がある。木が休眠期に入った11、12月の下弦から新月に至る期間に伐採された木は、良質の木材になる。「新月の木」は、腐りにくい、反りにくい、虫がつきにくいなどの特徴があり、健康的な住環境を求める人たちのあいだで注目されている。

新月の木について静岡理工科学大学物質生命科学科の志村研究室が興味深い実験を行なった。以下の写真をご覧頂きたい。(写真が不鮮明だが、同大学の志村教授から鮮明な写真が届き次第、差し替える予定)




プラスチックのタッパーを四つ用意し、
A プラスチックそのままま。
B 内部の底と側面3カ所を合板で被った。
C 内部の底と側面3カ所を人工乾燥の普通の杉板で被った。
D 内部の底と側面3カ所を新月の木の杉板で被った。

これら四つのタッパーに湿らせたパンをいれて蓋をして2ヶ月おいたところ、新月の杉板のものは黴がほとんど発生しなかった。プラスチックそのままのものはパンが原型をとどめないほど黴が発生し、合板は人工乾燥の杉板より黴の発生が多かった。

この実験は、食品の健全な保存環境構築に関して重要なことを示唆している。一つは、冷蔵庫内壁のプラスチックが食品に悪影響を与えているのではないかという先の指摘が実証されたようだ。もう一つは、新月の杉板には黴の発生を抑える何らかの成分が含まれていると推測されるが、他にも場のエネルギーを高める働きがあるのではないか。

雪室が野菜などの食味を向上させ、日持ちさせる機構はすでに述べた。またこのことは経験的にもほぼ実証されているが、場のエネルギーも一つの重要な要素になっていると推測している。雪室の中の膨大な量の雪という自然素材が場のエネルギー改善に関与しているとのではないか。これについては、科学的な証明は困難だが、温度と湿度を同等にした雪室と冷蔵庫で、野菜などの日持ちと食味の変化を比較すれば、経験則としての場のエネルギーの関与を傍証できるに違いない。
最適な雪室貯蔵条件を探るための資料として、以下に農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所が公表している「野菜の最適貯蔵条件一覧表」を示す。




以上の表を見ると野菜などの最適貯蔵条件は実に様々であることが分かる。どのような種類のものを貯蔵するかで異なるが、大型の雪室を建設する際は例えば、0-4℃、5-9℃、10-15℃など、温度と湿度が異なる3~5種類の貯蔵庫を備えたものにすべきだろう。あくまでも推測だが、雪室で最適貯蔵条件を整えれば、野菜茶業研究所の表より2、3割は日持ちするのではないか。雪室貯蔵が非常に有効であることに疑いはないが、公的機関によるさらなる詳細な試験・実験が必要である。

野菜類のみならず、豪雪地帯各地において雪室貯蔵で日本酒やリンゴやレモンや肉を熟成させる試みが各地で行なわれている。他にも、食味向上による付加価値の創出、種子の発芽調整、花卉の開花調整、出荷調整による利益確保などを目的とした雪室も作られている。貯蔵用大型雪室が普及すれば、農産物生産者や流通業界のみならず、消費者にも益をもたらし、その経済効果は非常に高いと考える。
ほうれん草や小松菜などに寒締めという栽培方法がある。収穫前のほうれん草に一定期間寒気に当てると、ほうれん草自身が糖度や有用成分の濃度を上げて凍結から身を守る。東北農業研究センターの試験結果では、普通栽培のほうれん草に比べて糖度はほぼ二倍、ビタミンCやカロテンやビタミンEも増加し、一方、シュウ酸、硝酸は増えず、むしろ低下したとのことだ。また、ニンジンを秋に収穫せず、雪の下にして4月頃に除雪して収穫する雪下ニンジンがある。普通栽培のニンジンより糖度が2度ほど高くなり、甘みやうま味を感じる成分であるアスパラギン酸、グリシン、セリンなどのアミノ酸の含有量も増加するとの試験結果がある。

雪室貯蔵の野菜などは、すべての種類ではないが、様々な試験と実験から糖度が上がり食味が向上することが知られている。野菜は収穫後も生きているのだから、寒締め同様、凍結から身を守るための生理機構が働くのだろう。加えて、雪室内の適度な冷気と湿度が劣化を防いでくれる。

余談だが、筆者は酸素を断ち、常温で光が僅かにあたる環境で白米を4年ほど貯蔵したことがある。炊くと新米特有の香りはないものの、食味も香りも劣化したとの感じはなかった。コーヒー豆でオールドビーンズと呼ばれるものは、通常3年以上熟成させる。付加価値をつけるために10年以上熟成させる豆もある。日本人の新米信仰は非常に根強いため、収穫から一年経過したものは古米となり、商品価値は下落する。米はコーヒー豆のように熟成するのかしないのか、研究する価値はあると考える。雪室内の適度な低温と湿度に加えて、酸素遮断環境下なら米も熟成するのではないか。

以下、新潟県高冷地農業技術センターによる雪室貯蔵と冷蔵庫貯蔵の野菜などを比較分析した結果を引用する。

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◯ばれいしょ(品種:きたあかり,貯蔵期間:約3ヶ月):外観品質は冷蔵庫貯蔵と同等である。萌芽は5ヶ月目まで確認されないが冷蔵庫貯蔵では3ヶ月目から確認される。遊離糖含量は5ヶ月目に貯蔵開始時の約10倍に増加し、冷蔵庫貯蔵よりも多い。

◯にんじん(品種:はまべに,貯蔵期間:約3ヶ月):外観品質は3ヶ月目まで腐敗等が少なく、一部に芯白や素空きがあり出荷不可品率は約2割で冷蔵庫貯蔵では約4割である。遊離糖含量、遊離アミノ酸は冷蔵庫貯蔵との違いは見られない。

◯かぼちゃ(品種:坊ちゃん(小玉),貯蔵期間:約1ヶ月日):外観品質は1ヶ月目までは障害の発生はなく、冷蔵庫貯蔵と同等である。遊離糖含量、遊離アミノ酸は冷蔵庫貯蔵との違いは見られない。

◯ねぎ(品種:夏扇,貯蔵期間:予冷、保冷等短期間冷却):重量減少率は雪室貯蔵で冷蔵庫貯蔵より緩やかである。

◯日本なし(品種:新高,貯蔵可能期間:約1ヶ月):1ヶ月目までは果皮色の変化がほとんどなく、カビの発生も見られない。糖度(Brix)は冷蔵庫貯蔵と変わらない。

◯玄米(コシヒカリ,試験貯蔵期間:約12ヶ月):香り・味の低下は少ない。12ヶ月程度の長期貯蔵の炊飯の総合評価は低温貯蔵と同等である。

◯味噌(熟成具合が中庸な越後味噌,試験貯蔵期間:約12ヶ月):官能評価は冷蔵庫貯蔵と同等である。遊離アミノ酸、有機酸及びグルコースは冷蔵庫貯蔵と同等である。
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分析の[要約]では、

「雪室貯蔵したばれいしょ、にんじん、日本なし、玄米、味噌等の品質は冷蔵庫貯蔵と同等あるいはそれ以上となる事象もある。」

と述べている。以上は種類ごとの貯蔵適温や湿度は考慮しないで、2-5℃の雪室に一律に貯蔵した結果を分析したものだ。野菜などはそれぞれ最適貯蔵条件が異なるので、条件を整えた雪室で貯蔵すればさらに良い結果を得られるのではないだろうか。

新潟県の分析では、米の貯蔵に関して特に食味が向上したとの結果はみられないが、山形県飯豊町の調査では、下記のように成分分析と官能試験共に好成績を示している。