「まずターゲットね。」

「もともとは保険を使って訪問鍼灸やってましたよ。往診クリニックの先生が東洋医学に理解があって協力してくれてたんです。先生の鍼がないと長生きできないなんて言われて有頂天になってましたけどねー。」

遠くを見ながら話す俺の話を遮ってメアリーが言った。

「じゃあ、あんたのターゲットは高齢者なの?他の治療家と同じじゃない。」

「いやー、限界でした。保険者はどんどん保険を切っていく方針みたいで、N市の担当者なんて色々理由をつけては呼び出してきてやり直し。往復のガソリン代のほうが施術費より高かったなんてこともありました。I市の山の中に依頼されて往療に行っていた時も実際の距離は8kmでも直線距離で支払うなんて時代錯誤な法律で実質カットでした。最近じゃ病院でも湿布は何枚までなんて制限かかってますからね。医療費は抑えようとしているのに調子が悪くなったらテメーでなんとかしろってのが見え見えですよね。」

「ストーーーップ!愚痴を聞きたいんじゃないよ。一部の人間が法の抜け道をかいくぐって金儲けしてきたのは事実なんだから自業自得と言われても仕方ないのよ。そんなことより、この超高齢化社会で年金もどうなるのか先が見えない中で、あんたら治療家だかセラピストだかはどうやって生き残っていくわけ?」

「、、、。」

「これまで通りに高齢者を対象とすんの?良くなるの?年金を握っているのはお嫁さんよ?保険者は出し渋ってるのよ?」

俺はある時点から気になっていたプランを話始めた。

「僕が看護師よりもヘッドマイスターとして生きたいと思ったのは、、、」

遺跡の発掘をしていた時に一緒に働いたシルバーさん達の面倒を見るのは自分だと気付いて看護学校を受けた事、看護に熱くてがんセンター入職時に一番大変な部署をお願いしますと頼んで肺癌病棟に配属された事、受け持ちの患者さんを何人も看取って燃え尽きた事、次の病院で同僚とうまく行かなくて看護師が嫌になってしまった事、看護師をやりながら夜学に通って鍼灸師の資格をとった事、東洋医学の素晴らしさに気付き色々勉強した事で【未病を防ぐ】と言う教えを知った事を全て話した。
その上で、看護師と言う職業の偉大さと難しさとせつなさを全て経験した自分が、今まさに医療の現場で頑張っている人達のサポートに回りたいというプランも話し終えた。

黙って聞いていたメアリーが静かに口を開く。

「それでいいわ。あんたの上から目線での施術なんて誰も受けたくなかったのよ。看護師の俺がやってやってるんだから効くに決まってんだろ的な態度じゃ、ホテルもゴルフ場も要らないって言うに決まってるわ。サポートっていい言葉よね。医療関係者だけでなく、頑張ってるお母さんや企業戦士、アスリートのサポートもいいじゃない?治すんでなくて、その人の治ろうとする力をくすぐってあげるのね。オッケー。1つ目の課題はクリアね。」

言い終わらない内に腹減った腹減ったとつぶやきながら休憩室に消えていった。