いつも寄り添って育ってきた💓
それからは大学病院と自宅治療に明け暮れる毎日が続いていた。
大学病院ではMRIやCTスキャン,血液検査など原因が掴めそうなものは全て試してみたが結果はいつも同じで様子を見ましょうという事だった。
その頃には四十六キロあったチモの体重は三十二キロに
まで減ってしまっていた。
相変わらず食欲の方は前と
変わらないので安心していたのだがやはり運動も出来ず
一日中家のベッドの中で過ごす事は動物にとっては最も苦痛が伴うストレスになっていったに違いない。
そして何よりもまず奴にとっての苦痛は思ったようにオヤジの元へ近づいていけない事ではなかったかと思う。
奴は必ずオレが床でゴロゴロしている時は傍にやって来てオレの腰の辺りか胸の辺りにその巨体を
”ドカッ!”という
音と共に横たえてうたた寝するのが好きだった。
俺が体を移動するとその後を追うように必ずついて来ては
同じポジションを取るのだ。
暑い時などはオヤジに、
「あんまりくっつくなよ!あちいだろチモ!」
とオレが足でグイグイ蹴飛ばしても少し離れたポジションでオヤジの顔を見ながらその暑い息をハアハアと首筋あたりに吹きかけるのも日常の風景だった。
だが今はそんな事も奴は自由に出来なくなってしまったのだ、、、
そして昔のようにオヤジの仕事場に遊びに行ったり、
海で砂まみれになったりハーレーのミーティングに行ったりする事も出来なくなってしまった。
奴と出掛けると必ずそこで色んな出会いに遭遇した、
そして色んな人と仲良くなって友達の輪が広がりとても
楽しいひと時を過ごせた。
そこでは必ずと言っていいほど、
「デッカイですねえ!この犬はなんて犬種なんですか?」と聞かれる。
「ロットワイラーというんですよ」とオレ。
「ロットワ?ん?」と相手の人。
当時はあまりポピュラーでないので知らない人は言っても最初はピンとこないようだ。
なのでオレは
「チモっていうんですよ」というと。
「チモちゃんですか?大きくておとなしい子ですねえ」
と頭を触られるとあのシャモジのような舌でベロベロ相手の手を舐めまわす。
と頭を触られるとあのシャモジのような舌でベロベロ相手の手を舐めまわす。
相手にワンコがいればチモは、
「こんにちは」
とでも言うようにその子にあわせて”伏せ”の姿勢で挨拶をしてやる。
とでも言うようにその子にあわせて”伏せ”の姿勢で挨拶をしてやる。
そんな感じで知り合って今でも友達関係を続けている人達は沢山いる。
多分オレ一人だったらこの風貌では誰も相手にしてくれなかったと思うし
オレが相手だったら、
「なんか柄の悪いデカいオヤジがいるなあ」くらいにしか
「なんか柄の悪いデカいオヤジがいるなあ」くらいにしか
思わなかったのではないかと。
だからそんなオヤジに代わってチモはいつも親善大使の
ような役割をしてくれていたような気がする。
話を治療に戻そう。
チモの体の具合は日に日に目に見えて悪くなっていったようである。
オレは必死であったので周りから見ると奴の体は二周りくらい細く小さくなっていたようだ。
オシッコも脚の麻痺のせいで自分でコントロール出来ないので子供用紙オムツを改良してベルトで巻いて漏らさない
ようにはしていたが、
水をいっぱい飲んだ時などは
紙オムツの容量がいっぱいになり漏れ出てくるのでタオルで押さえながら外に担いでいった。
ベルトを外した途端、
「シャーッ!」
と勢いよくオシッコが流れる。
濡れた股をタオルで拭きオムツとベルトをまた着けて
居間へ抱えて連れてくという毎日だった。
面倒臭いと思った事は何度かあったが奴が仔犬の時に戻ったようで懐かしくもあったしこの巨体を支えて外に連れ出すのはオレしか出来なかったのである。
チモも自分の体がいう事をきけば好きな時にオヤジの上
に乗っかったり遊んだり出来るのにそれが今は出来ない
もどかしさにストレスを感じているに違いない。
だから部屋の中にいる時はなるべく奴の改良ベッドの中
に入って一緒に付いて話をするようにしていた、
そんなオレの行動を娘は見ていてたのかヨチヨチ歩きで
サークルに近づいてきては、
「あーあーダダッ!」としきりにチモの頭を撫でようと手を伸ばす。
サークルを開けてやるとチビは中に入ってきてチモの顔や耳を無造作に掴んで持ち上げるがチモはなすがままにされている。
小さなその手を優しくペロペロ舐めながら目を細めて団子
のような尻尾を軽く振ってゴロンと横になる。
チビがチモによじ登っても目を閉じて寝てしまっても奴は
起こしちゃいけないと思ってるのか身動き一つせずチビが
起き出すのをじーっと待っている。
こんな光景がこれからもずーっと続いてくれたらどんなに
幸せな事だろうと思いながらオレの心は低く垂れこめた
雲のように少しどんよりと重い気分に支配されていくのだった。
もうすぐみんなでキャンプだ!
俺はチモもキャンプに連れて行く事にした。
チモも毎年楽しみにしているから気分を変えてキャンプに
備えて治療に専念してやろうと重い気分をぶっちぎるよう
にオレはチモを撫でている手に力が入っていくのを見つめていた。