私は沢山コンプレックスを持っている。


  恐らく他人に話せば「そんなこと気にしているの?」「全然そんなことないように見えるよ」と言われるだろう。でも私にとってはコンプレックスだし、所詮は無い物ねだり。誰がどう言おうと、私にとっては嫌なことだ。



  忘れもしない高校1年生の時。私はとある学校のプログラムで、夏休みの間にアメリカ(西海岸)に行くことになった。旅行というより約2週間の語学研修で、海外の文化に触れる、ネイティブの英語に触れる、といった趣旨のものだ。蕁麻疹が出そうなくらい英語が苦手な私は、親に散々言われ、行きたくもない人気なプログラムを申し込み、抽選になったら他人に譲ろうと思っていたのに、見事定員割れで行けることになってしまった、というオチである。行くまで本当に憂鬱だったし、実際海を渡ってまで行って得たものは、他所の家での躾を目の当たりにし、レベルの低さを感じたことだけ。嫌な気持ちは最後まで晴れることはなく、結果的に行かなければ良かったと今でも思っている。


  そんなことはさておき、あくまで高校のプログラムなので、夏休みとはいえ、アメリカの学校へ通い、語学の勉強をしながら、ショッピングに行ったり観光をしたり、ということをしていた。それぞれが住まわせて貰っているホストファミリーに感謝の気持ちを伝えるためにも、語学研修最終日には、ホストファミリーを学校へ招き、日本文化を発表する、というものがあった。


  その発表にあたり、日本文化に触れるという意味でも、浴衣を持ってこいという指示があった。私は自前の(安物ではあるが)浴衣を持っていき、ホストファミリーに(当時)7歳の女の子がいたことから、最終的にはその子供にあげようと思って用意していた。


  最初に断っておくが、私は昔から日本の文化が好きだ。服の中では着物が世界で1番美しいと思っているし、四季を感じられるということは、日本という国において最も誇るべきことの1つだと思っている。桜が好きだし、紅葉も好き。風鈴の音色も好きだし、雪も綺麗だと思う。話の内容はともあれ、源氏物語は日本文学史上、最も素晴らしい物語だと私は思っている。

  そんな私だったからこそ、学校行事で浴衣を着られるということが本当に嬉しくて仕方なかった。全然乗り気ではなかった海外研修も、浴衣が着れるなら…と、それだけを楽しみに最終日まで頑張った、と言っても過言ではない。


  事件はその最終日に起きた。


  その日もホストファミリーに車で送って貰い、学校に到着して発表の準備を進めた。もちろん高校のプログラムだったから、高校時代の同級生たちが一緒にいた。ホストファミリーが来る直前に浴衣に着替える、という話だった気がする。みんなでいそいそと着替え、準備をしていた。中には浴衣の着方が分からないという人もいて、それは実家で練習してから来いよ…と思いつつも、浴衣を着てご機嫌だった私は、複数人の着替えを手伝っていた。


「わぁ、○○ちゃん可愛い!」「□□ちゃん似合ってるね!」みんなの着付けが完了する度に、そんな声が聞こえ始めた。

  そりゃ当然でしょ。だって浴衣だよ?可愛くないわけがない、美しくないわけがない。


  だけど、当時友人たちが私に掛けねてくれた言葉は、可愛いでも、似合ってるでもなかった。


  「なんか普通だね」

  「浴衣の方がしっくりくるね」

  「洋服が似合ってないんじゃない?」


  当時の私は、その時どんな反応をして、どんな言葉を返したか覚えていない。彼女たちに悪意は全くなかったはずだ。彼女たちは冷静に、私の浴衣姿を評価してくれたはずだ。もしかすると、彼女たちにとっては最大級の褒め言葉だったのかもしれない。だけど当時の私は、他の子たちみたいに「可愛い」とか「似合ってる」とか、そういう言葉が欲しかった。


  それから私は、服を選んで買うことが怖くなった。私には洋服は似合わない。そんな呪いがかかってしまったように思う。


  とはいえ、着物で日々過ごすこともない。着物は美しいが値段が高い。そんな頻繁に買い換えられるものではない。消耗品の洋服とは違う。だから今でも普段着は洋服だ。それでも、私には自分に似合う洋服も、普通と言われるコーディネートも、最近の流行も、全く分からないし自信が持てない。何せ私は「洋服が似合わない女」だから。



  話は変わるが、今度旅行でディズニーランドに行くことになった。大阪から行くから荷物もそこそこある。なるべく服はかさばらないものにしたい。そうだ、ワンピースなら上下の組み合わせを考えなくてもいいし、畳む服も1着だから楽なんじゃないか?そうだ、ワンピースを買おう。

  そう思ったのも束の間、以前友人に教えてもらったショッピングサイトを見たが、どれもしっくりこない。そもそも試着出来ないのが難点だと思う。サイズが分からない。素材(手触り)が分からない。自分に似合うかどうかも分からない…。


  10分ほど閲覧したところで、疲労感が勝って購入を諦めた。しばらくしてもう一度閲覧して、あれやこれや悩み、友人の助言を得て、やっと昨日購入の手続きをした。届くのかも自信が無いし、サイズが合わなかったらと思うとメンタルに来るものがある。自分の興味のない分野(服)において、時間も金も労力も掛けたくない。


  これだからファッションセンスがないと困る。


  今日は旅行までに服が届かないこと・サイズが合わなかったことを見越して、恋人と一緒に服を見に行く予定だ。自分の苦手な分野で恋人に時間を取らせ、付き合ってもらうことも申し訳ないとは思うが…、恋人のファッションセンスに掛けたいと思う。