ノボの気儘な音楽トーク 19号: 吉田秀和が語ったベートーヴェンその9 | 生き活きノボのブログ

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 前回に引き続き、4回目の放送で吉田秀和が語ったベートーヴェンの弦楽四重奏曲を中心とする室内楽について書きます。 3つ目は、1989年4月2日放送で取り上げられた『ヴァイオリンソナタ第5番〈春〉』作品24です。ベートーヴェンが31歳の時に書かれたが、彼は、同じ編成の音楽を2曲同時に書き進めることがよく見られ、短調と長調の音楽を書くという。作品23のヴァイオリンソナタがイ短調であるのに対し、作品24の『春』はヘ長調である。“スプリング・ソナタ”というあだ名があるように、流れるような、穏やかな、伸びやかな音楽であり、よっぽどベートーヴェンは伸び伸びとした気分だったのだろう。『クロイツェルソナタ』と並んで人気があり、僕もこの曲が好きだ、と吉田は語る。この『第5番〈春〉』は、珍しく4つの楽章からなっており、第2楽章は短いけれども、ヴァイオリンとピアノの対話と変奏、それが実にきれいで知的であるという。もっと聞きたい、惜しいという余韻が残ると語る。放送では、ヴァイオリンがパール万、ピアノがアシュケナージの演奏で第2楽章が流されました。 4つ目は、1989年10月15日放送で取り上げられた『弦楽四重奏曲第8番〈ラズモフスキー第2番〉』作品59-2です。ベートーヴェンが36歳の時に書かれたが、1807年2月の初演後の音楽新聞に、「ロシア大使ラズモフスキー伯爵のために書いた、大変長くて、難しい曲であり、注目を集めているが、普通の人達には分かり難いだろう。しかし、音楽に素養のある人、専門家には新しい音楽としてその素晴らしさを評価するだろう」旨の記事が載ったという。吉田は、初演を聞いてすぐにこう書くのだから、当時の批評家は聴く力がかなり高かったと思われ、自分にはなかなか出来ないが、そうありたいと語った。現代音楽を初演で聴いて、それを200年後の人々が感心するような論評は、確かに難しいでしょうね。吉田は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲ばかりでなく、弦楽四重奏曲全体の歴史の中で、ラズモフスキー弦楽四重奏曲は、金字塔、記念碑的、歴史的な事件であり、規模が大きく、内容も深く、充実したものであり、弦楽四重奏曲を室内楽の中心と考えさせた点でもすごいという。放送では、メロス弦楽四重奏団が演奏する第2楽章が流されましたが、音楽は、細密画を見るようで、抒情的な美しさもあり、と言っても形も堂々としています、と吉田は語りました。 5つ目は、1989年12月10日放送で取り上げられた『チェロソナタ第3番』作品69です。ベートーヴェンはチェロソナタを5曲しか書いていないが、若い時に2曲、脂の乗り切った中期(37~38歳)に『第3番』、晩年に2曲書いていると語る。これ以上ないくらいに創造力が高まっていた時、胸のすく、爽やかで豪快な、そして大きさの点で、チェロソナタの歴史の中で、第一等の地位を占めるという。放送では、ヨーヨーマのチェロ、アックスのピアノで演奏された第1楽章が流されました。(平成27年8月26日)