真っ赤になるまで熱せられた鉄印の先が腕の皮膚に触れた途端、私は叫び声をあげた。

「5190、お前の新しい名前だ」

感情を見せない声音で頬に大きな傷跡のある男が言った。右手に持っていた焼き印は暖炉の中に無造作に突っ込まれていた。赤々とくねる炎は咀嚼するように薪を軽く弾けさせながら熱を感じさせた。それは私の腕の灼熱感をことさら酷く辛いものした。

泣き喚き、暴れてしまいたかったが堪えるしか術はなかった。なぜなら目の前の男は私のそんな姿に同情することはないし、かえって状況を悪くするようにしか思えなかったからだ。男に「わかりました」とだけ、伝え痛みには歯を噛み締めながら耐える。

私にはそれしか許されていなかった。



川上に追い立てられるようにして、居住性を設計思想に組み込まれたやけに胴長な黒塗りの車へ乗りこんだ。

敷地内を五分程で抜ける。視界の端の車窓から、下校途中らしき小学生がランドセルを地面に置き、電柱の前でじゃんけんをしていた。
微笑ましい光景に私は少しばかりの憧憬を抱く。数瞬あとには仲の良い少年達は消え、車窓はまた別の日常を切り取っていた。

目を伏しながら目端でそれを捉えた従者長は、苦虫を潰すように私に告げた。

「先程のお嬢様に伝えずにいた事を話しましょうか。あと半日以内に人類は滅びるでしょう……。子供も大人も、男女問わずほぼすべて。お嬢様に急いでいただいたのはそのためです」

一瞬思考を止めて、四月一日ではないことを確認しつつ、川上の瞳を覗き込む。嘘をついている顔ではない。

なぜ、と問いだけな私を見て川上は話を続けた。

「世界中に人類が消滅する程の何かがまかれる。核ではなく、最近ある宗教国家が開発したものだそうですが、私やお父上にわかっているのはそれだけです」
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専属の家庭教師から人を殴殺できそうなほど大量の宿題を出されて、自室に引きこもって流れ作業でこなしていた時のことだ。ドア越しに廊下をいつになく慌てたように駆ける音が響いてきた。

本来なら従者長に叱責されるべき騒音が許されていることが不思議だった。

新人だろうか。しかし、新人だろうが屋敷に無用な雑音を広げることは許されない。

篠崎家の雇う使用人も質が落ちたのかと思うと嘆かわしい。
嘆きが怒りに変換されるのには大した時間はかからない。

私は課題の多さからくる苛立ちも相成って注意もとい八つ当たりのために席を立つ。黒く重厚な木製のドアへ向かい、取っ手に手をかけようとした。瞬間、力強いノックが向こう側からドアを鳴らした。

「お嬢様、失礼いたします。唐突ですがご避難の用意をお願いします。理由は追々説明いたしましょう。お急ぎを」

ドアを開いた足音の主は白髪を短くまとめ、燕尾服に身を包んだ初老の男性、従者長の川上であった。いつも冷静な川上にしては珍しく息を切らし、顔は蒼白に染まっていた。