『桜花舞う空を見上げて』



*主な登場人物*


桜井春香(20歳。この物語の主人公で時空の旅人)

実家の呉服屋を継ぐ。両親の影響で小さい頃から嗜んで来た剣道と、新選組を敬愛している。男勝りで、曲がったことが大嫌い。誰とでも仲良くなれるさばさばとした性格。


結城翔太(21歳。時空の旅人)

大学生。主人公と同じく剣道の現役として活躍しながら撃剣師範も務めている。頭の回転が速く、面倒見の良い性格。



<新選組>


近藤勇

土方歳三


芹沢鴨

山南敬助


沖田総司

永倉新八

斉藤一

井上源三郎

藤堂平助

原田左之助


山崎烝

島田魁


佐々木愛次郎

馬越三郎

馬詰柳太郎

山野八十八

楠小十郎


市村鉄之助


伊東甲子太郎



<攘夷組>


高杉晋作

吉田稔麿

久坂玄瑞

入江九一


木戸孝允(桂小五郎)


お俶


桝屋喜右衛門(古高俊太郎)


北島真人(オリジナルキャラ)



<夜明組>


坂本龍馬

中岡慎太郎

武市半平太


陸奥陽之助

近藤長次郎

沢村惣之丞

中島作太郎

長岡謙吉



<幕府組>


一橋慶喜(徳川慶喜)


徳川家茂

松平容保

勝海舟

板倉勝静


西郷隆盛

大久保利通

山内容堂


藍屋秋斉



※艶がのキャラも登場しますが、その性格や設定などは多少異なります。




【桜花舞う空を見上げて】


第1話 『出会い』



その日も、普段となんら変わらぬ日々を過ごしていた筈だった。


「またね、春香ちゃん」

「まだまだ寒いから、おばちゃんも風邪とか変なウイルスに気を付けてね」

「春香ちゃんもね」

「はぁい」


常連客を見送って、新しい反物に目をやりながらも、考えることは剣道や柔道のこと。


高校卒業と同時に実家の呉服屋を継ぎ、平凡な生活を送る中。唯一、剣道や柔道のことを考えたり、体を動かしている時が一番自分らしくいられるような気がして…


頭の中は、常に「強くなりたい」という想いだけ。


「春香、今日も行くの?」

「勿論!」


奥の部屋からやって来た母に尋ねられ即答すると、母は少し眉間に皺を寄せながら私に諭すように言った。


「そろそろ、将来の為にも華道や茶道、もしくは料理とかを習った方がいいんじゃない?」

「華道に茶道?いやいや、柄でも無い…私には絶対に無理!」

「まったく困ったものだわね…」


今度は溜息交じりな母に、私はわざとにんまりとした笑顔を向ける。


その度に、いつまで続けるつもりなんだと言われるものの。これは両親から受け継いだもので、二人が剣道や柔道をしていなければ私も影響を受けることは無かった訳で。



だけど、まさか…


今日を境に、いつもの微笑みが見られなくなるなんて。


この時の私は、夢にも思わなかった。


 ・


 ・


 ・


「一本!桜井」


道場にて面打ちを決めてすぐ撃剣師範の声を受け、お互いに防具を外し次は、剣道形の稽古に入る。


そう、ここでもいつものように、剣道の稽古に汗を流していただけ。


「ここは…?」


稽古の合間に設けられた休憩時間を使って、少し気分転換をしようと庭にある桜の木の下でうとうとしてしまったところまでは覚えている。



幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~


桜吹雪が舞う中、青い空を見上げているうちに居眠りをしてしまい、ふと、目覚め道場へと戻ろうとした私が目にしたのは、まるで時代劇のセットのような町並みだった。


(……??)


行き交う人達は皆着物姿で、髪型までしっかりメイクされていて。


もう一度桜の木を見上げながら同じ木であることを確認し、袴の腰紐を縛り直して歩みを進めてみたが、女の袴姿が珍しいのか、すれ違う人達からの視線が気になり思わず竹刀を握りしめた。


(これって、ドッキリとかいうやつ…だよね。それか、まだ夢の中とか…)


両親の影響で剣道を始め、好きで時代劇なんかも良く観ていたし。いつか、京都の撮影所にも行ってみたいなどと思っていた。


だから、そんな大それた夢を見ているだけなのかもしれない…。


心の中ではそう思っていても、実際に目にしている光景は今の日本、いや東京には無いものばかり。



「壬生浪や…」

「何やて?」


(…みぶろ??)


町の声に振り向くと、前方から速足でこちらへ迫り来る見慣れた集団を見つける。


「あれって…」


本やドラマ、インターネットなどで毎日のように目にしていた、浅黄色のだんだら模様の羽織りを纏った男達がどんどんこちらに近づき…


「…新選組の隊服?」


彼らから目が離せなくなり、思わずぽつりと呟いた声が先頭を歩いていた男の耳に届いたようで、


「そこの娘」

「へ?」

「何故(なにゆえ)、袴姿なのだ。しかも、素足とは…」


少し厳しい目つきの男性に声をかけられ、私は一歩後ずさった。


「え、これは…」


彼らの足を止めてしまったことが周りの目をよりいっそう引き付けてしまい、私は足掻くように両手を振って何も無いことを訴える。


「その…剣道の稽古に行ってて…」

「剣道の稽古?」


今度は、男の隣にいた同い年くらいの青年が、柔和な微笑みを浮かべながら私に問いかけた。


「そうですけど…」

「女人が何の為に?」

「え、なんの為って…」


言い淀む私を見つめる彼らの眼が、次第に厳しいものへと変わって行く。


(何か、おかしなこと言ったかな?)


「総司、どうする」


(…そうじ…?)


そうじと呼ばれた青年は笑顔でその男性を見やると、二人は顔を見合わせて再び私に疑心の眼を向けた。


「一応、しょっ引くか」

「それが良いかと」


(しょっ引くって…つ、捕まっちゃうってこと??そんなの、冗談じゃない!)


「あ、あの!私、何も悪いことなんてしてませんから!」


いきなり腕を掴まれて身動き出来ずに焦っていると、もう片方の手を勢い良く掴まれ…


「お園ぉぉ!こんなところにいたのか!」

「えっ?」

「随分、探したんだぞー!」


突然の出来事に吃驚しながらそちらを見やると、その腕を強引に引き寄せられ、気が付けば見知らぬ青年の腕の中にいた。


「あ、あのっ!」

「いいから俺の言う通りにして」

「…っ……」


青年は早口でそう呟くと、更に私を抱き竦めながら大声で話し始める。


「連れが大変失礼なことを…こいつは、逸れてしまった俺の…お、幼馴染なんです!まったく、お前って本当に方向音痴だからなぁ。ここで見つかって本当に良かった…」

「ご、ごめんね…心配かけて…」


訳が分からないまま適当に話を合わせると、隊士らは顔を見合わせ、そうじと呼ばれた青年が再び私に視線を戻し言った。


「再会出来て良かったですね。ただ、草履くらいは履かれたほうがいい」

「…はい」

「しかし、か弱そうに見えて剣の道を嗜んでおられるとは。いつか、拝見したいものだ」


(…何、この人…)


優しそうな笑顔と、時折見せる冷やかな眼。

どちらが本当の素顔なのだろう…。


やがて青年は、くすっと微笑って一礼し、先に歩き始めている隊士らの後を追いかけて行く。



そして、彼は大きな溜息をついて私から距離を置き、去って行く男達に視線を向けながら言った。


「今、話しかけて来たのは新選組の原田左之助と、沖田総司」

「新選組の…」

「現在はまだ、新選組と改名する前の壬生浪士組だが。彼等を知ってるだろ?」

「し、知ってますよ!でも、今の人達はどこの役者さんです?なんか、ものすっごく本格的でしたけど」

「や、役者って…」


彼は少し困った様に微笑むと、すぐに真剣な眼差しで私を見つめた。


「もしかして、俺と同じ立場なのかなって思って見ていたんだけど…」

「同じ立場?それってどういう…」

「こんな所で立ち話しもなんだし、君もその恰好じゃ目立つから、俺の滞在先で着物に着替えたほうがいいと思うんだけど、どうする?」

「あ、」

「無理にとは言わないが…」


まだ全然、頭と心が整理できないままだったし、もしも彼が悪い人だったら…という多少の懸念はあったが。


見知らぬ江戸時代のような場所の、どこをどう行けば元居た場所へ戻れるのかも分からないし、行く宛も無かったから、何となく親近感の持てる彼に頼ってみることにした。


「俺は、結城翔太。君は?」

「桜井春香…」

「やっぱりな…」

「やっぱりって?」

「いや、なるべく俺の傍を離れないように」

「あ、はい…」


本当は、いろいろと聞きたいことはあったのだけれど、それ以上何を話す訳でもなく。私達は、一向に終わらない時代劇セットの様な町中を進んで行った。



しばらく行った店で草履を購入して貰い、ひたすら彼に着いて行くと一軒の立派な屋敷に辿り着いた。


「ここが今、俺が世話になってる旅籠屋だ。今、話をつけてくるから、もう少しここで待ってて」

「はい…」


草履を脱いで二階へと駆け上って行く彼の背中を見送ってすぐ、私はその建物の造りや雰囲気に目を向けてみる。


(…四国屋って言うんだ、ここ。すごいリアルな造り…)


「あれまぁ、なんて凛々しい女子でっしゃろ」

「え?」


その穏やかな声に振り返ると、30代前半くらいの見知らぬ女性がにこやかに私を見つめていた。


「お泊りどすか?」

「え、いえ…あの、私は…」

「あっ、お俶(よし)さん!出かけていたんですね」


戸惑う私の背後で、二階から戻って来た結城くんがその女性に声を掛ける。


「へぇ、薬屋へ行っとりました」

「あの、彼女…あ、この人は俺の…えっと、幼馴染で……桜井春香さんって言います」

「桜井はん…どすか」

「ちょっと、いろいろあって……一枚でいいので、彼女に合う着物をお借り出来ませんか?」


彼が困ったように微笑いながら言うと、お俶さんは満面の笑顔で一つ頷き、快く私を中へ案内してくれて、綺麗な着物を何枚か用意してくれたのだった。


「よう、似合うてはる」

「あ、ありがとうございます…」


適当に一つ結びされていた髪は綺麗に結い直され、簪を乗せて貰った後、鏡の前で自分の姿を確かめてみる。


(薄紫に黄色の帯…この組み合わせも素敵だなぁ…)


「せや、翔太はんにも見せに行きまひょ」

「え…」


さっ、と言って手を差し出され、そっと手を取ってゆっくりと二人で歩みを始め。


やがて、とある部屋へと案内されると、文机の前で何かを執筆していた彼が驚愕の眼差しで私を見上げた。


「…見違えたな」

「そう、ですか?」

「袴姿も似合っていたけれど…」


少し俯き加減に逸らされた視線が、男性ながら可愛く見えて。私も照れながら改めて二人にお礼を言うと、


「いや、大変なのはこれからだから…」

「え?」


何故か彼の表情が一変し、重苦しい空気が流れ始めた。





【第2話へ続く】





~あとがき~


とりあえず、一話…UPしちゃいましたあせる


幕末時代にタイムスリップしてしまうというのはそのままなのですが、翔太くんと主人公は、同じ旅人ながらも初対面という設定ですラブラブ


そして、これから二人は、お互いの進む道を選択し邁進して行きますあせる


あとは、艶が本編には登場してこなかった偉人達とも絡んで行くことになるし、新キャラはあの方と絡む予定だったり音譜


そして、もう一人。

秋斉さんも、艶がとは違う立場で描いていきますあせるですから、おのずと慶喜さんは、より史実に忠実に描いて行くことになると思います…。


でもって今回は、新選組「美男五人衆」のことについても多少触れてみたいとラブラブ!


ですからもう、この物語は「艶が」とは全く別の……完全に私の妄想世界となりあせる史実も参考にしながら、幕末時代で強く生きて行こうとする主人公の葛藤を描いて行く予定ですラブラブ


成人女性だから、艶シーンなんぞも堂々と書けるし(爆)


討幕派と佐幕派との間で揺れ動く、主人公と翔太くん。


今までの長編は、全てリクエストを頂いて書き始めたのですが…今回は、「比翼の鳥」に引き続き、自らが書いてみたい…と、思った長編物語です。


これまたマッタリ更新ながら…他の艶が物語と交互にUPして行けたらなぁ…と、思いますラブラブ


もう今回も、というか…これこそわたすの勝手な妄想物語ですし、相変わらずの説明下手な小説ではありますが…良かったらまた遊びに来てやって下さい音譜