<艶が~る、二次小説>
唯一、艶の世界観をそのままに書き進めていたオリジナル物語。本当は、今書いている連載のどれかが終わったら続きを書こうと思っていたのですが、「ちびっとでもいいから続きを…」というお声を頂いたので、急遽UPです期待に応えられているかは分かりまへんが
【これまでのあらすじ】
春香(主人公)と翔太が幕末時代へタイムスリップしてから、数か月後のある晩のこと。夢の中で、自分の名を呼ぶ声に誘われた春香は、一つの躰に二つの頭を持った奇妙な鳥と遭遇する。その翌朝、春香は植木職人見習いの北村隼人という、自然を愛するとても優しい青年と出会い、春香はそんな彼のことを意識し始める。それからというもの、彼女の周りで数奇なドラマが展開されることになるのであった。そんなある日、町で知人が何者かによって命を奪われてしまうという事件が起こった。そして、その夜のこと。夢の中に北村らしき男と亡くなった知人が現れ、男により殺められる知人の姿を目にしてしまう。それからというもの、男は春香の夢の中で殺人を繰り返していくのだった。夢の中で彼女を誘う声の主と、その後現れた奇妙な鳥は何だったのか。そして、夢の中に現れた犯人らしき男は北村隼人と同一人物なのか…。秋斉、慶喜、高杉、沖田らに見守られながら、これからどんな展開が待っているのか?
【比翼の鳥】第7話
───翌日。
「もしや…」
非番中だった沖田は、新徳禅寺前にある大勢の人だかりを避ける様にしてその中へと足を進めた。
「沖田殿」
「ご苦労様です」
その視線の先には、筵(むしろ)が被せられた一体の亡骸が横たえられており、数人の役人がなにやら話ながら、忙しなく動き回る中。沖田は、その中の一人に声を掛けしゃがみ込むと、筵をめくりすぐに被せた。
「また若い女人が…」
「同じ手口です。横一文字に…」
「早く見つけ出さねばなりませんね」
そう言って目線を上げると、少し離れた場所に見覚えのある顔を見つける。
「あやつは…」
(確か藍屋に訪れていた男…)
「いや、違うかな」
「何がですか?」
「いえ、何でもありません。では、私はこれで」
役人に軽く会釈をして、その場を去ろうとする男の後を追いかけるように歩みを進めた。
(刀を携えているから、やはり違うか。それにしても、先ほどの鋭い眼…)
身を顰めながら、その男の後を追いかけていた沖田の肩に何かが触れると同時に、低い声が彼の耳元を掠め、
「……!」
「後は、私にお任せ下さい」
棒手売(ぼてふり)に扮した山崎が、にこやかな顔で沖田の横を通り過ぎて行く。
「頼みましたよ」
(彼に任せておけば、大丈夫かな。それよりも…)
山崎の後ろ姿を見送った沖田は、その足で島原を目指した。
・
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昼餉の後片付けをし終わり、秋斉さんの部屋を通り過ぎようとしたその時。
「では、私はこれにて失礼します」
襖の向こうから、聞き覚えある声がして思わず足を止めた。
(…沖田さん?)
静かに襖が開いてすぐ、
「あ、こんにちは、春香さん」
「沖田さん、いらしてたんですね」
「はい。ご報告したいことがあって伺いました」
「そうだったんですか…」
柔和に微笑む沖田さんと目が合う。
その沖田さんの背後で、眉を顰めながら何かを考え込んでいるような表情の秋斉さんを見やると、今度は真剣な眼差しを浮かべながら沖田さんが口を開いた。
「春香さん」
「はい」
「くれぐれも、お一人で町を出歩かれませんように」
「…気をつけます」
会釈をし、踵を返して玄関へと向かう沖田さんを見送ると、少し厳しい表情の秋斉さんを見やる。
「春香はん、少し話したいことがある」
「え、あ…はい」
部屋の中へ入るように促されるまま向い合せに腰を下ろすと、秋斉さんは眉を顰めながら静かに口を開いた。
「また、犠牲者が出たそうや」
「えっ!?」
「それも、新徳禅寺の前でな…」
「…そんな」
(そうなると、今回も夢の中で殺人の場面を見てしまったということになる…)
「また怖い思いをさせてすまないが、あの夜、夢ん中で男を見たんは新徳禅寺付近やゆうてはったやろ」
「はい…」
「わてはこの手の話は信じん性質やが、あまりにもあんさんの見る夢通りやさかい。このまま放っておけへんように思えてな」
「そうです…よね…」
思わず肩を震わせたその時、
「邪魔するよ」
背後であの柔和な声がくぐもって聴こえた後、静かに襖が開いた。
「慶喜さん…」
「春香、もう起きてて大丈夫なのかい?」
「はい、もう大丈夫…なんですけど…」
「また秋斉にいじめられていたんだね」
「え、違います!」
慌ててそう言い返すと、すぐにぎゅっと抱きしめられ、気が付けば慶喜さんの優しい腕の中にすっぽりとおさまっていた。
「随分と早いお着きどしたな」
「うん、一刻も早く春香に会いたくてね」
「まったく、あんさんというお人は…」
「なんて、こんなふうにふざけている場合じゃないんだった」
ゆっくりと私を包み込んでいた腕を離し、襖を閉めて私の隣に胡坐をかくと、慶喜さんは真剣な眼差しで私達を交互に見やる。
「また犠牲者が出たそうだ」
「今、その話をしとったとこや」
「その話をしてたって?」
秋斉さんが、沖田さんからの報告を詳しく語り始めると、慶喜さんの表情がみるみる厳しいものに変わって行くと同時に、私も軽い動機に襲われ始める。
「それって…」
「最初は北村はんやと思うたらしいが、目つきの鋭さや刀を携えとったことから別人やろうと…」
私の問いかけに、秋斉さんは瞳を細めながら呟いた。
「所詮は夢だが、されど夢。春香の夢の中に出て来た奇妙な鳥と、その男の事が気になるな」
「せやなぁ…」
二人の視線をいっぺんに受け、私は戸惑いながらも正直な気持ちを告げる。
「私の名前を呼ぶ声がして、次に「やっと見つけた」っていう声がした後、奇妙な鳥が現れて…その夢を見た次の日に、北村さんと出会った…」
そして、その夜。
お座敷で再び彼と会った時、不思議な体験をしたことや、それから何故か気になってしまっていたことなどを簡潔に話すと、二人は顔を見合わせてまた私に視線を戻した。
「あの奇妙な鳥も、夢の中の声の主も、北村さんの背後に見えた森林も。そして、夢に現れ続ける北村さんによく似た男の人の事も…全てが謎のまま…」
「高杉はんのゆう通りになりそうやね」
「でも私は、北村さんに似ているだけで別人だと思っています。彼が人を殺めるなんて…」
「その男の裏の顔、ということもあり得る」
「慶喜さん…」
「いじわるを言うつもりはないが、用心しておいたほうがいい。いいね」
「…はい」
いつも私のことを心配してくれる慶喜さんのいう事だから、素直に耳を傾けたかった。けれど、何故か北村さんの柔和な笑顔が頭に浮かんで、心のどこかで逆らってしまう自分がいた。
高杉さんも用心したほうが良いと言っていたけれど、私にはどうしても彼が平気で人を殺めるようには思えなくて…
それに、きっとこれは私の勝手な夢物語に過ぎない筈だし、そう思いたい。
でも…。
「私の夢の中に現れた男は、誰かを探しているようでした。それが、もしも私だったとしたら…」
「大丈夫だよ、春香」
泣きそうになる私の手の上に、慶喜さんの温かい手の平が重なる。
「俺が傍にいてあげるから」
「慶喜さん…」
「一番忙しいお人が何をゆうてはるのやら…」
秋斉さんは、得意げに言う慶喜さんを見やりながら大きく溜息をついた。
「秋斉」
「分かっとる」
伏し目がちに呟いた慶喜さんの言葉に、当たり前のように秋斉さんが答える。私には分からない何かが交わされて間もなく、再びぎゅっと抱きしめられた。
「何度繰り返しても、お前を手離すのは辛いねぇ」
そんな慶喜さんの優しい抱擁に肩を竦めつつ、呆れたような表情の秋斉さんに苦笑する。
「とにかく、絶対独りにならないようにね」
「はい」
「じゃあ、秋斉。くれぐれも後は頼んだよ」
「はよう行きなはれ」
「はいはい。じゃあね、春香」
今度は慶喜さんが溜息をつきながらゆっくりと立ち上がると、襖が閉まる最後まで私に微笑み続けてくれたのだった。
「ほんまに、あんお人は羨ましいくらい呑気やね」
「ふふ、でもいつもあの笑顔に癒されています…」
「…そうか」
呆れ顔だった秋斉さんの瞳が、柔和に細められる。
一瞬でも、嫌なことを忘れられたことに感謝しながらも、結果的に現実で起こった殺人事件を夢の中で目撃していたことに改めて恐怖感を覚え、まるで、アメージングストーリーの主人公にでもなってしまったかのような展開に、肩を震わせずにはいられなかった。
(これって、予知夢とか正夢とか言われる類のものなんだろうか?)
「慶喜はんがゆうてはったやろ?」
「え…」
「わてらがあんさんを守ると」
不安そうな顔をしていたからだろうか、秋斉さんは念を押すように言うと文机の中からお守りと鈴を取り出して、私のほうに差し出した。
「これは…」
「魔除けのお守りと、鈴や。ここにおる限りは安心やろうけど、何が起こるか分かれへんさかい」
「ありがとうございます…」
受け取ったお守りを帯の間に挟み込み、少し大きめの鈴を袖の中へとしまい込む。
「ずっと、わての傍においておきたいが…そうもいかへん」
「秋斉さん…」
「またあの夢を見るようやったら、すぐに知らせてくれ」
「分かりました」
眠るのが怖いと思う反面、夢を見ることで真実が分かるのなら…と、そんなふうに考える自分がいた。
~あとがき~
唯一、艶物語の中でも不思議で少しミステリアスなこの物語。これから8名の旦那はんが集結して春香を守っていくという展開に
北村隼人と、夢の中に現れる男との関連性は?沖田さんが目撃した北村に似た男は??
今の連載優先で不定期ですが、この物語も加えて続きも書いていこうと思います!同じようにリクエストコメントを頂き、短編ですが、花里ちゃんや菖蒲さんらの恋愛話もいつか書けたらと思います
今回も、遊びに来て下さってありがとうございました