<艶が~る、二次小説>
沖田さんとのデート後編どす。前編から随分と間が空いてしまったので、忘れられてしもたやろうな…などと思いつつ
また、拙い文ではありますが…良かったら沖田さんの褌姿(笑)、その後の二人を見守ってやって下さいませ
【デートしちゃいました♪】(後編)
「もう、入りません…」
「ふふ、お粗末様でした」
「本当に美味しかったです」
両手を背後について、その腕に寄りかかるようにしながら、沖田さんはふぅ~と、息をついた。
眩しそうに青空を見上げ、やんわりと閉じられた目蓋がとても気持ち良さそうだ。
そんな沖田さんの屈託の無い横顔と、微かに開かれた薄い唇に見惚れていると、すぐに涼やかな声に包まれる。
「また、作っていただけますか?」
「えっ……」
「私だけの為に…」
ゆっくりと、こちらに向けられる優しい微笑みに釘付けになった。
真っ赤になっていく頬を押さえ込む私に、「良かったらですけど…」と、言って微笑む沖田さんの瞳は無邪気な子供のよう。
「勿論です!…あの、沖田さんの為なら、いつでも…」
視線を逸らしながらそう言うと、不意に沖田さんの大きな手が、膝元に置いていた私の手の上にそっと重なった。その途端、もともと速かった鼓動がよりいっそう速まっていく…。
「約束ですよ」
「……はいっ」
この無邪気な笑顔と爽やかな声が、私の心をどうしようもなく揺さぶる。
ずっと沖田さんの傍にいたい。
片時も離れたくない。
「あの、沖田さん…」
「あれはもしや…」
話し掛けたその時、沖田さんが目を凝らしながら海のほうを見つめているのに気づく。
その視線の先を辿ると同時に、遠くから叫ぶような声が聴こえてきた。
(……えっ!?)
「人が溺れている!」
そう言ってすっくと立ち上がると、沖田さんは着物を諸肌脱ぎ始めた。
「お、沖田さん!」
険しい表情のまま素早く袴や着物が脱ぎ捨てられ、褌(ふんどし)姿になった彼は、「行って来ます!」と、言って駆け出した。
「え、あっ…」
私も、裾を捲り上げるとその背中を追いかける。
(…ああ、どうしよう…)
沖田さんは、女性と何やら話をするようにしてすぐに海に入って行くと、その先に子供らしき姿が時々、顔を出してもがいているのが見えた…。
「沖田さん!」
「鉄之助!頑張るんや、鉄之助!」
あの子の母親であろう女性に寄り添うようにして、引き続き二人に声を掛け続ける。
「もう少しです、沖田さん!頑張って、鉄之助くん!!」
二人が落ち合うかと思われたその刹那……。
大波が沖から迫ってくるのが見え、私は更に大声で叫んだ。
「沖田さん!波が!」
やっと、沖田さんが鉄之助くんの元に辿り着いた瞬間、その大波が二人を飲みこんでいった。
「……!!」
私達は、思わず俯きながら悲痛な声を漏らすと、すぐに二人の安否を確認しようと顔を上げる。
(…神様、お願い……)
すると、鉄之助くんが顔を出し、次いで沖田さんも顔を出すのが見えた。
「よ、良かった…」
沖田さんは、半ば意識を失いぐったりした鉄之助くんの首元に腕を添え、その腕に掴まらせるようにしながらゆっくりとこちらへ泳いで来る。
そして、浅瀬に近づき彼を抱き上げる沖田さんを目にし、私達は堪らず二人に駆け寄った。
「沖田さん!」
「鉄之助!」
「少し…気を失っている…だけです」
息を荒げる沖田さんの前に駆け寄った彼女は、鉄之助くんを受け取るとその場にへなへなと頽れ始める。
「大丈夫ですか!?」
私と沖田さんから同時に抱え込まれながらも、彼女は息子の安否を確認すると、「沖田様…おおきに…ほんまに、おおきに」と、言って、涙を流しながらも私達に微笑んだ。
(間に合って良かった…)
と、その時。
ぐったりと横たわっていた鉄之助くんが、大きく咳き込むと同時に海水を吐き出した。
「鉄之助…」
「……っ…かぁ…さま…」
弱々しくも、しっかりと答える鉄之助くんを見て、私と沖田さんは顔を見合わせて喜んだ。助けられた鉄之助くんも、助けた沖田さんも本当に無事で良かった…と、心の中で何度も呟く。
「沖田様のおかげで、鉄之助は死なずに済みました。ほんまに、何てゆうたらええか…」
お俶(よし)さんと名乗る女性は、これまでの経緯を簡潔に話した後、改めて沖田さんに頭を下げた。沖田さんは、涙を拭いながら話す彼女に、「もう、大丈夫ですよ」と、言って微笑む。
少し前に、沖田さんから子供達とも頻繁に遊んでいるという話を聞いたことがあったが、どうやら鉄之助くんは、沖田さんの弟分のような存在らしく、将来は新選組隊士となるという夢を持つほど沖田さんのことを尊敬しているのだそうだ。
「おおきに、総司兄ぃ…」
「鉄、今日みたいな波が荒い日は、足のつく場所も高波により抉(えぐ)られていたりして危険だ。十分に気を付けるんだぞ」
「うん。気ぃつける…」
「よし、いい子だ」
よしよしと、濡れた鉄之助くんの頭を軽く撫でる沖田さんの笑顔は、いつもよりも男らしく見えた。
それからしばらくして、自分で歩けるほどにまで回復した鉄之助くん達を見送った後、私達もまた元いた場所へ戻ろうとしてふと、隣を歩く沖田さんの褌姿に目を奪われる…。
「……………」
「どうされました?」
首を傾げる沖田さんの不思議そうな瞳に見つめられ、私は思わず俯いた。
(ど、どうしよう…今更ながら目のやり場に困ってしまう…)
今までは鉄之助くん達に夢中で意識していなかったのだけれど…。
「な、何でもないです…」
恥ずかしすぎて、そう答えるのが精一杯だった。
「着物の裾、濡れてしまいましたね…」
「あ、これくらい何でも無いですよ…」
なるべく首から下を見ないようにして答えると、沖田さんは、「綺麗な着物が台無しだ…」と、苦笑した。
「沖田さんこそ、あの…ふ、褌が…濡れたままで…」
「泳ぐつもりは無かったので、乾かさねば…」
(そういえば、この時代の人は水着の代わりに何を身につけて泳ぐのだろう?)
私の視線は上を見上げたまま、疑問に思っていたことを思いきって尋ねてみた。
「あの、海などで泳ぐ時…何を身につけるのですか?やっぱり、褌ですか?」
そう尋ねてすぐ、沖田さんのどうして知らないのだろう?と、言いたげな瞳と目が合う。
「大概は六尺褌です。普通のよりも露出が多いのですが、祭りごとの時なども邪魔にならないので、男は皆、六尺褌を身につけます」
「六尺褌?」
「…説明しづらいのですが、六尺の場合は腰よりもほんの少し高めに結び、後ろは何も身につけていないかのように露出している」
沖田さんの話を想像すると、きっと、浅草で観たお祭りの時に目にしたことがあるやつかもしれないと、思った。
前も、後ろも肌の露出度が多くて、私は目のやり場に困ってしまった記憶が甦る。
「な、何となく…分かりました」
「伝わって良かった」
「沖田さんも…その、六尺褌を身につけたりするんですか?」
「もちろん。ただ、私はあまり好きではありませんが」
そう言いながら、沖田さんは着物を簡単に羽織り、「あなたの着物が渇いたら、町へ戻って何か美味しいものでも食べませんか?」と、涼やかな声で言った。
私もすぐに賛同し、しばらくはその場で楽しんだ後、私達はその足で京の町を目指したのだった。
茣蓙(ござ)を担ぐように歩く沖田さんの隣を、私は風呂敷包みを胸に抱えながら寄り添って歩く。
こんな風に沖田さんと京の町を歩けるなんて、滅多にあることじゃない。
今までにも、このまま時間が止まってくれたらいいのにと、何度か思ってきたけれど…
今日ほど、強く思ったことは無かった。
沖田さんの腕に肩が触れる度、胸がトクンッと大きく跳ねる。
「どこへ行きましょうか?」
「沖田さんの行きたい所なら、どこでも…」
「いえ、あなたの行きたい所で…」
大人同士が譲り合うそれとは違い、まるで子供が駄々を捏ねるかのように言う沖田さんに、私は今日の主役は沖田さんだということを伝えると、「では…」と言って、とある一軒の甘味処へと案内してくれた。
「ここは…」
「最近出来たばかりのお店らしい。この間、とある捕り物の後、偶然この店の前を通って以来、ずっと気になっていたのです」
「そうだったんですか」
店の前に並べられた長椅子に二人で腰掛けると、すぐに中から同い年くらいの女の子が、にこにこしながらやってきた。
「すみません、お茶と餅をお願いします」
「へぇ、少々お待ちを!」
彼女は、沖田さんの言葉に一つ頷くと、またお店の中へ戻っていく。
「お餅、久しぶりです」
「私もです…最近は同志を集ったおかげで、忙しい日々を過ごしていたので」
「今日は、沖田さんの誕生日なんですから…」
好きなお餅も沢山食べて、好きな事をして…今日という日を楽しんで貰いたい。
思ったことを素直に告げると、一瞬、えっという表情をした後、沖田さんは何かを考えるように空を見上げながら、「では…」と、言ってやんわりと目蓋を閉じた。
私は、その綺麗な横顔を見つめながら次の言葉を待つ。
「……時間の許す限り私と…」
……と、沖田さんが呟いたその時。
「お待たせしました~」
先ほどの娘さんが戻って来ると、私達の間にそれらを置き、「ほな、ごゆっくり~」と、微笑んでまた店の中へ戻って行った。
いつものお団子とは違い、小さくて繊細な形に目を奪われる。
「うわぁ~、美味しそう!」
「これは美味そうだ!」
ほぼ同時に言うと、私達は苦笑しながらお餅を頬張り始める。
今まで食べたお餅よりもしっとりとしていて、とても食べやすかったし、お茶も、いつものより薄目ではあったものの、とても美味しくて飲みやすかった。
「大当たりだったなぁ、ここのお餅」
「そうですね。とっても美味しいです」
「なにより、あなたに喜んで貰えて良かった…」
沖田さんはうなじのあたりに手を置き、少し照れたような表情を浮かべた。
それから、お互いの子供時代について話したり、私のお誕生日の時にはこうしよう…とか、過去や未来の話をして楽しい時間を過ごしたのだった。
そして、美味しいお餅を堪能した後、沈みかける太陽を気にかけつつも、私達は京の町を散策することにした。
(何か沖田さんにプレゼント出来たらいいなぁ…)
そんな風に思っていた時、不意に沖田さんの足が止まった。
……チリンッ、チリリンッ。
その目線の先にあったのは、さまざまな形の風鈴達。
……そよぐ風に涼しげな音を奏でている。
「沖田さん?」
「いい音色ですね…」
「風鈴、好きなんですか?」
「ええ、屯所内にもいくつかありますが…これ、可愛いなぁ」
そう言って、沖田さんはそっと風鈴に手を伸ばした。
「それ、プレゼントしましょうか?」
「…なんですって?」
「あ、えっと…お、贈り物という意味で、誕生日を迎えた人に用意するという、そんな風習もあるのです…」
沖田さんは、なんとか誤魔化しながら話す私に不思議そうな表情を浮かべると、私と風鈴を交互に見やる。
「え、つまり…この風鈴を私に?」
「はい!お誕生日のお祝いに」
「そんな、いただけません。あなたと一緒に居られただけで十分なのですから」
「でも…」
沖田さんが触れていた風鈴を見やると、沖田さんも風鈴を見つめながら……
「私が本当に欲しいものは…」と、切なげに呟いた。
今度は私がきょとんとした顔を見せると、沖田さんがくすっと笑う。
「いえ、何でもありません。さ、もうじき夕刻だ…置屋までお送りします」
「沖田さん…」
私は凄く楽しかったけれど、沖田さんは年に一回のお誕生日を楽しんでくれただろうか?そんな疑問と不安に包まれ始める。
「あの、沖田さん…」
「なんでしょう?」
「…楽しかったですか?」
「楽しくない訳がないです。この日を、ずっと楽しみにしていたのですから…」
お互いの想いを確かめるかのように指を絡め合いながら、私達はまたゆっくりと歩き出した。
結局、誕生日プレゼントは贈ることが出来なかったけれど、沖田さんの“楽しかった”と、いう言葉に少し胸を撫で下ろした。
楽しい時間はあっという間に終わってしまうもので、置屋の玄関付近に辿り着いた時にはもう、夕焼けが空をオレンジ色に染めていた。
茣蓙を受け取り、風呂敷包みと共に置屋の玄関先へ置いてまた、沖田さんの元へと急ぐと、こちらに向けられたままの柔和な視線と目が合う。
「送って下さってありがとうございました…」
「私の方こそ、今日という日をあなたと過ごすことが出来て嬉しかった」
「……お忙しいとは思いますが、また会いに来て下さいね」
そう、呟いた時だった。
不意に柔らかな温もりが私の体をふうわりと包み込んだ。
「お、沖田さん…」
肩をそっと抱き寄せられたことに気付いた瞬間、心臓が大きく跳ね始め……私も同じように、彼の胸に頬を埋めながらその逞しい肩を抱きしめる。
「……あなたを好いている」
「……っ…」
「先の事は分かりませんが…いつかあなたを…」
……迎えに来たい。
耳元で囁かれ、胸の鼓動はその激しさを増していく。
(…それって……)
それからしばらくの間、無言で抱きしめ合い、どうしようもない程の切ない想いが交差する中、それでも彼は名残惜しげにゆっくりと体を離した。
「ではまた…」
一礼して、踵を返す彼の背中に声をかける。
「沖田さん」
「はい…」
後ろ髪を揺らしながら振り返る彼に、約束ですよ!と言って微笑むと、彼はまたくすっと笑いながら、
「約束します」
と、返してくれたのだった。
……いつか。
ずっと沖田さんの傍にいられる日が来るかな…。
どんな未来が待っていようと、沖田さんに寄り添って生きて行きたい。
心からそう願った。
【番外編へ続く】
~あとがき~
お粗末さまでした
前編からだいぶ空いてしまいましたねどうやって沖田さんを褌姿にさせようか(笑)「○○さん、泳ぎましょう!」という、感じよりも…脱がざるおえないってほうがいいかと思い、あげな展開に
いつか……沖田さんに迎えられるその日まで。
番外編は、沖田さんに迎えに来て貰うっつーお話を書きたいと思います
これまた、いつになるか分かりまへんが
今日も、遊びに来て下さってありがとうございました