<艶が~る、二次小説>
私なりの、高杉晋作~鏡end後~のお話も、ようやく3話目ですその後の、主人公ちゃんと翔太くんは?そして、高杉さんとの逢瀬は叶うのか…。
駄文ではありますが…良かったらまたお付き合い下さい
※高杉さんの本編を読んでいない方や、鏡endを迎えていらっしゃらない方には完全にネタバレになりますので、ご注意くださいませ
【高杉晋作~鏡end後~】第3話
夜中に何度も起きながら、水分補給などを繰り返していたからか…浅い眠りから目覚めた時には、もう起きる時間になっていた。
「体が…怠い…」
昨夜よりも気分が悪い気がして、私は布団から起き上がれずにいる。
(学校、行かなきゃ…)
と、そんな時。
ドアの向こうから、母の心配そうな声がしてすぐに声だけを返す。
「起きてるよ…」
「体調はどう?」
「うん…まだ怠くて、気持ち悪い…」
「学校には連絡しておくから、これから病院へ行って来なさい」
「……はい」
お粥も用意してあるから、食べられるようなら…と、言うと、母は階下へと去って行った。
(病院の薬なら、すぐに治るだろうな…)
着替えを済ませ、階下のリビングキッチンへと向かうと、ソファに凭れ掛かるように座り込んだ。
「はい、少しでも食べられるといいけど…」
「…ありがとう」
テーブルの上に置かれたお粥に顔を近づけ、梅干しがちょこんと乗っただけのお粥を口に含むと、すぐにまた胃がもたれていく感じがして手が止まる。
「やっぱり、駄目だぁ…」
心配そうなお母さんを横目に、たまらず箸を置いた。
「一人で行ける?」
「うん、大丈夫」
ぎこちない微笑みを浮かべながら身支度を整えると、近所にある掛かりつけの中川医院へ足を運んだ。
その病院は、徒歩5分くらいで行ける場所にあり、受付を済ませると待合室で自分の番を待つ。
(空いてて良かった…)
受付の隣に設置されている大型の液晶テレビでは、『十代の妊娠、出産』と、いうテーマのドキュメントドラマが始まろうとしていた。
司会者やコメンテーターらが、意見を言い合った後、そのドラマが始まったのだが…
題名の通り、私と同年代の少女が妊娠し、出産をして、現在はシングルマザーとして懸命に生きているという内容だったのだが、私は、なぜか他人事とは思えず、とても共感していた。
「○○さん」
続きが気になりながらも診察室へと急ぐと、いつもの先生の柔和な瞳と目が合う。
「今日はどうしたのかな?」
「あ、じつは…一週間くらい前から、胃が気持ち悪くて…あと、貧血や眩暈も少し…」
簡潔に症状を説明すると、先生はまず、胸と背中の打診を終えた。次いで、診察台に横になるように促され、腹部の辺りを触診される。
「うーん、少し胃が弱っているようだね…ちゃんと食べてるかい?」
「ここ最近は、食欲が無くて…」
『もしかしたら、生理不順のせいかもしれないね…』と、呟くと、先生はデスク前に座り直し、何やらノートに書き始めた。
そして、しばしの沈黙が流れた後、先生は言いづらそうに口を開く。
「内科としては、異常無しなんだけれど…念の為、産婦人科へも行って来て貰ってもいいかな?」
「産婦人科へ?」
先生は、一つ頷くと、そういうところから来る怠さや倦怠感もあるのだということを簡潔に説明してくれた。
「薬の処方は、産婦人科で診て貰ってからにしょう。これから、行って来られるかな?」
「はい…」
じゃあ、行ってらっしゃいと、言ってパソコンに向き直る先生に挨拶をして、その場を後にしたのだった。
それから、会計を済ませ、その足で行きつけの産婦人科へ足を運んだ。
「久しぶりだなぁ…」
ビルの二階にあるその病院へは、生理不順で何度か通ったことがあったのだが、やはり、産婦人科は何かと意識してしまう…
さっきと同じように受付を済ませ、長いソファーベンチに腰を下ろして周りを見渡すと、育児本や小説を読んでいる人、ゲーム機で遊んでいる人、編み物をしている人など。それぞれが、思い思いに自分の順番を待っているのが目に入った。
(まさか、ここにも来ることになろうとは…)
私も、院内にある雑誌などで気を紛らわせながら、ひたすら、名前が呼ばれるのを待っていた。
待つこと、約1時間…。
やっと、自分の番を迎えて診察室へと入ると、先生は、「今日はどうしたの?」と、言って早速、気さくに話しかけてくれた。
「じつは……」
さっきまで、内科にいたこと。その内科の先生に、産婦人科へ行って診て貰ったほうが良いと言われたことなどを簡潔に説明すると、先生は、「じゃ、診察台へ」と、いつもの笑顔を見せる。
診察台の周りに設置された、着替えられる小さなスペースの中に入ると、先生の声だけが聞こえた。
「その後は、大丈夫だったのかな?」
「はい…ここずっと、ちゃんと予定日に来ていました」
そして、診察台に横になると、再び先生の優しい微笑みと目が合う。
「じゃあ、いつものようにリラックスして」
「はい…」
微かな痛に耐えていたその時、一瞬だけど、あれ?と、いう表情を見せた。いつもよりも長い触診に戸惑っていると、先生は、「もう、いいわよ」と、言った。
それから、着替えを済ませてまた先生の下へ戻ると、先生は、「おめでとう、おめでたよ」と、微笑む。
「えっ?!」
「もう、2カ月目に入ってる」
「に、妊娠しているって…ことですか?」
思わず息を呑む私に、柔和な微笑みが向けられる。
(妊娠……している?)
戸惑いと不安で大きく目を見開く私に、今度は真剣な瞳が向けられた。
「…お互いに意図したことなら良いんだけど、そのへんはどうなのかな?」
「それが…」
何て答えれば良いのか分からなかった。
この子の父親は、もう、この世にいないのだから…。
「あの…」
「無理に言わせるつもりは無いんだけれど、あなたのように若くして妊娠する子の大半は、産めずにいる…」
「……………」
先生が、何を言おうとしていたのか分かっていた。
この間の保健体育の授業で勉強したばかりだったから、今の私の状況は、赤ちゃんにとってとても大事な時期に来ていることと、もしも、諦めるほうを選ぶとしたら、もう時間が無いということも…。
「とにかく、選ぶのはあなたよ。来週までに、ご両親や彼氏と、ちゃんと話をして来てね」
「……はい…」
「あと、中川医院には私の方から伝えておくから」
「ありがとうございます…」
あまり食べていなかったからなのか、足に力が入らずにふらつきながら立ち上がると、何かあったら相談にのるから、遠慮なく尋ねてきてねと、声をかけてくれた先生に、ぎこちない微笑みを返した。
少し高めの会計を済ませ、病院を後にすると、家までの道のりを歩きながらこれからのことを考えた。
大好きな人の子供を授かったことは、とっても嬉しい。
けれど、さっきの彼女のように、シングルマザーとして生きて行くことが出来るだろうか?とか、両親に何て言おう?とかを考えてしまい、戸惑いと不安ばかりが先に立っていた。
【お前が欲しい…】
初めて高杉さんの想いを受け入れた、あの晩。
二つ並んだ布団の上に背を受けたまま、私を見下ろす真剣な眼差しと目が合う。
本当にいいんだな?と、言いながら、高杉さんの少し武骨な指先が、私の下唇をゆっくりとなぞると、そのまま襟元に滑り落ちた。
そのぞくぞくとした感触に身を震わせながらも、覚悟が決まっていた私は、促されるまま身を預け……彼の端整な顔がゆっくりと近づき、やがて、その唇が熱を帯びたままそっと、私の唇に重なった。
初めて耳にする甘い吐息。
想いを確かめ合うかのように繰り返される抱擁。
後悔はしていないし、悪いことをしたとも思っていない。
何故なら、あの時代で命懸けの恋を貫いていたのだから…。
そんなふうに考えていた時、肩から下げていたバッグの中で小刻みに揺れる携帯を取り出して、着信欄に目をやると、母からのメールが三通も送られて来ていたことに気が付く。
(連絡し忘れていた……)
急いで返信メールを送ると、またすぐに母から返信メールが帰って来た。
「ごめんね…お母さん」
それは、連絡出来ないまま心配をかけてしまったこともそうだけれど、勝手に子供を授かってしまったことに対しての一言だった。
私は、この現実の世界で、高杉さんの遺伝子を持つ子供を育てていくことに、大きな不安を抱えながらも、この小さな命と共に生きて行く決意を固めていた。
…それから数十分後。
開口一番、心配そうな色を浮かべた母に迎えられた。
「お帰り!ちょっと、心配しちゃったじゃないの」
「ごめんなさい…産婦人科へ行く前にメールすれば良かったね」
「で、どうして産婦人科へ行ったの?」
問いかけられた質問に簡潔に答えると、母は目を丸くして見開いた。
「に、妊娠って…想像妊娠とか?」
「ううん…」
「え、じゃあ何?あなた、性経験があったの?」
ここでも、どう説明したらいいか戸惑っていると、母は泣き笑いのような表情を浮かべ始める。
「…言いにくいだろうけれど、本当に妊娠しているならば真剣に考えて行動しないとね。傷つくのはあなたと、お腹の中の赤ちゃんだから」
「うん…」
「相手は、翔太くん?」
「違う…」
「じゃあ、誰?」
(幕末に生きていた人…だなんて、とても言えない)
私は、高杉さんのことを、去年の夏に知り合った大学生だということにして、その人と付き合っているうちに、愛し合い……その人の子供を授かったのだと説明した。
「その人とは、もう連絡が取れないから…私一人で産んで、育てていかないと…」
「あなた、産むつもりなの?」
さっきよりも大きく見開かれた瞳が、真っ直ぐ私を突き刺すように見つめている。
「産みたい…いや、産まないといけないって思ってる」
「お母さんも、産んで貰いたいと思ってるけど…」
「私、頑張るから…どんな試練も乗り越えるから…」
私を支えてくれる?と、尋ねると、母は複雑そうな顔のまま頭痛を堪えるように頭を押さえ込んだ。
「…まさか、自分の娘がこんなに早くお母さんになろうとしていたとはね。それも、シングルマザーだなんて」
「私は、一人じゃない…」
「えっ?」
「この子がいるから」
(そうだ、高杉さんの遺伝子を持つこの子がいてくれる…)
「いつの間にか、そんな考えを持てるようになっていたのね…」
そう言って、微笑む母の瞳が微かに潤み始めた。
「妊娠していると聞いた時、嬉しさよりも不安のほうが大きかったけど…」
流れる涙を指で拭う母を目にして、改めて心が痛むと同時に、逃げてはいけないという気持ちと、絶対に生んでみせると、いう気持ちを強く抱き始める。
「今は、この子に会いたいって…そう、思ってる」
高杉さんが残してくれた、大切な宝物だから。
……その晩。
意を決してお父さんにも話すことにした。
内緒に出来ることでも無いし、いつかは話さなければいけないことだから…。
話し始めはかなり驚かれたが、返ってきた返事は予想とは違ったものだった。
「…よく話してくれたな」
「お父さん……怒らないの?」
「正直、ショックだけどな…」
ソファーに背を預けながら溜息をつく父の眉間には、大きな皺が寄せられている。
久しぶりに、リビングに三人。
ガラステーブルの上には、お父さんがたまに買って来てくれるケーキと、コーヒーが飲めない私を気遣ってか、二人分のコーヒーと、オレンジジュースが置かれている。
「さ、せっかくだからケーキ、戴きましょう」
手を付ける前に話し始めてしまったから、誰もケーキに手をつけられずにいたのだ。
「本当なら、相手の男にも会って、どうしてこうなったのか問いただしてやりたいところなんだが…どこにいるのか分からないんじゃな…」
伏し目がちに呟く低い声は、ほんの少しだけれど、怒りが含まれているようだった。
真実を伝えたい。
この子の父親は、とても立派な人だということを……
何もかもを吐き出したい気持ちをぐっと堪えて、私はまた静かに口を開く。
「正直、怖いんだ。これからの事を考えると…」
「不安なのは当然よ。まだ17歳なんだもの…」
肩にそっと置かれた母の温かい手が、何度も私の腕を擦ってくれる。
こんなふうに、人の温もりを感じたのは久しぶりだ…。
「それで、どうするつもりなんだ」
「お母さんにはもう、話したんだけど…」
どんな未来が待っていたとしても、生みたいということを伝えると、父は、一瞬大きく目を見開いて驚愕の表情をしていたけれど、最後は薄らと微笑んでくれた。
「そうか…」
父の掠れたような声が、私の心を締め付ける。
でも、真剣に話す私を見て、父は、これから、乗り越えなければいけないことばかりだろうけれど、一つずつ、みんなで解決して支え合っていこうと、言って、子供を産むことに賛同してくれたのだった。
それから、忘れかけていた悪阻の気持ち悪さが戻ってくる中、すぐにお風呂を済ませて自分の部屋へ戻った。
(夜は特に気持ち悪いなぁ…)
安定期に入るまで続くかもしれないと、いうのを思い出し、思わず溜息をつく。
「高杉さん…私、頑張りますから…だから…」
三味線を手に取り、そっと語り掛けたその時。不意に、ふわりと何かに包まれたような感覚に肩を震わせた。
「えっ……」
次いで、三味線を持つ私の両手も、その懐かしい温もりに包まれ始める。
(これって…)
「…高杉さん?」
私の声に答えてくれるはずの、あの愛しい声は聞こえなかったけれど、間違いなく、高杉さんが傍にいるような気がした。
やっぱり、私は一人じゃない…。
みんなが居てくれる。
ですよね?高杉さん…。
私は、そのやんわりとした優しい温もりに包まれたまま、いつの間にか深い眠りに誘われていた。
~あとがき~
お粗末さまどした
今回は、のっけから重い展開に現代に生きる高校生は、私の高校生の頃とは全然違うんだろうな…などと、思いながら書いていました
高杉さんを想いながら、大切な宝物を得ると同時に大きな試練にぶち当たってしまった主人公。
今回のテーマは、子供は宝物だ。ということと、一人じゃないということですね。
現実世界で強く成長していく彼女を見守ろうとしている高杉さん。
今後の展開も、良かったら見守ってやってくださいませ
今日も、遊びに来て下さってありがとうございました