<艶が~る、妄想小説>
今回は、ほんのちびっとですがリクエストもいただき、沖田さんとデート編を書かせていただきましたずっと滞ったままどしたが…何とか前編だけ書き上げました
そして、今回も、てふてふあげは
さんの素敵な絵をお借りしました
後半は、ちくとばかしあって…書くの大変だったのですが…また、宜しければ沖田さんと主人公ちゃんの初々しいデート…覗いていってくださいませ
【デート、しちゃいましたっ 】(前編)
絵:てふてふあげはさん
作:小春
ある日の晩のこと。
いつものようにお座敷へ向かうと、新選組隊士の方々が私を出迎えてくれた。
「お久しぶりですね、お元気でしたか?」
こちらを振り返り、一番最初に声を掛けてくれたのは沖田さんだった。彼の隣にいた永倉さんも、笑顔で私に声を掛けてくれる。
「おお、嬢ちゃん!待ってたぜ」
「皆さん、勢揃いですね」
私は、改めて丁寧に挨拶をすると、まず近藤さんの傍へ行ってお酌をする。
「今夜は、どうされたんですか?」
「ちょっとあってな。ついでに非番達を連れてきた」
近藤さんは、注がれたお酒をぐいっと一気に飲み干すと、「ああっ、美味い」と、言って微笑んだ。
そして、次に土方さんにお酌をしながら声をかける。
「土方さんもお久しぶりですね」
「ああ、それどころでは無かったからな」
日頃、昼夜を問わず働きっぱなしの彼らにとって、ここでの時間は、ひと時の安らぎなのだと聞いたことがあった。
だから、ここでこうしている間は、ほんの少しでも世俗を忘れて欲しい。
私は、新選組のやり方に疑問を抱いていたけれど、彼らの本心を知ってからは、私なりに出来ることをしていきたい…そう、思うようになっていった。
「今夜は、何をして遊びましょうか?」
「えっ?」
土方さんの隣に、ちょこんと座りこんでいた沖田さんが楽しげに口を開くと、私は、沖田さんにもお酌をしながら、少し考えるようにして投扇興をしないかと尋ねた。
「いいですよ!今夜も、あなたに勝ってみせます」
「いえいえ、沖田さんには負けませんよ」
微笑み合う私たちの横で、土方さんが呆れ顔を見せる中、他の隊士の方々のお酌も済ませると、投扇興に必要な道具を持って来る為に部屋を後にした。
「あの…」
「はい?」
不意に、背後から声を掛けられ振り返ると、そこには、障子を閉めながらこちらに微笑む沖田さんの姿があった。
「どうしたんですか?」
「いや、私もご一緒しても良いでしょうか?」
「えっ…でも…」
戸惑う私の手を取ると、彼は、「いきましょう」と言って歩き出した。
「あ、あの…沖田さん」
「はい?」
「……そっちじゃないですよ、道具置き場は…」
「えっ…あ、すみません…」
もともと、道具置き場を知らないはずなのにどこへ行こうとしていたのか…。
その慌てぶりが可愛くて、くすくすと笑う私を見つめながら、彼は、「参ったなぁ…」と、言って苦笑した。
そして、道具置き場から投扇興の枕や蝶などを持ち出して、お座敷へ戻ろうとまた廊下を歩き出したその時、立ち止まる沖田さんから声を掛けられた。
「あの……」
「なんでしょう?」
「ええ…その、じつは…二人だけで話したいことがあって」
彼は、照れながらそう言うと、すぐ傍にある庭先へと続く縁側に座り込んだ。
「少しでいいので、お付き合いください」
「……はい」
私は、投扇興の道具を抱えながら彼の隣に腰掛けると、夜空を見上げる彼の横顔を見つめた。
「お話って、何ですか?」
「……はい。以前、『おたんじょうび』の話をしてくれたことがありましたよね?」
「お誕生日の話…」
(…あ、そういえば…)
お正月を置屋で過ごした私は、それどころでは無かった彼らの為に、何かお手伝い出来ることはないかと思い、新選組屯所を尋ねた時のこと。
みんなして顔を合わせながら口々に挨拶を交わし合うと同時に、歳を数え始めたことが不思議に思えたことがあった。
後から聞いて知ったのだけれど、この時代にはまだ、お誕生日をお祝いするという行事が無かったため、新年と共に自分の年齢を数えていたのだそうだ。
そうとも知らず、私が自分の誕生日の話をしてしまったことがきっかけとなり、誕生日とはどういう行事なのかをわかりやすく説明することになったのだった。
「あの時、そんな素敵な風習があったのか…と、驚きました」
「でしょうね…」
私が、自分の誕生日の話をした時、沖田さん達は眉を顰めながら、みんなして「初耳だ」と、繰り返していたし、逆に、私がお正月に歳を数えるという風習を知らなかったと、いうことを打ち明けると、彼らはしばらくの間、呆気にとられたような顔をしていたから…。
「でも、そのお誕生日のお話がどうかしたんですか?」
「じつは…」
彼はまた、恥ずかしそうに俯くと、自分の誕生日が五日後の、六月一日であると教えてくれた。
「えっ!?そうだったんですか?」
「はい。それで…その……」
「じゃあ、お祝いさせて下さい!」
彼が言うより先に、私は彼に詰め寄るようにして口を開いていた。その勢いに押されたのか、彼は少し体を引くようにして私を見つめる。
「あ、是非!いや、その…あなたに祝っていただけたら…嬉しいな」
「沖田さん…」
見つめ合っては、その視線を逸らす。
そして、真上に輝く三日月を見つめながら、当日をどこでどう過ごすかなどを話し合った。
沖田さんは、少し照れ笑いを浮かべながら、「あなたと一緒ならどこでも…」と、言ってくれたけれど、こういうのは本人の希望を叶えるものだと説明すると、彼は少し考え込んでまたいつもの無邪気な笑みを浮かべた。
「では……海へ行きませんか?」
「海へ?」
「はい、久しく行っていないので…」
「分かりました。じゃあ、海へ行きましょう!」
それから、私たちはみんなが待つお座敷へ戻り、「随分と長い逢引だったな…」などと、言われ照れながらも、投扇興の準備をし始める。
(二人だけの秘密を持てたみたい…)
私は終始、沖田さんの爽やかな笑顔と、涼やかな声に癒されながら、楽しい一夜を過ごしたのだった。
そして、沖田さんのお誕生日当日。
いつものように新造としての仕事を済ませ、お昼用に沖田さんの好きなおむすびを作って、準備を済ませると、置屋の玄関先に出ては沖田さんの来るのを心待ちにしていた。
「忙しないな…」
「あ、秋斉さん。いつからそこに?」
「少し前からおったんやけど…」
いつからそこにいたのだろう?いつの間にか、そこにいた秋斉さんが苦笑交じりに呟いた。その、少し呆れたような表情を受けながらも、私はまた玄関を気に掛ける。
(……沖田さん、何かあったのかな…)
……と、その時。
お邪魔します、という涼やかな声と共に、暖簾をくぐるようにして沖田さんが顔を出した。
「沖田さん!」
「すみません、遅くなってしまって」
私は、すぐに彼の傍へ駆け寄ると、彼は後頭部に手をあてがいながら苦笑する。
「出がけに、土方さんと近藤さんから声をかけられてしまって…」
「土方さん達から?」
「はい、正直に答えたら後が怖いと思ったので、嘘をついて来てしまいましたが…」
「後が怖いって?」
「…それは言えません」
沖田さんは、含み笑いを浮かべながら秋斉さんにも挨拶をした。
(言えないって…どうしてだろう?)
「沖田はん、こん子は慶喜はんから預かっとる大事なわてんとこの遊女やさかい、くれぐれも、よろしゅう頼みましたえ」
「はい、私といると…ある意味、危険を伴いますが…その時は、必ず守り抜きます」
(…ま、守り抜いてくれる…)
その言葉を耳にした途端、いろいろな想いが込み上げ始める。
真剣な顔つきでそう言ってくれる彼の言葉に胸を弾ませると同時に、彼が新選組であるということを再認識させられた。
以前も、お使いの途中。
厳しい顔つきで道を通り過ぎる彼らを見かけたことがあった。
その中に、沖田さんもいたのだけれど、遠くから見ていた私の目に飛び込んできたのは、彼が人を斬り捨てたところだった…。
遠かったから、よく見えなかったけれど…
私は目にしてしまったのだ。
『壬生の狼』と、呼ばれる天才剣士。
沖田総司のもう一つの姿を…。
「…どうかされましたか?」
「えっ?あ、いえ…何でもありません」
「準備がよろしければ、参りましょう」
「はい…」
(そうだ…お祝いの言葉を言い忘れるところだった…)
「沖田さん…お誕生日おめでとうございます…」
「えっ?あ、ありがとう…ございます…と、答えればいいのかな?」
私たちはまた微笑み合い、改めて秋斉さんに挨拶を済ませると、夕方までに戻ると言い残し置屋を後にした。
そして、大門へとたどり着くと、彼は立ち止まり辺りを見回しながら静かに口を開く。
「ここからは、何があるか分かりません。もしもですが…何かあった場合は、決して慌てずに私の傍を離れないようにして下さいね」
「あ、はい。分かりました…」
思わず、またゆっくりと歩き出す彼の着物の袖を掴むと、不意にその手が優しく包み込まれ、次いで指を絡め取られた。
「えっ…」
「こうしていれば、安心だ」
いつもの微笑みを見つめ、また視線を逸らす…。
(…手を…繋いじゃったぁぁ…)
夏の暑さも手伝って、少し火照り気味の手を何度も握り合いながら、海を目指して歩き出した。
それから、どれくらい歩いただろうか。
海にたどり着いた私たちは、早速、砂浜に茣蓙を敷いて持参したおにぎりと沢庵を食べることになった。
「うわぁ…おむすびだ。久しぶりだな…」
「あれ以来ですね…」
いつだったか、私が屯所にお邪魔した時のこと。
お昼ご飯に、おにぎりを握って皆さんに振舞った時、沖田さんは、土方さんや永倉さんたちと中身の具について言い合いになり、結局、好きな梅干しを一つしか食べられなかったと、少し不貞腐れた表情をしていたことがあった。
『ちょ、土方さん!また梅干し食べてたりしませんか?』
『……これは沢庵だ』
『あっ!沢庵もまだ食べていない…』
『ははは、歳。うるせぇから、総司に沢庵を残しておいてやれ』
『わりぃが、こういうのは早ぇもん勝ちだ…』
にこやかに笑う近藤さんと、おにぎりを口いっぱいに頬張る土方さんに呆れ顔の沖田さん達がとても楽しそうで、私も堪えきれず満面の笑顔をこぼしていた。
「あの時は、結局…沢庵入りのおむすびだけ食べられなくて…」
「ふふ、みんな凄い勢いで食べていましたからね」
「でも、今日はおむすびも沢庵も、あなたも…独り占め出来る」
そう言うと、彼はまた美味しそうにおにぎりを頬張った。
うん、美味い!と、言って子供のように無邪気な笑顔を見せてくれる。
この笑顔が見たくて…。
「あ、沖田さん…ご飯粒が…」
「えっ?」
彼の口許についていたご飯粒を取ってそのまま口に含むと、彼は照れたような笑みを浮かべた。
「なんだか、夫婦みたいですね…」
「えっ……」
何気ない一言に手が止まり、掴もうとしていたおにぎりを掴み損ねる…。
(夫婦みたい……かぁ…)
「なんて…ちょっと言ってみたかっただけです」
「沖田…さん…」
(いつか…そんな日が来るといいな…)
彼の笑顔と、雄大な海、そして青い空を見ながらおにぎりを頬張った。
こんな幸せな時間が、永遠に続けばいい。
そんな風に思いながら…。
~あとがき~
ちびっと、いろいろあって…このお話も滞っておりましたが…なんとか、書くことが出来ました
艶友さんと、沖田さんと海水浴なんてどうだろう?という、ところから始まり…きっと、泳ぐならふんどし姿なんだろうな…なんて、妄想が溢れ出し
こげな感じで、書いてみました…。
なにやら、沖田さんの誕生日が6月1日説を目にして…どこで目にしたのか忘れましたが…今回は、6月1日とさせていただいちゃいました
続きも、なるべく早く書きたいと思います
今回も、遊びにきて下さってありがとうございました