<艶が~る、妄想小説>
今回は、「高杉さんの鏡エンド後」のお話に挑戦しました。お話に感動して…書きたい!って思いこれから、高杉さんと、主人公ちゃんと、翔太くんがどうなっていくのか…。
またもや、私の勝手な妄想世界突入ではありますが、宜しかったらお付き合い下さい
※高杉さんルートや、鏡エンドを迎えていらっしゃらない方には完全にネタバレになりますので、ご注意ください
【高杉晋作 ~鏡エンドその後~】第1話
薄暗い部屋の中に雨音だけが響き渡る。
「……やっぱりもう…二度と会えないんだよね?高杉さん…」
ベッドの枕元に置いたままの三味線にそっと触れながら、また彼の事を想う。
【湿っぽいのは嫌いだ…賑やかにやってくれ】
「………っ……」
あんなに泣いたのに、まだ涙が溢れ出る。
こんなにも愛した人はいなかったから、こんなにも大切だと思える人はいなかったから…。
ごめんなさい…高杉さん。
まだまだ、あなたを想い涙が零れてしまいます。
あなたを見送り、龍馬さんの歴史をも変えることが出来ないまま、私と翔太くんは、あの頃の記憶を背負ったまま現代へと戻ってきた。
高杉さんの形見である三味線だけが、現実の中で生きて行かなければいけない私にとって、彼との時間を思いだせる唯一のものだった。
【お前には俺だけだろ…最後には俺のところに戻って来い】
「……うっ………」
我慢していた嗚咽が漏れる。
本当はもう、悲しい思い出は捨て去ったつもりだった。
でも、会いたい気持ちは残ったままで…
【俺もお前だけだ……だから決して生き急ぐなよ。お前といられて、面白かった……】
分かってる。
そんなの、分かっています。
私も、短い間だったけど、一緒にいられて幸せでした。
何度も、何度も、伝えましたよね…。
幾度か訪れた二人だけの夜に、いっぱい確かめ合いましたよね。
あなたは私を強く抱きしめ、私もあなたを強く抱きしめ返した。
【愛している…】
私だけに向けられる愛。
何度も囁いてくれたその言葉が、胸の奥で繰り返される。
「……入ってもいいか?」
「!!」
ドア越しにくぐもった声が聞こえた。
「ちょっと、待って…」
「……ああ」
ガラステーブルの上に置いてあったティッシュで涙を拭き、鼻をかんでまた再び声をかける。
「どうぞ……」
ゆっくりとドアノブが下りると共に、翔太くんが姿を現した。
突然、一緒に激動の幕末時代へ飛ばされ、お互いに偉人達と出会い、現代へ帰る為に一緒に試行錯誤し、最後は一緒に現代へ戻ってきた人。
「大丈夫か?」
「……うん」
「本当に?」
「…………」
彼は、ゆっくりと部屋の中に入ってくると、ベッドに腰掛けていた私の前に座り込み、片膝をたてながら何かを考えるようにガラステーブルに片肘をついた。
「……昨日も今日も、学校来なかったから。メールしても返事来ないし…心配で部活休んで寄ってみたんだ」
「ごめんね…心配かけて。でもね、私……」
「無理に忘れようとしなくてもいいんじゃないか…」
柔和な微笑みに見つめられ、また我慢していた涙が溢れ出る。
「翔太くん……」
「俺も、龍馬さんを助けられなかったことが…今でも脳裏を行ったり来たりしててさ。それに、あれからまだ四日しか経っていないんだから……忘れろってほうが無理だよ」
翔太くんの穏やかな声を耳にすると、高杉さんや龍馬さんの顔が浮かぶと共に楽しかった日々や、辛かった日々が甦ってくる…。
何も知らない、得体も知れない私を快く受け入れてくれた慶喜さんや秋斉さん、菖蒲姐さんや、仲良しだった花里ちゃん達との日々も。
私達と関わった人達との思い出が、怒涛のように溢れ出す。
「どうして、出会っちゃったんだろ…高杉さんと…」
「それは…」
「こうなるって分かってたら…修学旅行なんて行かなかったのに」
「………………」
彼はゆっくりと立ち上がると、窓のレースカーテンを開けた。
「俺も、それはずっと考えてたよ…」
「………………」
「だけど、本来なら絶対に出会うはずのない高杉さんや龍馬さん達と出会えて、短い間だったけど、一緒に行動を共にすることが出来た。それだけで、いや、それこそが俺達にとって宝物のような日々だったんじゃないかと思えるんだ…」
ほんの少し明るくなった窓際に立ったまま、こちらを振り返り柔和な微笑みをくれた。
彼は本当に大人だ。同い歳なのに……。
彼が居なかったら、私はあの時代で生きてはいけなかっただろうし、現代へ帰ってくることも出来なかっただろう。
私よりも、龍馬さんや高杉さんと一緒にいる時間が長かった彼は、いろいろな思い出に悩まされているはずだし、ものすごく辛いはずなのに。
「あとさ……」
そう言うと、彼は私のデスクチェアーに腰掛けた。
「これは、龍馬さんの口癖だっただんけどさ…」
彼が挫けそうになった時、いつも励まされた言葉……
『えいか、翔太……いったん志を抱いたら、それにむかって事が進捗するような手段のみをとり、いやしくも弱気を発してはいかんぜよ。たとえその目的が成就できのうても、その目的への道中で死ぬべきじゃ』
そう言った龍馬さんの笑顔は、青く澄んだ海よりも清々しかったそうだ。
「だからさ、俺……龍馬さんを助けられなかった時にさ、初めて大声で泣いたんだ…」
「……っ……」
「あんな声が出るのかと…自分でも驚くくらいにさ」
「翔太…くん…」
だけどさ、と言うと、彼は節目がちに話し始めた。
「龍馬さんの歴史も、高杉さんの歴史も変えられなかったけれど、俺達は彼らの意思を直に受け継ぐことが出来たんだ…」
彼が何を言おうとしているのか、私にはすぐに分かった。
無理に忘れようとしなくてもいい。でも、いつまでも悲しんでばかりではいけないと、いうことだよね。
「だから、俺……彼らが教えてくれたこと、身をもって示してくれたことを後世にまで語り継ぎたい…そうすることが一番だと…そう、思っている」
「……………」
「お前はどう思う?」
「私……私も、同じように思う」
ほんの少しだけ微笑みを取り戻せた私は、久しぶりに口元を緩め自分の涙を拭うことが出来た。
「残された俺達に出来ること、少しずつでいいからやっていこうぜ…」
そう言うと、彼はその場に座りながら右手をそっと差し伸べた。
私も同じようにしてその手を取り、彼の温もりを感じる。
「それと、忘れないで欲しいんだ…」
「えっ?」
「この、温もりを…」
彼は、椅子に腰掛けたままほんの少し距離を縮めると、両手で私の手を握り締めた。
「人の温もりをさ…」
「……うんっ…」
「高杉さんも、龍馬さんも、お前の笑顔が好きだって言ってたよな。これからの俺に出来ることは、あの頃と同じ。高杉さんの代わりに、お前の笑顔を守り続けること…」
「……っ……」
彼は、いつもの微笑みを見せてくれた。
私は、一言「ありがとう」と、言って微笑み返すと、彼はまた何かあったら遠慮なくメールするようにと言って、静かに部屋を出て行った。
(ありがとう…翔太くん…)
彼を見送ろうと窓際に立ち、彼の背中を見送る。
(……っ……)
よく、揚屋の玄関先で彼らを見送ったっけ…。
【また来る…それまでに、もっと女を磨いておけ。俺が見間違うほどにな…】
(……高杉さん)
いつも突然現れて、吃驚させられて…
思わせぶりな言葉で私を困らせては、悪戯っ子のような笑顔でやり過ごして、無茶苦茶なことでも、一度やり遂げると決めた志に対してはとても忠実で…。
いつも、私だけを想い、私だけを愛してくれた人。
翔太くんの言うとおり、いつまでも悲しんでいても彼は戻らない。
私は、彼の分も…彼らの分も、地に足をつけて踏ん張って生きていかなければいけないんだ。
いつか、あなたに会える日まで…
~あとがき~
もう、構成は出来ちゃいましたが、こちらも大事に描いて行きたいので、マッタリ更新になると思われますが…しかし、これからの展開…切ない日々は、しばらく続きそうどす
自分で書いてて、翔太きゅんの男らしさにきゅんきゅんしてました(笑)
高杉さんや、龍馬さんの男気とは違う彼らしさ…。これからも、描いていきたいって思ってます。
高杉さんとの思い出を抱きながら、どう現代で生きて行くのか
そして、高杉さんとの逢瀬はあるのか…。
しばらく、高杉さんは回想のみになっちゃいます(泣)
今回も、遊びに来て下さってありがとうございました