<艶が~る、妄想小説>
バレンタインデーの夜は…。古高俊太郎編 その1
俊太郎様との悲恋……。
上手くは描けないけれど、感じたままに書いてみました
なんか、ドキドキする~
今回も、高杉さん同様、小出しにさせていただきます
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
バレンタインデー前夜。
毎日のように花里ちゃんとお菓子作りをしてきた結果、あの人が好きそうなお菓子にめぐりあった。
それは、銀鍔(ぎんつば)というお菓子で、小麦粉を水でこねて薄く伸ばした生地で餡を包み、円く平らな円盤型に形を整え、油を引いた平鍋で両面と側面を焼いたものだ。
もともとは、今の時代の京都で考案されたお菓子であり、その形状と色から「銀鍔」と呼ばれていたが、その後、製法が京都から江戸に伝わると、「銀よりも金のほうが景気が良い」との理由から、名前が「きんつば」に変わったとされている。
この銀鍔を作るのに、行きつけの和菓子屋さんのご主人に作り方を親切に教えていただいたり、図々しくも台所をお借りしたりして、何とか今日を迎えることが出来たのだった。
「上出来や~!これなら、枡屋はんも喜んでくれるんとちゃうかな?」
「…そうだと、いいんだけど」
「大丈夫やって、自信持ち。これ、枡屋はん好きやと思うわ」
そう言うと、彼女は私の肩に手を置いて微笑んだ。
それから、私達は用意した箱にお菓子を入れ戸棚に保管すると、急いで片づけをして自分の部屋へと戻ったのだった。
そして、バレンタインデー当日。
秋斉さんから1日だけお休みをいただいていた私は、枡屋さんに会う為に彼好みな着物に着替え、身支度を整える。そして、お菓子を大事に抱えながら枡屋さんの元へと急いだ。
(……ふぅ~。ドキドキしてきた…)
早く彼に会いたくて、逸る気持ちをを抑えきれずにいた。
それから、しばらくして彼のお店に辿り着くと、私は思わず愕然としてしまった。
(……え、うそっ。お店、閉まってる…中にも居ないみたい。どうしよう…)
そう思った時だった……。
真向かいにある路地裏の方から猫の鳴く声がして私は耳を澄ます。
「にゃあぁ~…」
気になってそちらに近づくと、そこには子猫と戯れる枡屋さんの姿があった。
「ええ子や…」
子猫は彼の言葉に答えるかのように、彼の手に何度も頬を摺り寄せている。
「枡屋さん…」
私はゆっくりと近づき声をかけると、彼は振り返り少しびっくりした顔で私を見上げた。
「春香はん?」
「…子猫、可愛いですね」
私もしゃがみ、子猫の頭を優しく撫でながら言うと、彼は「あんさんには敵んけんどな」と、微笑んだ。その真っ直ぐで色っぽい目線を向けられ、私は思わず頬を染めながら俯いてしまう…。
「春香はん、こない所で何をしてはるのどすか…」
「枡屋さんのほうこそ…どうしてここに?」
私の問いかけに、彼は子猫を見つめながら静かに口を開いた。
「出かけるところやったんどすが、子猫らしき鳴き声を耳にしましてな…なんや、気になって…」
「私もです…枡屋さんのお店を訪ねたら留守だったので、帰ろうかと思っていたんですが、この子の声を聴いて…」
「ほな、この子のおかげどすな…行き違いにならんと済みましたし」
そう言って、彼は子猫の全身を優しく撫でた。
それから今日、私が何の為に会いに来たのかを説明すると、彼は嬉しそうにふっと笑いながら、「わての為に…それは嬉しおす」と、優しげに言った。
(…なんて淑やかな目なんだろう…)
子猫は相変わらず、彼の手に何度も擦り寄ってはゴロゴロと喉を鳴らしている。私も胸の鼓動を抑えつつ、子猫の喉元を優しく撫でると、私の手にもそっと擦り寄ってきた。
「気持ちよさそうですね…」
「そうやな…」
「子猫なのに、こんなに人に慣れて…」
「…子猫やから、でっしゃろな。まだ怖いものを知らんようや…」
そう呟く彼の横顔は、ほんの少し寂しそうに見えた。
そんな時、少し離れた場所からまた猫の鳴き声がしてそちらを見ると、親らしき猫の姿があった。
「にゃあぁぁ…」
子猫はか細い声で鳴くと、私たちの元を離れ親猫の方へと走り出す。
「振られてしまいましたな…やはり、親猫には敵ん」
彼は、子猫の走り去った方を見ながら立ち上がると、私に手を差し出した。私も、その手を取りながらゆっくりと立ち上がる。
「あ、ありがとうございます…」
「冷たい手どすな…春先とはいえ、まだまだ冷たい風が吹き荒れとるさかい…」
そう言うと、彼は私の両手を包み込んだ。
彼の優しい抱擁に、身も心も温まっていく…。
「せっかく、あんさんがわての為に足を運んでくれはったんや…それに一日ゆっくり出来るんでっしゃろ?」
「はい…」
「そないなら、ええ場所を知ってます…。そこへ行きまへんか?」
私は一つ頷くと、彼の温かい手に引かれるままに少し後ろをゆっくりと歩き出す。
それからしばらく彼に着いて行くと、一軒のお屋敷に辿り着いた。
「……ここは?」
「わての隠れ家…とでも言いまひょか…」
彼はくすっと笑いながら言った。
隠れ家ということは、別荘みたいなものだろうか?そんなことを考えながら、なおも彼について家の中に案内されると、料亭のような立派な造りに感嘆の声をあげてしまう…。
「とても素敵なお部屋ですね…」
「気に入って貰えて良かったどす」
そう言いながら、彼は長いテーブルの傍に腰掛けた。私も、彼の隣に座ると、早速、風呂敷を解き蓋を開けて差し出す。
「これ、一生懸命作りました」
「ほう…美味しそうに出来上がってはりますな」
「あ、台所をお借りしても宜しいですか?あと、お皿をお借りしたいのですが…」
「ほな、案内しまひょ」
それから、台所でお菓子をお皿に綺麗に盛りつけ、二人分のお茶を淹れさせて貰い、また先ほどの部屋へ戻ると、改めて彼の前にお菓子を差し出した。
「お口に合うかどうか…」
「いただきます」
そう言うと、彼は微笑みながらお菓子を一口頬張った。
「………」
私は無言で彼の言葉を待っていると、彼は満足げに呟いた。
「上出来どす。かなりわて好みに仕上がってはります」
そして、残りのお菓子を食べ終わると、彼は「ご馳走様どした」と、言ってお茶を飲みにっこりと微笑んだ。
(……良かったぁ。無事に食べて貰うことが出来て…)
ホッと胸を撫で下ろしたその時…。
彼はこちらにゆっくりと近づき、私の肩を優しく抱きしめながら言った。
「ところで…あんさんの想い人が、わてや…と、そう思ってもええのやろうか。夢でも、幻でも無く…」
「ま、枡屋さん…」
「……儚い夢でもええ」
耳元で囁かれる度に、私はぞくぞくと肩を震わせた。
そして、身体中が熱くなり…今にも彼に対する想いが溢れ出しそうになる…。
「まだ、わてに言い足りないことがおますやろ…」
「えっ…」
肩に置かれていた彼の大きな手が、私の髪をそっと撫でる。
「言っておくれやす…」
「……わ、私…枡屋さんの…ことを…」
間近で彼に見つめられながら、私は今まで抑え込んでいた気持ちを思いきって伝えることにした。
「……どうしようもないほど…愛しています」
「その想い、受け止めました…」
そう言うと、彼は私に優しい口付けをくれた。それから、彼の柔らかい唇が私の首筋を擽(くすぐ)る度に、思わず切なげな声を漏らしてしまう…。
「……あっ…」
「この温もりさえ傍にあれば、わては……」
さらに強く抱きしめられ、私は狂おしいくらいの彼の想いを受け止めようとしていた。
<つづく>
~あとがき~
俊太郎様は…やっぱ難しいですね
色気のない私には
でも、これから更に彼の切ない恋を描いていく予定なので、最後まで見守っていただけると嬉しいです
しかし、古高さんのことを調べていたのですが…。
彼の悲惨な最期のことは良く描かれているものの、彼の恋愛観に対しては、あまり見受けられず…。彼は、どんなタイプが好きだったのか、どんな恋愛をしていたのか…気になりますぅ
毎回、書きますが…。
俊太郎様のイメージが壊れていたら、本当に申し訳ありません