<艶が~る、妄想小説>
今回はまず、沖田さん編を書きました
良かったら、読んで下さいませ
(勝手ながら主人公の名前を 春香 と、名づけさせていただいてます)
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バレンタインデー当日。
毎日のように花里ちゃんとお菓子作りをしてきた結果、あの人が好きそうなお菓子にめぐりあった。
それは、落雁(らくがん)というお菓子で、すでに蒸して乾燥させた米(糒(ほしい、干飯))の粉を用い、これに水飴や砂糖を加えて練り型にはめた後、焙炉(ほいろ)で乾燥させたもので、現代では御供物としても活用されている。
この落雁を作るのに、行きつけの和菓子屋さんのご主人に作り方を親切に教えていただいたり、図々しくも台所をお借りしたり、型を貸していただいたりして、何とか今日を迎えることが出来たのだった。
「上出来や~!これなら、沖田はんも喜んでくれるんとちゃうかな?」
私の作った落雁を見て、花里ちゃんが微笑みながら言った。
「……そうだと、いいんだけど…」
「大丈夫やって、自信持ち。これ、沖田はん好きやと思うわ」
花里ちゃんの言葉に勇気付けられながら私はお菓子を箱の中に入れ、風呂敷包みで包むと、彼女にお礼を言って、元気良く置屋を後にした。
(……ど、ドキドキしてきたぁ~…)
まだまだ屯所は遠いというのに、なぜか、もう胸がドキドキし始めた。この間、沖田さんや土方さんと偶然会った時、彼がどんなお菓子が好きなのか聞くことが出来なかったから……。
もしも、この落雁が気に入って貰えなかったらどうしよう?そんな不安ばかりが先にたつ。
そんなことを考えていた時だった。
ずっと前の方から、いつもの隊士としての青い羽織では無く、薄緑の着物を纏った沖田さんが歩いてくるのを見つけ、私は思わず心臓が飛び跳ねた。
(…お、沖田さんだ……ど、どうしよう…)
立ち止まり、辺りを見回しながら戸惑っている私を見つけたのか、彼は私に駆け寄ってきた。
「春香さん!」
「……沖田さん」
「どうしたんですか?こんなところで…」
「あ、あの……その…」
私が言いよどんでいると、彼は不思議そうな顔をして私の顔を覗きこむ。
「どこかへお出掛けですか?」
「……あ、はい…その…」
彼の視線を間近で感じ、私はさらに俯いた。
彼は少し苦笑すると、「お供しましょうか?」と、囁いた。
「沖田さん……」
「……どうされました?」
私の困ったような顔を見て、沖田さんは更に困ったような表情を浮かべている。
(……どうしよう…胸が…苦しい…)
「沖田さん、あの…これから少しだけ、お時間ありますか?」
思いきって尋ねると、彼は少し照れ笑いをしながら一つ頷いた。
「良かったぁ…ありがとう、沖田さん」
「……こちらこそ、ここであなたに会えて良かった…」
「……えっ?」
「い、いえ…なんでもありません」
彼は、私にそう言うと、頭をかきながらまた笑った。
「あの、もしも行き先が決まっていないのであれば、春香さんを連れて行ってあげたい場所があるんですけど、いかがでしょう?」
「それは、どこですか?」
私が尋ねると、彼は着いてからのお楽しみです…と、言い、私に手を差し出した。私は、お菓子を持っていないほうの手で、その大きな手をゆっくりと握り締める。
「……なんだか、恋人同士のようだ」
ニコッと笑いかける彼を見上げて、私も思わず頬が熱くなった。
歩き始めてしばらくすると、とあるお寺に辿り着いた。
中へ入ると立派なお地蔵様が佇んでいる。
私がお地蔵様を不思議そうに眺めていると、隣で彼が丁寧にこのお地蔵様のことを説明してくれた。
「ここは、華厳寺(けごんじ)と言い、草鞋(わらじ)を履いたお地蔵様がいて、このお地蔵様がそうなのですが、願い事を一つだけ叶えてくれるという言い伝えがあるそうです」
「……お地蔵様が願いを…」
「はい、春香さんも何かお願い事があったら…と、思って」
こんな素敵なお地蔵様が、願い事を叶えてくれるなんて…。なんて素敵な言い伝えなんだろう。そんなことを思いながら、目を瞑り心の中で必死に願った。
(……どうか、沖田さんがいつも元気でいられますように…)
目を開けて隣にいる彼を見ながら、「沖田さんは何かお願い事をしたんですか?」と、尋ねると、彼は少し照れたように笑いながら、「この間、ここを訪れて…一足先に済ませました」と、言った。
彼がどんなお願い事をしたのか気になりつつ、次はすぐ近くにある長い階段を二人で上って行くと、その上に華厳寺が厳かに建っていた。
「うわぁぁ……」
一見、普通のお寺のように見えるけれど、よく見てみると神聖な雰囲気が出ている気がした。今でいうところの、スピリチュアル的な……。今ならば、見えないものまで見えてしまいそうな……。
「おや、お客人か?」
私達の気配を感じたのか、中から住職さんらしき方が顔を出した。私と沖田さんは、急いで頭を下げて挨拶をすると、住職は優しい顔で、「夫婦でいらしたんか?」と、言った。
「え?い、いえ…私達はまだ…」
戸惑う沖田さんを見て、笑いながらも住職は立ち話もなんだからと、お寺の中へ案内してくれた。私達は、お互いに顔を赤くしながらも、住職に着いて行くと、中はさらに神聖な空気が漂っていた。かなり広いお部屋が連なっていて、屏風や掛け軸、襖や天井の梁など…すべて生き物で統一されている。動植物に囲まれて、なんだか昔話の中に入り込んだような感覚に囚われた。
そして私達は、住職の前に座布団を二つ用意され、その上に仲良く腰掛ける。
「すごい……」
「私も、お寺の中へ入ったのは初めてです…」
私は、思わずまた声を漏らすと、隣にいた沖田さんも感嘆の声をあげた。そんな私達の声に住職はさらに、にこにこしながら話し出した。
「ここ華厳寺は、華厳宗の再興のために鳳潭上人(ほうたんしょうにん)によって開かれましてな。そして、一年中、四季関係なく鈴虫の音色が楽しめると、皆様から親しまれており、それゆえ、”鈴虫寺”とも呼ばれています」
(……京都には、本当にいくつもの素敵なお寺や神社があるんだな…)
私は感慨深く思いながら、住職の話を聞いていた。それから、さっき沖田さんからも聞いた、幸せを運んでくれるお地蔵様の話になると、さらに笑顔で話してくれた。
「必ずや、あなたがたの願いを叶えてくれるでしょう…今日、あなたがたと出会えたのも何かの縁。時間の許す限り、ゆっくりしていきなはれ」
そう言って、住職は別の部屋へと去って行った。
改めて二人きりになり、私は高鳴る思いを抑えこみながらいつお菓子を渡そうか考えていた…。
その時、口を開いたのは彼のほうからだった。
「……今日は、ばれんたいんでーでしたよね?」
(……覚えていてくれたんだ…)
「じつは……正直言うと…昨晩は眠れませんでした…春香さんが誰にお菓子を渡すのかが気になって…」
「……え…」
頬を少し赤らめ、彼は視線を逸らしながらまた口を開く。
「こんなことを言ったら、土方さんにまた笑われてしまうかもしれませんが……」
「あの、私……ずっと……」
そこまで言いかけて、私はまた言いよどんでしまう…。
ここから先の、肝心な言葉が伝えられない…。
「あの、私は…あなたにお菓子を貰って欲しくて…一生懸命、作りました!」
「……春香さん」
驚く彼を見つめて、今度はしっかりと思いを伝える。
「……貰っていただけますか?」
私の精一杯の思いを告げると、彼は泣き笑いのような顔をして、「本当にいただいても良いのですか?」と、呟いた。
私は、胸に抱えたままだったお菓子を膝の上に乗せ、風呂敷包みを解くと、箱ごと彼にそっと差し出しながら、「あなたの為だけに作りました」と、告白した。彼は、差し出された箱を受け取ると、膝の上に乗せてゆっくりと蓋を開け、彼は落雁を見ると私に満面の笑顔で言った。
「これは、すごい…これ、美味しいですよね!私は大好きです…」
「良かった……沖田さんに気に入って貰えて…」
それから、彼は落雁を一つ口に頬張ると、美味しそうに食べてくれた。
「とても美味しいです」
「……沖田さん、口元についてますよっ」
「え、どこですか?」
落雁の小さな白い欠片のようなものが、彼の口元に付いていたので、私は帯から小さな手拭を取り出すと、彼の口元を丁寧に拭き取った。
「はい、取れました」
「あ、ありがとう…春香さん」
まるで、母親と子供のようなやり取りに、私は思わずくすくすと笑うと、彼は、少し不貞腐れたような顔をしたけれど、次第に苦笑に変わり、「参ったなぁ…」と、照れながら言った。そして、彼がお菓子を食べ終わるのを見届けると、私は箱と風呂敷包みを綺麗にたたみ、懐へとしまい込んだ。
一息ついた彼を見て、私はまた微笑む。すると、その微笑を受け、彼も微笑み返してくれる。
そんな視線同士の交換が出来る今を……。
今、この時を大切にしたい…。
そう思った途端……忘れかけていた不安が少しずつ甦ってきた。
新撰組として、一番隊隊長として……。
彼は、今まで以上に危険な目にあっている。
もしかしたら、いつか……彼を失ってしまうかもしれない…。
でも、なぜ今……そんなことを…。
こんなに幸せなのに…。
「……春香さん?」
「あ……な、何でもないです…」
私は一生懸命平静を装うと、静かに立ち上がった。
「……そろそろ…置屋へ帰らなければ…」
それから、私達は少しガッカリしながらも、住職にお礼を言って華厳寺を後にすると、彼に置屋まで送って貰うことになった。
さっき上ってきた階段を下り、もう一度、お地蔵様の前に行くと二人でお辞儀をした。
私がお地蔵様を見上げていると、彼も同じように見上げながら、「……ここのお地蔵様は、本当に願い事を叶えてくれました…」と、ポツリと呟いた。
「沖田さんは、どんなお願い事をしたんですか?」
「それは……」
私の問いかけに、彼は少し俯き口ごもりながら言った。
「あなたの思い人が、私でありますように…と」
「沖田さん……」
「春香さんは、どんなお願いをしたのですか?」
「あの、私は沖田さんが、ずっと元気でいられますよう…にって……」
言いながら、何故か胸が切なくなって…私は知らない間に涙をこぼしていた。
「は、春香さん…」
驚く彼の胸に思いっきり飛び込むと、泣き顔を見られないように俯いた。やがて、彼は躊躇いながらも、そっと私の身体を抱きしめてくれた。
「…………」
無言で抱きしめる彼に、私は静かに口を開いた。
「……怖いんです…」
「……怖い?」
「沖田さんがいつか、私の前からいなくなってしまうんじゃないかって思うと…」
「…………」
嗚咽にも似た声を漏らし、自分でもビックリするほど歯止めが利かなくなっていた。そんな私を、彼はさらに力強く抱きしめた。
「……すみません、春香さん。でも、私はあなたの前から居なくなったりはしません。絶対に…」
「……っ…沖田…さん」
「だから、泣かないで下さい……」
そして、彼は私を抱く手を緩めると、私の髪を優しく撫でながら耳元で囁いた。
「いつか……私だけの…あなたになってください」
彼からの告白に、今度は嬉し涙が溢れ出す。
どうか……私のたった一つの願い事を叶えて下さい。
沖田さんが生きていてくれるなら……。
それだけで幸せだから……。
ふと見上げたお地蔵様の顔に夕焼けのオレンジがさしかかり…
私には、お地蔵様が笑っているように見えた…。
<おわり>
~あとがき~
今回は沖田さんに渡しに行くパターンをちいとばかし本編にそって書いてみました!
ただ、「いつか…私だけのあなたになってください」って、沖田さん言ってたっけ?って、それだけが引っかかってます(笑)
次は、慶喜さんにしようか、秋斉さんにしようか…土方さんにしようか…迷ってます