<艶が~る、妄想小説>
今回は、龍馬さんのお話の続きをUPしました
翔太くん以外は全員一通り書けましたっ
前回は、高杉さんと龍馬さんが、春香(主人公)を賭けた戦いが始まる前で終わりましたが
投扇興で勝つのは高杉さんか…龍馬さんか…。
(初めての方は、良ければ前半からどうぞ)
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もう一つの艶物語 その2 ~想い~ (後半) *坂本龍馬*
「お前、本当に止めなくていいのか?」
翔太くんが疲れたような表情で言うと、私のほうを心配気に見た。
私は、お座敷に来ているお客様を喜ばせるのが仕事だから、高杉さんの望むことも出来るだけしてあげたいと思っている。けれど、龍馬さんが私をかけて勝負してくれることになった時、嬉しくて…私は龍馬さんのことを密かに応援していた。
「わしが先じゃな…」
蝶めがけて扇を構える彼の額には、うっすらと汗が滲んでいた。
そして、無言で扇を投げる。
「…っ……」
「龍馬さん、鈴虫…7点」
「むぅ…こりゃいかんちや…」
「俺もやったことは無いんだが、お前には勝てそうだな…」
「おんしには…絶対に負けんぜよ」
高杉さんの番になり、何度か構え直すと、彼はすっと扇を投げる。扇は蝶を見事にかすめ、高杉さんは真木柱、30点をたたき出した。そして、龍馬さんの二投目は、健闘して浮舟を出したのだった。
「おお!やったき!高得点が出たぜよ」
龍馬さんが大喜びする側で、高杉さんがチッと舌を鳴らす。それから五回ずつ投げ終わると、次は高杉さんが先行、龍馬さんが後攻に入れ替わり、後半戦が始まった。二人はコツを掴んできたのか、得点もどんどん上がっていった。
そして、いよいよ…最後の勝負。
高杉さんは、いつにもなく真剣な眼差しで集中していた。その横顔は、まるで獲物を狙う鷹のように鋭かった。
「最後の一手だ…」
狙いを定めると、ふっと扇が舞った。
「た、高杉さん…夢の浮橋…50点」
次は、龍馬さんが投げる番だ。
「龍馬さん、頑張れ!」
翔太くんも声援を送る中、私も心の中で、龍馬さんを必死に応援する。
「わしはあと、何点取りゃあ高杉に勝てるがか?」
「えっと…30点取れたら勝てます」
「ほうか……」
そう呟くと、龍馬さんは神経を集中させながら、ふわっと扇を投げた。
「どうじゃ!」
「……龍馬さん!ゆ、夢の浮橋…出ましたよ!」
「やったぜよ!」
龍馬さんがまるで子供のように喜んでいるその横で、高杉さんが呆気に取られたような顔で龍馬さんを見ていた。
「ふんっ……俺の負けだ。ちっ…つまらん…春香、酌を頼む」
高杉さんにお酌を頼まれて側に行くと、彼は小声で呟く。
「あいつがただの遊びで、あそこまでムキになったのを初めて見たな…」
「……えっ」
「さっきの件だが…もしも、俺が勝ってたら朝まで俺の側にいてくれたか?」
その言葉にドキッとし、返事に困ってあたふたしていると、龍馬さんがまた声をかけながら近づいてきた。
「高杉!おんしゃあ、まっことばぶれたら、いかんぜよ!(我儘いうのはいかん)」
「いや、春香が俺と一緒に朝まで居たかったって言うもんだからな」
「なっ!……それは、げにまっことほんまかえ?(ほんとうなのか?)」
龍馬さんが今までに無いほど引きつった顔をしながら私の方を見て言った。
「え?いえ、違いますよ!私、そんなこと言ってないでしょ!」
「はははは、お前らのその顔が見たくてな!すまんすまん、からかい過ぎた」
私と龍馬さんは、お互いの顔を見合わせると苦笑した。また、彼に一杯食わされたようだ。
「高杉……覚えとけよ!」
「騙されるお前が野暮なんだよ」
二人の言い合いを制しながらも、ふと、翔太くんが目を擦りながら眠そうにしているのが目に入った。
「翔太くん、大丈夫?」
「ああ、最近…寝不足だったから。もう眠くなっちまった」
両目を擦りながら言う彼は、まるで子供のようだった。私は夜型人間だけど、彼は違う。昼も夜も、龍馬さんの護衛などをして気の休まる時間が少ないのだろう。それでも、龍馬さんと高杉さんが話しているのを少し離れたところで見つめる彼の瞳は、とても優しく見えた。
「あの、今夜は…皆さんでここに泊まっていったらどうですか?」
私は、三人に向けて話しかけると、三人は同時に私を見て叫んだ。
「何っ!?」
あまりにも同時に言うものだから、私は可笑しくなってお腹を抱えて笑ってしまった。そして、顔を真っ赤にしながらも、最初に口を開いたのは翔太くんだった。
「お前、何いってるんだよ!お前はその…仮にも遊女なんだぞ。遊女は…だから、その…」
翔太くんが言いよどんでいると、隣でニヤニヤしていた高杉さんが口を挟む。
「遊女は、男と一夜を共にするってことを言いたいんだろ、結城」
「!……いや、だからその!………はい」
さっきよりも顔を真っ赤にして俯く翔太くんに、なおも高杉さんがお構い無しに話し出す。
「……誰と朝までいるつもりだ?」
「え?…誰とって……」
私がまたドギマギしていると、今度は龍馬さんが私と高杉さんの間に入ってきた。
「みんなで寝るぜよ!のう、春香」
「え?あ……そうです!みんなでゴロ寝しましょう!」
「あん?男と寝るなんて俺は遠慮するぜ」
「なんじゃ、おまんも泊まっていけば良いきに…」
「俺はこのへんでお開きだ」
高杉さんは帰り仕度を終えると、一人お座敷を出て行った。
私は、彼の後を追い、揚屋の玄関まで見送ることにした。
早歩きで歩く彼の背中を見つめながら玄関まで辿り着くと、彼は軽く咳込んだ。
「大丈夫ですか?」
「……ああ、お前も身体を壊さないように気をつけろよ」
「高杉さんも」
彼は、「じゃ、またな」と私にいうと、足早に揚屋を後にした。
そして、翔太くんと龍馬さんの待つ部屋へ戻ると翔太くんは壁に寄りかかってウトウトとしていた。龍馬さんは人差し指を口元に持ってきて私のほうに近づくと、彼は小声で呟く。
「布団を持って来ちゃって…」
布団の準備が整うと、龍馬さんは優しく翔太くんを起こし、布団で寝るように促した。翔太くんは、少し寝ぼけまなこで私たちを見ると、「すみません、お先に失礼します」と、言って布団の敷いてある部屋へ行き、ぐーぐーと寝息を立て始めた。
「翔太も、ここ数日は大変やったき…久しぶりにおまんにも会えてはしゃいじょったき、疲れたんじゃろうな」
「そうだったんですね…翔太くんも頑張り屋だから」
「…わしの弟みたいなもんじゃ。ほんに翔太には感謝してるぜよ」
行灯の火が今夜は、彼の優しい微笑みを艶めかしいものに変えていた。
「ところで、春香。もうじき、わしと翔太は京を離れることになる。次は、いつ来られるか分からんき、今夜はここに泊まることにしたぜよ」
「龍馬さん、あの…」
「ん、なんじゃ?」
彼の優しい瞳に、私はドキドキしながらも勇気を振り絞って言った。
「あの、龍馬さん…私もここに寝てもいいですか?」
「……それは、げにまっことなが?」
「良ければ…龍馬さんの布団に一緒に寝かせて下さい」
彼はものすごく驚いていたが、私は思いきって今までの気持ちを全て伝える。
「龍馬さん、私は…初めてあなたと会った時から、優しい笑顔に恋焦がれるようになっていました。あなたに会えない日は寂しくて…今夜は会えて嬉しかった」
すると、彼は私の手を引き、あぐらをかいた彼の上に私を座らせる。そして、私の肩を抱きしめ、手を握り締めながら耳元で優しく囁いた。
「わしもじゃ…遠い地であっても、ちくと心が疲れた時はおまんの事を思い出すんじゃ。おまんも見ちゅうかもしれん、青空や星空を見上げてのう」
「龍馬さん……」
私は、彼の広い胸に頬を寄せると、彼はさらに私を強く抱きしめた。
「投扇興で、高杉さんと張り合っていた龍馬さん……すごく素敵でしたよ。今夜に限らず、私を…ずっと龍馬さんの隣に置いてくれませんか?」
「……こりゃあ、めったのう…おまんから先に言われてもうた」
すると、彼はゆっくりと私に顔を近づけておでこにキスをした。その優しい温もりに、私はこれ以上無いくらい幸せを感じた。そして、私から彼の唇へキスをしようとした、その時だった。
「……ぬぁぁ!龍馬さん!」
襖の向こうで寝ているはずの翔太くんの声がし、私たちは、一瞬ドキっとしてお互いに身体を離して襖を見やったが、襖は閉まったままだった。そして、そっと襖を開けると翔太くんは布団を脇に大の字で寝ていた。
「寝言じゃったか……」
龍馬さんが呟くと、私たちは顔を見合わせてくすくすと笑った。またゆっくりと襖を閉めると、私たちは元の位置に再び座り直し、さっきと同じように彼に寄り添った。
「翔太くん、夢の中まで龍馬さんを守ろうとしてる」
「はは、頼もしいのう。ほんに、翔太や春香に出会えて良かったぜよ。けんど、わしはいつも危険と隣り合わせじゃき……ずっと傍におくことは出来んかもしれん…じゃが、わしが最後に帰る場所はおまんのところだけじゃ」
彼の吐息が首元や耳をくすぐる度、私はぞくぞくしながら受け止める。やがて、彼の整った優しい顔がゆっくりと私の顔に近づく……。
と、その瞬間。
「逃げろ!龍馬さん!!」
翔太くんの声が聞こえて来て、私たちは顔を見合わせて襖のほうを見る。また、翔太くんが寝言を発したようだ。その声を聴いて、龍馬さんは苦笑した。
「しっかし、なんてはっきりした寝言じゃろ…今夜はまた翔太に邪魔されそうじゃのう」
私たちは顔を見合わせてクスクスと笑い合った。
その後も、しばらく寄り添っていろんな話をした。今まで、龍馬さんがやってきたこと。そして、これからやって行きたいことなど。やがて、龍馬さんも大きな欠伸を一つすると、目をとろんとさせた。
「……名残おしいが、もう寝るかのう」
「そうですね」
「春香、ほんにわしと同じ布団で寝るつもりかえ?」
「……駄目でしょうか?」
すると、彼はにこっと笑い、翔太くんの眠る部屋へと移動し、隣で眠る翔太くんを起こさないように、布団を一式今までいた部屋に移動させた。布団が敷き終わると、私たちは寄り添って寝転がりお互いの身体を温め合う。龍馬さんの隣は、温かくてとても安心出来た。
「寒くないがか?」
「全然……とても温かいです」
彼は私の頬に手をあて、さらに温もりを分けてくれる。
私は彼の広い胸に顔をうずめると、すぐに眠りについた。
「……寝るのは惜しいのぅ。いつまでもおまんの寝顔を見ていたいちや…」
悲しそうな瞳で呟く彼を、私は知らずにいた。
運命のいたずらに翻弄される私達の未来は…。
それは、神様のみぞ知る。
<つづく>
「もう一つの艶物語 その1 ~想い~(後編)」 おわり。
この続きは、~旅立ち~(前半)#3 で( *´艸`)