<艶が~る、妄想小説>
今回は、秋斉さん、古高さん、龍馬さん、沖田さん、土方さんに引き続き…
高杉さんを書いてみました
私敵には、S的なイメージよりも、悪戯っぽいイメージの高杉さん
いつもより、ちいとばかし違う高杉さんもいいかなって
イメージが壊れていなければいいのですが
しかし、毎回…秋斉さんだけは出てくるわけで
秋斉さんってやっぱ、頼れる人って感じで素敵だぁぁ
良かったら、今日もまたお付き合いくださいませ
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<もう一つの艶物語 ~素顔~> *高杉晋作編*
「春香はん、起きてはる?」
襖の向こうから、番頭さんの声がして私はどうぞ、と声を返した。
番頭さんがすーっと襖を静かに開けて入って来ると、手紙みたいなものを私に渡してきた。
「これ、あんさんに」
「何ですか?これ…」
「先ほど、大和様という方より預かりましてな。その方は、高杉様より預かった言うてはりました」
「た、高杉さん?!」
「へぇ。ほな、確かに渡しましたえ」
と、いうと番頭さんはいそいそと部屋から出て行った。
「あ、ありがとうございました」
手紙を読みたいような…このまま読まないほうがいいような。複雑な思いを抱えながらも、私は高杉さんからの手紙が気になり、秋斉さんに読んで貰うことにした。
夜もふけたこんな時間にお話をしに行くのは気が引けたけれど、彼の部屋の前で声をかける。
「秋斉さん、ちょっといいですか?」
「春香はんか?お入りやす」
彼の声を聞き、私はゆっくりと襖を開けて中へ入ると、彼は記帳作業をしている最中だった。
「お邪魔します。…こんな夜更けにすみません」
「どないしたんどす?…眠れまへんのんか?」
と、いつもの優しい笑顔で彼は言った。
「いえ、そうじゃないんですけど…」
「ほなら、なんですの?」
「はい、あの…じつは、高杉さんから手紙をいただいて…」
「どないな?」
高杉さんからの手紙を秋斉さんに渡し、彼は一通り目を通すと、呆れ顔で話し出す。
「あのお方も、ほんにしょうもない…。明日、大和様いうお方が、あんさんを迎えに来るようどす」
「え、私を迎えに?」
「へぇ……そのお方の案内のもと、一緒に高杉はんのところへ来て欲しい…と、書いてはりますえ」
「相変わらず…自分勝手というか…なんというか」
私が俯きながら呟くと、彼は少し微笑んだ。
「あんさんは、どないしたいんや?高杉はんに会いに行きたいんか?」
「は……はい。でも、明日は無理ですよね。そんな急に…」
「ええよ」
「え、いいんですか?!」
「高杉はんは、うちの店を御贔屓にしてくれとるさかい。それに、あんさんのこともな」
「あ、秋斉さん…」
「明日のあんさんの分の仕事は、なんとかしまひょ。その代わり、倍にして返してもらいますよってに。それでええどすか?」
「はい!ありがとうございます」
最初、微笑んでいた彼は真顔になると、私を見つめて言った。
「押し倒されたりしたら、遠慮無くわてに言いや。後で倍にして返してもらうさかい」
「え?……は、はい」
それから、私は自分の部屋へ戻ると、明日の為の簡単な身支度を整えた。
明日は久しぶりに、高杉さんに会える…。
彼が元気でいてくれたことが何よりも嬉しくて…。
私は布団に入ると、明日のことを思い描きながら眠りについた。
そして、次の日の朝。
私は早起きをして支度を終わらせると、お迎えをひたすら待ち続けた。
(遅いなぁ…そういえば、いつ頃来るのかは書いてなかったなぁ…)
私は、気持ちだけが空回りしているかのようだった。
そんな時。
「御免、どなたかいらっしゃいますか?」
と、一人の男性が礼儀正しく店に入って来て言った。
「はい、どんな御用でしょうか?」
と、私が答えると、その男性は「自分は、大和弥八郎です」と、名乗った。
「あの、もしかして…高杉さんからの手紙を届けて下さった、大和様ですか?」
「はい。あなたが高杉さんが言っていた春香殿でしょうか?」
「はい、そうです…」
「では、参りましょうか。私に着いてきて下さい」
そう言うと、彼は無言で歩き出す。
私も、彼に置いて行かれないように少し早歩きで歩く。どれだけ歩いただろうか、知らない場所へ行く時はとても遠く感じるもので、私は疲れと不安でいっぱいになっていった。
その後、彼は一軒の見知らぬ家の前で足を止めた。
「ここです。私は他にも行かねばならない場所がありますので、これで…」
そう言うと、彼はまたどこかへ歩いて行ってしまった。
私が途方に暮れ、大和様の背中を見ていた時だった。背後から声がして振り向くと、そこには懐かしい人が立っていた。
「春香、待ちかねたぞ」
「た、高杉さん!!」
「しっ、静かに!俺の名前をそんなでかい声で呼ぶ奴があるか」
彼は、私の口に手を当てながら声を抑えて言った。
「……だって、いつも突然なんですもん」
彼の手を払いつつ、半べそで答える私に、彼はニヤリと微笑む。
「俺に会えなくて寂しかったか?」
「……はい、寂しかったです」
「……まぁ、上がれ」
私が素直に答えると、彼は少し驚いたような表情を浮かべたけれど、すぐに私の手を引いて家の中へと案内してくれた。私は彼に促されるままに、居間らしき部屋へと通される。ガランとした居間に木で出来た机が一つ置いてあり、その机の上や周りには手紙らしきものが散乱していた。
「そのへんでくつろいでくれ」
「はい…ところで、ここはどなたの家なのですか?」
私が尋ねると、先ほどの大和弥八郎さんの友人の家だと教えてくれた。
今は、その人もある事情があってこの家を空けているらしい。
「あ、あの、お茶でも煎れてきましょうか?」
と、立ち上がる私の手を引き、「いや、茶はいい。お前は、ここにいろ」と、言った。
「は……はい」
しばしの間、沈黙が流れる。
高杉さんが追われる身なのは分かっているけれど、なぜここに私を呼び出したのか…たった数秒の沈黙の中で、私はいろいろ考えた。でも、その沈黙を破ったのは彼からだった。
「春香、初めて俺たちが出会った時のことを、覚えているか?」
「忘れたくても…忘れようがありませんよ。あまりにも強烈だったので…」
「お前、言うようになったな」
彼は、苦笑まじりに言った。
彼と初めて会ったのは、置屋の私の部屋だった。
ふいに窓から高杉さんが入って来て、私はパニック状態になり、彼が誰かに追われている身であることを知った。強引な彼の言動に振りまわされつつ、私の中で彼の存在がどんどん大きくなっていったのだった。
「あれから、だいぶ経つが……女っぽくなったな」
そう呟く彼の視線が、私を真っ直ぐに見つめている。
私は心臓が飛び出そうになるくらい、ドキドキし始めた。
「春香、三味線や舞の稽古は順調か?」
「はい、最近は秋斉さんからも褒められるようになってきました」
「太夫にでもなったらどうだ。お前は、もっと上を目指せる……この俺を本気にさせたんだからな」
そういうと、私を強く抱き寄せる。
「た、高杉さん!」
相変わらずの大胆行動に、私はまたドギマギしてしまう。
「なんだ、俺に抱かれに来たんじゃないのか?」
「会いに来たんです!その…抱かれに来た訳じゃ!」
「春香……」
ふいに、彼が私の名前を呟くと、今度は優しく包み込むように抱きしめてきた。
「少しの間、こうしていたいんだが…いいか?」
「た……高杉さん?」
いつもと違う彼の対応に戸惑いながらも、私は彼の胸にそっと寄り添った。
すると、その瞬間。
「なんてなっ……」
「へ??」
「ぶっはははは」
「なっ!!何ですか!」
「お前のその顔!傑作だぞ」
目を丸くして驚く私の顔を見て、彼は大笑いをしながら言った。
「な……な…あなたという人は…」
私が呆気に取られていると、彼は更にニヤリとしながら言う。
「お前は本当に楽しい奴だな」
「もう…いい加減にしてください!」
「怒った顔も、可愛いぞ」
「………」
「ははは、すまんすまん。からかい過ぎたな」
私は泣き笑いのような表情で、彼を睨み付けた。
……いつもそうだ。
高杉さんは、何かって言うとこうやって話を逸らしたがる。
私は、慣れたつもりだったのだけど、まだまだ彼のこの性格にはやられっぱなしだった。
すると突然、彼は私を強く抱きしめる。彼の吐息が、私の耳元をくすぐった。
「…お前のいろんな顔を目の奥に焼き付けたい」
「また、それも嘘なんでしょう?」
「いや、これは本音だ」
「高杉さん…」
「次は、いつお前に会えるか分からんからな。今日だけは誰にも邪魔されずにお前との時間を過ごしたい」
「……高杉さん、私…」
言った途端、なぜか私のお腹がぐぅ~っと鳴った。
そういえば、朝ご飯もそこそこに済ませてお迎えを待っていたから、もうお腹が悲鳴を上げたのかもしれない。
それにしても、なんてタイミングのいい腹の虫なんだろう…。
「ぷっ…はははは。腹減ったのか?」
「……は、はい」
「じゃ、何か作れ。俺も朝から何も食ってなくて腹が減ったからな」
彼は、私の頭をくしゃくしゃさせながら言うと、台所へと案内してくれた。
それから、私は彼の食べたいという野菜の煮物を作り、二人だけでご飯を食べる。
そんな平凡な時間が、私たちには何よりも幸せに感じられた。
「ふぅ~、食った食った。美味かったぜ」
彼は、お腹を押さえながら満足気に言った。
「お粗末さまでした」
「お前は料理もちゃんと作れるんだな」
「気に入って貰えて良かったです」
私が笑顔で答えると、彼はまた私を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「次、こっちへ戻ってきた時、また俺の為に飯を作ってくれるか?」
「勿論です」
「……期待しているぞ」
<……期待しているぞ>
彼のこんな優しい声を初めて聴いた。
そして、今度こそ彼の本音が聞けたような気がした。
明日からまた会えなくなるけれど、今日一日で私は、彼の笑顔も、少し哀愁が漂うような表情も、笑い声も、沢山胸の中に詰め込んだ。
すぐにまた、彼に会えますように……。
私は、彼の温もりを感じながらそっと神様にお願いした。
**お粗末様でした(⊃∀`* )**
なぜか、高杉さんのイメージはこんな感じに…。
S的なイメージより強いのです(⊃∀`* )