66.

 

 

  リック・ロシアン・ブルーの生命は風前の灯だった。倒れて動けない彼の喉元目がけ、ソル・バウアーが今まさに光剣を振り下ろさんとしていた。リックはソルの麻酔攻撃で、意識こそかろうじてあるものの、四肢の感覚は麻痺しており指一本動かすこともできない状態だった。全身を切り刻まれ、出血もかなりの量だ。幸いなことに痛みは感じないが、それでもこのまま安楽な死を受け入れる気にはなれなかった。

  無情にもソルの剣は振り下ろされる。しかし、リックの中のある怒りの感情がもう一度燃え上がった。

(死はいつでも受け入れるつもりだが、こいつにやられるのだけは…)

  我慢ならん、とリックは叫んでいた。そのまま背中にある装甲から爆発的な火炎を吐き出し、ギリギリのところでソルの剣をかわして地を滑った。体は思うように動かないものの、わずかに上体を起こすことで徐々に上昇する。

「往生際が悪いぞ!青の疾風!!」

  ソルがリックの後を追うように飛び上がる。しかし、全身が麻痺していてもスピードはリックの方が上だった。リックは大きく距離を取り、上体を左右に捻ることで方向を制御する。時にはわざと落下することで、そしてまた背中からの噴射の力でソルから逃げる。そのランダムな動きとスピードに翻弄され、ソルは中々距離を縮めることができない。

「くっ!ちょこまかと!」

  明らかにソルは苛立っていた。青の疾風のスピードを改めて痛感し、そして近い未来を予見することでその苛立ちは焦りに変わった。

(このまま逃げられていては、麻酔の効き目が薄らいでしまう)

  まさにその時、リックは体の感覚が少しずつ戻ってきていることを感じていた。かわりに先ほど切りつけられたところが痛み始める。そしてリックは、自分がまだ剣を持っていることに気づいた。

(まだ俺の麻酔は効いているはずだ。しかし、このままでは…。早めにケリをつけるか、それとも今のうちに退却するか…)

  ソルが逡巡していたその時、唐突にリックが失速し地表に向かって落下を始めた。ソルはすぐに追うことはせず、リックの動きを観察した。先ほどまでとは違い、落下を利用した方向転換ではないように見える。リックの体はピクリとも動かず、未だに落下し続けている。

(しめた!意識を失ったな、青の疾風!)

  ソルはリックの後を追い地表を目がけて加速する。徐々に距離が詰まっていく。

「今度こそ、トドメだ!」

  ソルは勢いもそのままに剣を振りかぶる。リックとの距離はわずか二十メートルほど。

  しかし、その距離があっという間にゼロになる。

  気づいた時にはすでに切られていた。

  空中でソルの体が二分される。

  自分の下半身が落下していくのが見える。

(なぜだ…)

  薄れていく意識の中、ソルは空中で静止するリックを見た。

(止まったのか?)

  そしてソルは意識を失った。

  下半身を追うように、彼の上半身も落下を続ける。

  そして徐々に崩れていき、地表に到達することなくチリとなった消えた。

  リックはそれを見送るように空中に静止している。

(危ないところだった…しかし、なんとか動いてくれたな、この手首だけは…)

  リックはゆっくりと降下し、地表にたどり着いたものの、下半身の自由がきかず倒れ込んでしまう。

(シャドウたちには申し訳ないが、しばらくは動けんな…)

  リックはそのまま意識を失った。