ビートたけしの修行時代を描いた小説「浅草キッド」にこんなシーンがある。
ある日フランス座に大学生達がやって来た。聞けば前衛舞踊をやっていて、とにかく客前で踊りたい。こちらのストリップ劇場に出して貰えませんか?との事。
たけしの師匠でありフランス座の経営者でもある芸人の深見千三郎は「裸なら何でもいいんじゃねぇか?」とあっさり出演を許可する。
いざ舞台に上がると、前衛舞踊など見た事も聞いた事もないストリップ目当ての客は全員ポカンとしていたそうだ。
まあ、そうだろう。
突然ドスン!と言う音がした。
踊っていた大学生の1人が客席に落ちてしまったのだ。
プロの踊り子であればステージのサイズは把握しているが、初めての舞台に加えてスポットライトで視界が極端に狭まった状態では仕方なかったとも言える。
慌てて駆けよったたけしに「僕は大丈夫です!続けさせて下さい!」と頭から血を流しながら訴える彼。
「師匠、どうしましょう?」
たけしが聞くと千三郎は言った。
「馬鹿野郎!客に一生懸命なところ見せてどうしようってんだ!」
この一言で大学生達はあっさり撤収させられた。
僕にとってのプロフェッショナルの定義はこのエピソードに全て集約されていると言ってもいい。この場合の「プロフェッショナル」は「エンターテイメント」のプロであり、客を沸かせてナンボの「エンターテイナー」の事である。
かつてギタリストの石田長生さん(故人)と頻繁にご一緒させて頂いた時期があった。
「エンターテイナー」という言葉は使わず「わいは出芸人や」と度々言い放っていた姿が思い出される。
「舞台に上がって、ギター弾いて、客をワッ!と言わせる。それが俺の仕事やねん!」
「ロック・アラウンド・ザ・クロック」の大ヒットで知られるロックンロール・レジェンドの1人ビル・ヘイリーはあるインタビューで「後世の人達から何と呼ばれたいですか?」との質問に「エンターテイナーと呼ばれたいね。」と答えている。
ヒットメイカー、イノベイター、芸術家、成功者、どれもが当てはまる彼だったが、他人からどう認識されたいかを問われた時の答えは「エンターテイナー」だったのだ。
こんなプロフェッショナル達に俺は憧れるし未だに目指している。
というワケで、、、、、
ステージでぶっ倒れて黄色い悲鳴の嵐の中タンカで運ばれるロックバンドのドラマーなんてのは俺にとっては最もカッコ悪いのだ。