うすくだら | あぶくさぶく

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トルコ語あれこれ

Ya, Mustafa と言えば・・・同じ頃日本でヒットした歌に「ウスクダラ」が あります. 1954年に江利チエミが歌った曲ですが、もとは Eartha Kitt というアメリカの女性歌手が 1951年に イスタンブルに来た際 この歌が気に入り、1953年に "Uska Dara - A Turkish Tale" として 世界的にヒットさせたものだそうです.
江利チエミの「ウスクダラ」、恐らく、多くの日本人が初めて聞いた トルコの歌だったんじゃないでしょうか. もっとも この曲の作曲者は なんと スコットランド人で 厳密には トルコの曲じゃ なかったようなんですが.
その「ウスクダラ」、トルコ語では Üsküdar'a (ユスキュダルへ)となりますが、<ユスキュダル>は イスタンブルのアジア側にある地区のことです.

ネットで見つかる 一番有名な話を要約すると こんな感じです.
スルタン・マフムート2世の時代に 軍については 西洋式の軍服が導入されたものの、文民の服装は 以前のままだった. スルタン・アブデュルメジドが 即位すると、文官についても 西洋風の服装をするよう命じた. これは 評判が芳しくなかったようで、「神を信じない者の格好を真似ろというのか」といった受け取られ方をされていたらしい. 中には 抗議の意味をこめて スボン下で 街へ出る者もいた由. 明治初期の日本を 見ているようです.
ときは オスマン朝末期のクリミア戦争時代、スルタンは 同盟国であったイギリス軍のために オスマン軍の兵舎を 病院として提供することにした. イギリス軍のなかには スコットランド人の部隊もあったのだが、トルコ人は スコットランド人を <スカートを履いた なさけない連中>と みていたようで「ズボン下もはかない兵隊」と 呼んでいたらしい.
さて、イギリス軍が 連隊歌を作ることになり、スコットランド人の作曲家が この連隊のために マーチを 作曲したのが Üsküdar'a のメロディー. これに対して イスタンブルのある人物が、兵舎が Üsküdar 地区に あったことから 着想して 役人(katip)を 揶揄する歌詞をつけた. こうして 「ウスクダラ」の 元歌 「Üsküdar'a (Giderken)」が できたんだそうです.
後に 楽器(オルゴール?)付き置き時計が スコットランドから もたらされたとき、このマーチが セットされていました. イスタンブルでは「Katip の民謡時計」と名づけられた この時計が 飛ぶように売れたそうです.

ところが、Bir İstanbul Masalı というブログによると、男女に 実在のモデルが いたんだそうで、男の方は Aziz Mahmud Bey という名で ユスキュダル裁判所の筆頭書記をしていた人物. すらりと背が高く 目のきれいなハンサム青年だったそうで、52歳で 亡くなるまでに 17回も結婚したんだとか. また、この曲の作詞・作曲は Seyyide Hanım という女性で、他の男と 結婚していたのに Aziz Mahmud に惚れて 夫と離婚し Aziz の妻になった人物だそう.つまり Üsküdar'a Giderken は Seyyide Hanım が 自分のことを 歌った・・・ということなんでしょうか. これだと 最初の説と 矛盾するんですが さて・・・.もっとも、この曲 アラブ起源説など いろんな説があるらしく、比較的新しい曲なのに 謎の多い曲です.
ちなみに 今 Üsküdar には "Kâtibim Aziz Bey Sokağı" と名づけられた通りが あるようです.

また、この歌には Nuri Halil Poyraz (1885–1950) と Muzaffer Sarısözen(1899–1963) という名前が クレジットされていることが多いんですが、いずれも クリミア戦争(1853~1856年)よりも ずいぶん後の人なので、二人がこの歌と どういう関係なのか、これも私には謎です.

なお、この歌、トルコ人の友人に 聞いてみると いろんな意見が聞けます. ある人は、「これは 男と女の デュエットの曲なのよ」と言いますし、別の人は 「いや、これは ゲイの歌だよ」と 言います. 確かに 私が知っている "Üsküdar'a Giderken" は ほとんど 男性歌手が 歌っています. 少なくとも 歌詞の主要部分は 女性のセリフなのに 変だなとは 思ってました. ゲイ説が 正しいのかどうか 知りませんが.
男性が 女性のハンカチを拾ったときに、ハンカチに ロクムを包んで 女性に渡すのは プロポーズの意味だとも 聞きました.

ご参考までに 歌詞と訳を 載せておきますので ご自身で 判断してみてください.

Üsküdar'a Gider İken (ユスキュダルに行く途中)
Üsküdar’a gider iken aldı da bir yağmur (雨に降られちゃった)
Katibimin setresi uzun eteği çamur (彼の服は長いから 裾が泥だらけ)
Katip uykudan uyanmış gözleri mahmur (彼氏は寝起きで 目はうつろ)

Katip benim ben katibin el ne karışır (彼は私のもの、私は彼のもの、なんて 手が絡まってるの.)
Katibime kolalı da gömlek ne güzel yaraşır (糊のきいたシャツが とってもお似合い)

Üsküdar’a gider iken bir mendil buldum (ユスキュダルに行く途中 ハンカチを見つけたの)
Mendilimin içine lokum doldurdum (ハンカチを ロクム菓子で 一杯にしたわ)
Katibimi arar iken yanımda buldum (彼が どこかと探したら 隣にいたわ)

Katip benim ben katibin el ne karışır (彼は私のもの、私は彼のもの、なんて 手が絡まってるの.)
Katibime kolalı da gömlek ne güzel yaraşır (糊のきいたシャツが とってもお似合い)

※ el ne karışır は どういう意味なんでしょうか.一応 上記のように 訳しておきましたが.

ちなみに、"Üsküdar'da sabah oldu.(ユスキュダルでは 朝になった)" という慣用句があります. 「遅かりし由良之助」と 同様、時機を失するという意味ですが、聞いたところによると、かつて Üsküdar には 歓楽街があり、そこで 一夜を過ごしてしまって 用事・仕事に 間に合わなかった・・・というところから 来ているそうです. トプカプ宮殿は 海峡の向こうですから、もし この人物が 宮廷に勤める身なら 間に合わなかったでしょうね.


参考リンク
[turkucu.net]
[Bir İstanbul Masalı * Blog]
[Katip は こんな感じ?]
[Eartha Kitt - Uskudara Giderken]
[江利チエミ - ウスクダラ]
[Kâtibim Aziz Bey Sokağı - Google Map 等で 以下の緯経度を検索してみてください]
41.024803,29.023216
リンクが切れている場合は ご自身で 再検索してみてください.

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