日本国内で高齢者や障害者に対する社会的「バリア」となりうる確執(物理的、精神的etc・・・)を取り除く試み=「バリアフリーデザイン」が叫ばれて久しい。 今日では、その意識の定着からソフトやハード面でハンデを負う人々に対し、文字通り「段差」を取り除くということが一般的と言えるレベルにまで浸透してきました。 しかしながら、精神的負担を負うことに対して必要以上に敏感な現代の社会では、取り除く目的である「バリア」という言葉さえも「差別」だとの見方もあります。

一方で「バリアフリーデザイン」が当たり前とされる歩道、道路などの土木、建築の分野や、生活家電、雑貨、衛生福祉機器などの業界では、「バリアフリーデザイン」という「特定の人に優しいデザイン」の枠組みを超えた「誰にでも優しいデザイン」という意味合いで「ユニバーサルデザイン」という言葉が生まれ、実際のプロダクトが施工、また、製品化されてきています。

■ユニバーサルデザインとは、

年齢、国籍、性別、個人の能力を問わず、誰もが可能な限り利用しやすいように、特別仕様のデザインをすることなしに、製品、建築物、環境をデザインすること

です。

この考え方は、アメリカノースカロライナ州立大学ユニバーサルデザインセンター所長であった故ロナルド・メイス氏によって提唱されたものです。

今、建築業界では、ともすればそのデザイン手法がバラバラになってしまうとも言える「ユニバーサルデザイン」の考え方に、道筋を与え方向性を示そうとする動きがあります。 建築の設計という立場からそのデザインを提供することを考えれば、今後その意識が必要になることは眼に見えています。 しかしながら、具体的な方向性も定めず、手当たり次第思いつきでそれを導入することは、使う立場の人の意識をくみ取らない、独りよがりの設計にもなりかねません。 そういう時に、ユニバーサルデザインの趣旨を理解してその手法を採用することこそ、本当に意味のある設計であったといえる気がします。

ここで、その手法として示されるいくつかの項目を紹介します。

■誰にでも使いやすい建築物の整備■

「ハード面の10のポイント」として

1. 公平に利用できること

年齢、国籍、性別、個人の能力を問わず、全ての人が公平・平等に利用できるようにする。

EX:自動ドアは、誰にとっても負担なく、公平に利用できる。

2. わかりやすいこと

建築物の位置や内部空間をわかりやすくする。

EX:敷地入口の遠くからでも、建築物とエントランスが見え、どこから入ればよいのかわかりやすくする。

と、いった感じで

3.移動しやすいこと、4.利用方法を選択できること、5.十分な幅・広さがあること、6.安全安心に利用できること、7.情報が伝わりやすいこと、8.良いデザインであること、9.使い続けられること、10.費用が妥当であること  というふうに項目があります。

他にはハードに対する「ソフト面の3つのポイント」、「住まい整備の8つのポイント」など、いろいろな観点から注意する項目を定めています。

この基準をみていてあらためて感じたことは、「ユニバーサルデザイン」=「ものづくりの基本理念」であるということです。元来、「グッドデザイン」と称されて歴史を超えて愛される「もの」は結果としてそれらを高い次元で兼ね備えていたといえるでしょう。カタチを見ただけで動作を連想させるようなプロダクトは、年齢や国籍、個人の能力、まして性別などにその性能を左右されることなく、ワールドワイドにそのデザインが受け入れられてきたことを容易に感じさせてくれます。

いろいろなファクターを統合しながら進められるデザイン作業の中に没頭していると、その「もの」はみていても、置かれる環境という大局を見逃してしまうことにもなります。 ほんの少しの気遣いと、視点の違いで「より」利用しやすくなるのであれば、そこはケーススタディーのポイントとして見逃すことはできません。 積極的にその意識を盛り込んで行なう仕事でなくとも、反映できる内容については設計の中で配慮してゆく必要があると感じています。