1989年 東宝 監督 降籏康男 原作 向田邦子 脚本 中村努

出演 高倉健 坂東英二 富司純子 冨田靖子 真木蔵人 宮本信子 山口美江

「門倉は戦友・水田の奥さんが大好きです。奥さんも門倉が大好きです。水田も18歳になるその娘も門倉が大好きです。そして水田は奥さんに『どっちが好きか』と聞ける関係です」

第13回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞(坂東英二)

(有料配信されています。HD等も配信サイトで販売されています)

 

 昭和の名脚本家、向田邦子の原作で「大人の恋愛ドラマとして書き続ける予定であったが飛行機事故で急死したので中断した」とウィキペディアにあります。でも、十分楽しめる完成した作品で、高倉健を見直す映画です。外国映画にはない独特の雰囲気の映画で高倉健の個性を知り尽くした監督・降籏康男の優れた演出力が出た映画だと思います。極めて日本的な映画です。

 昭和12年(1937年)春の東京、門倉修三(高倉健)が大きな何部屋もある木造住宅の借家を一人で掃除、雑巾がけをしています。口笛を吹いて鼻歌も出て楽しそうです。20年来の戦友・水田仙吉(坂東英二)と妻のたみ(富司純子)と一人娘のさと子(冨田靖子)が東京へ転勤して戻ってくるので、迎える準備をしています。この家は戦友・水田一家のこれから住む家です。

 長距離列車の中に水田一家がいます。娘のさと子が面白そうに思い出話を始めます。

「門倉のおじさん6年前仙台から転勤した時、いきなり玄関の戸が開いて『バー』ってかくれんぼの子供みたいに出て来たじゃないーーー」

たみ「あたしたちのびっくりする顔見たくって、やったのよ。今度もそうかしら?」

仙吉「門倉、門倉って、さっきからお前、そんなに門倉に会うのがうれしいのか?!」

さと子「だって、お母さん、門倉のおじさん好きなんだもん」

 たみは門倉が好きです。門倉もたみが好きです。でも、水田夫婦も愛し合っていて他人が入る隙はありません。門倉にも愛する奥さん(宮本信子)がいます。でも、門倉はたみが好きで、たみも門倉が好きです。門倉とたみの間はプラトニック・ラブです。そんなことは夫の仙吉は百も承知です。たみの夫、仙吉と門倉は共に戦地で飛んでくる弾丸の下を生き延びた戦友で、心と心でつながった親友です。この関係が実に爽やかに美的にいろいろなエピソードの中で描かれます。

 水田はサラリーマンでそれほどの地位にはありません。門倉はこの家の掃除にも運転手付きの車で来ている会社の社長です。

 3人が自分の借家に到着します。家の大きさ、表札の大きさにびっくりし、家の中を門倉が今にも飛び出して来るんじゃないかと広い家の中をわくわくしながら探検しますが、残念ながら出てきませんでした。

 門倉は自宅でそわそわしているので、奥さんが言います。

「やせ我慢はおよしになったら、行きたいんでしょ?もう着いた頃ですわ。あちらは3年に一度東京と行ったり来たり、仙台、高松、その度にあなた一人でお世話して、借家見つけたり、お布団運び込んだり、うきうき夢中になって―――この半月、もう会社は二の次で。水田さん、また3年いらっしゃるんでしょ。この3年、どうせ私邪魔なの。あなたは水田さんのとこの方が楽しいんですもの。いいんですのよ、かまいませんのよ、どうぞ行ってらっしゃいまし」

「行きませんよ」とやせ我慢します。そしてラジオをつけると、ニュースを放送中です。その途端に、手を叩いて「ラジオ持っていくの忘れた!」と、水田の家に行く都合をつけるのでした。

 水田の家では、門倉がうな重の出前を頼んであって届いています。

「それにしても門倉の奴、来んなあ」

「来るわよ。ねえ、来ないのかしら、おじさん?」とさと子。

「来ますよ」とたみは笑顔で断定します。

 自動車の止まる音が聞こえ、一同顔を見合わせて玄関へ出ます。

「ラジオつけるの忘れちゃってさ」と、門倉がラジオを重そうに抱えてやってきます。

「元気そうじゃないか」

「さと子ちゃん、べっぴんになったねえ、もうお嫁さんだね」

「まだ早いよ!」

 これを喜びの再会と言わずして何と言うのでしょうか。とにかく水田一家は門倉が大好き、門倉は水田一家が大好きなのです。本当に気持ちの良い関係で、見たことのない関係です。この関係があるから、門倉とたみのプラトニックな愛情が浮き出てきて、いやらしいところが全くなく、なんと綺麗な精神世界なのだろうと感じるのです。

 旅行先でたみの夫が門倉だと間違われたりして、時には喜劇にもなります。エピソードには事欠きません。

 さと子(18歳)がお見合いをします。相手は帝国大学の学生・石川義彦(真木蔵人)です。この二人もプラトニックラブです。そして、さと子が石川に門倉と水田夫婦の関係を教えてもらうのですが、彼はまだ若いさと子にこの三人の関係をわかりやすく説明します。彼は自由思想の持主で特高に目をつけられています。

 これから暗い戦争の時代に入っていくこの時代の生きづらさと人生のつらさを描いています。

 

(放映時間のお知らせ)(アメブロ掲載日です。さくらのブログ掲載日は題名で検索して下さい)
タイトル 放送日 曜日 チャンネル 放映時間 アメブロ掲載日
TVドラマ「陽はまた昇る」 5月6日~6月3日(月―金) 日本映画専門ch 6:00-7:00 なし
「陽はまた昇る―第10話帰郷」 5月19日 日本映画専門ch 6:00-7:00 2021/5/11
「ブリッジ・オブ・スパイ」 5月17日 WOWOWシネマ 7:00-9:30 2021/5/14
「野性の呼び声」 5月18日 WOWOWシネマ 9:30-11:15 2021/2/4
「ファーゴ」 5月19日 WOWOWシネマ 1:15-3:00 2021/5/15
「ジャンゴ―繋がれざる者」 5月20日 WOWOWシネマ 1:00-4:00 2021/5/16
「あ・うん」 5月20日 WOWOWシネマ 19:00:-21:00 2021/5/17
「EXIT」 5月21日 ムービープラス 11:30-13:30 2021/1/10
「ジョーカー」 5月21日 WOWOWシネマ 0:30-2:45 2020/12/29
「兵隊やくざ」 5月22日 日本映画専門ch 7:00-8:50 2020/5/1
「宮本武蔵2般若坂の決斗」 5月23日 時代劇専門ch 12:00-14:00 2020/4/30
「理由なき反抗」 5月23日 ムービープラス 7:00-9:00 未定
「理由なき反抗」(再) 5月28日 ムービープラス 11:30-13:30 未定