2019年 日本 監督 白石和彌 原作 桑原裕子

 出演 佐藤健 鈴木亮平 松岡茉優 田中裕子

「暴力をふるう夫を子供のために殺害した母と子ども3人のその後の再出発までの日々」

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(21.2.2改訂)

 

 家族の中にとんでもない人間がいたとします。万引きをした人、盗撮をした人、強盗をした人、婦女暴行、詐欺、殺人などをした人です。それがわかってしまって逮捕されます。本人はともかく残された家族のそれぞれは大変な生活、人生になるのは容易に想像がつきます。

 家族に暴力をふるう父親がいたとします。その回数、頻度が問題かもしれませんが、暴力にはなかなか耐えられるものではありません。1回殴られても腹がたちます。殴った相手が友達だった場合、こちらより恐ろしく強くない限り殴り返すのではないでしょうか。しかし父親の場合は殴り返すようになれるのは父親より体が大きくなって、もうやっつけるしかないと思えるくらいに大人になった20歳過ぎです。父親は子供の時から見ていますから、相当に大きく感じます。まして小さい時から父親に暴力を振るわれていたら、その暴力に暴力で返すのは人間の上下関係が逆様になるということですから並大抵のことではありません。しかし、どの家庭にも必ず子供が親を超える日が来ます。反抗期の延長ですが、そうしないと親の庇護から羽ばたけないのです。いつか、どんなに怖い強い父親でも乗り越えます。そして、ようやく自分の一人前の人生が始まるのです。

 この映画では父親の暴力が限度を超えて子どもたちを圧迫していました。父親が暴力を振るうのは訳があるはずです。仕事がうまくいかない、お金が思うように稼げないのに妻や子どもを養わなければいけない、父親は一家を背負っているのです。その重さに耐えきれなくて爆発することもあります。それが暴力になり、子どもが生意気で一人で一人前になったような口を聞けば暴力はエスカレートします。

 それを毎日見ていた母親はもう耐え切れません。子どもたちのためにこの父親を殺そうとずっとずーっと考えていて、ある日実行しました。その後、本人も子どもたちも全く予想もしない人生が待っていました。

 映画は浜松にあるタクシー会社が舞台です。父親は経営者でした。父親に自動車をぶつけて母親が殺害しました。母親は父親を殺した時、何とも言えない達成感を感じました。これで子どもたちは自由になれる、と思いました。母親は自首して、子どもたちが親のいない生活を何とか生きて、タクシー会社を守りました。

 子どもは父親が殺された時は高校生、中学生でした。近所や学校で相当過酷な人生になりました。就職も結婚も思い通りには行かなくなったでしょう。殺人者の子どもですから、どこへ行っても後ろ指をさされます。

 母親が15年経って刑期を終えて帰ってきます。映画はそこから始まります。子どもたちはみんな母親を恨んでいます。自分たちの人生がこんなに過酷になって、不本意になっているのはみんな母親のせいなのです。

 父親が生きていた時の人生と、母親が父親を殺してしまった後の人生とどちらが良いのだろうか、と映画を見て思いました。映画は15年後の家族の再生の物語です。15年経っても再生できたとは言えないかもしれません。15年経ってもこの暴力父親が生きていたら、暴力が止まず、その暴力のために家族内だけではなくいろいろな問題が起きていたかもしれません。父親はすぐ近くにいて、父親と家族は依然として同じ空気を吸っているのです。結婚しても、就職しても、子供が生まれても父親の存在は依然として大きいと思われます。それもまた辛いですが、人を殺してもよいとはとても言えませんので、生きていた方が良かったのですが、それなりに大変な人生でしょう。

 子どもたちはタクシー会社を引き継いでいます。15年も経っているのに嫌がらせはまだ続いています。そういう家族は現実の世界では引っ越して、誰も自分たちのことを知らない世界へ行くと思います。

 こんな人生にしたのは、暴力をふるう父親、その父親を殺した母親。自分の人生がうまくいかないこと、未来が暗い人生、このことの責任は自分たちにはないとこの子ども3人は考えています。そこへ母親が帰ってきたのです。母親が父親を殺したからこんな人生になってしまったと母親は面と向かって毎日言われはしなくとも、いつか爆発します。

 でも、母親は父親を殺したことは後悔していないし、誇らしいことをしたと思っていると言うのです。

 

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