原題 No Reservations 「予約なし」の意味    

監督 スコット・ヒックス 出演 キャサリン・ゼタ=ジョーンズ  アーロン・エッカート

 「料理が上手な人気レストランの料理長・ケイト。その姉が交通事故で亡くなり、姉の幼い娘・ゾーイを引き取りました。でもケイトの料理を食べてくれません。そのゾーイからいろいろなことを教えてもらいます」

 傑作です。私なら、アカデミー作品賞をあげます。製作費の3倍以上も興行収入があって大儲けした映画です。大ヒットと言えます。とにかく、かわいく面白いのです。ストーリー展開も料理の小道具も映像もとっても一生懸命に作っていて感心しました。

 主人公・ケイトには母子家庭の姉がおり、姉は一人娘のゾーイを残して交通事故で死んでしまいます。ケイトはこの小学校3年生の姪を引き取らなくてはなりません。自分にもしものことがあったらと、未婚の30歳を過ぎたケイトにお姉さんが一人娘を託していたので、ケイトの人生の計画は大きく狂います。ケイトはレストランの料理長を任されていて、その仕事が大好きで、自分のレシピが最高で、今の立場を誰にも譲りたくありません。場所はニューヨークです。ケイトは30歳も過ぎて相当な年齢ですから、彼女なりの考え方と生き方を持っていて、自信があります。そして、料理に関しては完璧主義者で誰の言うこともききません。そこへ可愛らしい小学校3年生の姪・ゾーイがやってきたのです。

 お母さんが大好きだった姪をどうやって扱うか、どう接したらよいのか、何を話したらよいのか、子育てをしたことがない料理一筋の独身女性の悪戦苦闘の物語とも言えます。

 ケイトは自分の料理に絶対の自信があるのに、ゾーイは作ったものを全く食べてくれません。働かなくてはならないので、姪につきっきりと言うわけにはいきません。シッターを雇うと、顔にピアスの凄い感じのお金目当ての女の子がやってきて、びっくりしてしまいます。ゾーイにしてみても、よく知らない叔母さんの家にいきなり住み、もう大好きだったお母さんのいない人生をすべてお母さんが生きていたころとは違う町で生きていかなくてはなりません。素直に叔母のケイトの言う通りに動くわけはありません。悲劇でも描けますし、喜劇でも大丈夫です。しかし、コメディと言うのは気が引ける程の上質の映画に仕上がっています。

 レストランには新しい副料理長・ニックがやってきます。歌を歌いながら料理を作るし、冗談は多いし、とても主人公とは合いません。しかし、料理の腕は確かだし、お客さんには喜ばれるし、ゾーイに対する接し方と言ったら真似できません。この副料理長の作った料理は姪は喜んで食べるのです。主人公はこの純真な姪と明るい副料理長のニックから、大切な人生のレシピを学んでいくのです。

 ケイトには殻があります。自分では殻があることに気がつきません。その殻があるのでこだわりが強く、我が強く、頑固で、何でも自分で仕切ろうとします。しかし、姪と副料理長が来てから、いろいろなことを学んでいきます。

 人間は殻があるのに気づき、必要があるなら、その殻を脱ぎ捨てなくてはなりません。また、今まで思い通りになっていたとしても、こういう姪のような存在が現れると振り回されて、思い通りにいかないこともあることを知ります。また、レストランの従業員、姪、副料理長、レストランのオーナーと言うように、主人公の周りにはたくさんの人間が生きていて、皆自分の考え方と生活様式があります。だから、ぶつかります。当たり前のことです。それがレシピです。

 思わず笑みがこぼれます。大声で笑うのではありません。思わず笑顔になる映画です。そういう笑顔を何回も何回もこの映画を見ている間に経験するでしょう。

 ある日、ゾーイが家出をします。ケイトと副料理長・ニックが一生懸命に探します。この3人はもう随分と仲良くなっています。でも、いなくなった姪の気持ちはわかりません。お母さんのお墓の前でゾーイは泣いていました。主人公は自分との生活が嫌になったから、お母さんのお墓の前で「いやだ」と言っていると思います。しかし、ゾーイは「お母さんを忘れそうなの」と言って泣くのです。何と感動的な言葉なのでしょう。あんなに好きだったお母さんを忘れそうな自分が許せないし、嫌なのです。何と綺麗な心なのでしょう。こういう綺麗な心で作られた傑作です。