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”くる?”








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そのたった二文字だけのメールで
夜中だろうが、飲み会だろうが、早朝だろうが
会いに行ってしまう。








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「すいません、目黒の〇〇まで」







身支度を軽く整えて
財布と携帯と必要最低限の荷物を手に
タクシーに乗り込んだ。

タクシーの時計は23時半をさしていた。







まだ少し冷え込む夜中。

窓に頭を預けてはぁ……、とため息を吐くと
白く曇ったガラス。









───今日で最後にしよう。









何度も何度も、同じことを思う彼の家までの道のり。









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「おっつ~」


「……お疲れ様、」








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宏光の家に着いて玄関を開けると
いつも通りの姿。

ラフなTシャツ姿なのに
何故か色気が漏れ出してるから
ふいっ、と足元に目線を落として
靴を脱ごうと少し屈むと───









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「会いたかった」








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抱き締められて、耳元でそう囁かれた。







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「……ほんとに?」


「うん、ほんと」








・・・うそつき。


そんなこと、一ミリも思ってないくせに・・。









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「みか.は?」


「え?」


「みか.は俺に会いたかった?」








そんなの分かってるでしょ・・?








「……会いたくなきゃこんな夜中にわざわざ来ないよ」


「じゃあちゃんと言って」











結局まだ靴も脱いでないのに
私の髪の毛に触れて、唇の距離を詰められれば
甘ったるい空気に溺れてしまう。








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「………会いたかった……、」









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私のその言葉にいじわるに笑った宏光は
”俺も”
と口にして、甘く唇を奪った。








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うそつき。

”会いたかった”なんて思ってないくせに。

たまたま今日思いついたのが私だっただけでしょ?






───それでも、

”今日で最後にしよう”

っていう決意はまた
宏光の体温と嘘の言葉で、いとも簡単に崩れてしまう。