東方司令部
いつもと変わらない日常
東方司令部ナンバー2である大佐という肩書きを持ち、
なお国家錬金術師である、ロイ・マスタングの部屋。
彼の二つ名は「焔」
かの戦争の英雄、「焔の錬金術師」である彼を知らない軍人はいない。
しかし、今は「無能の錬金術師」・・・としても名前が広がりつつある・・・
「大佐、追加書類とその資料です」
今朝から比べて、だいぶ減ってきた書類だが、勤務終了時間になってもまだ終わりが見えない。
さらに追加されては、ふつふつと怒りがでてくる。
しかし、ホークアイはいつもと変わらない様子で大佐の机に書類を置いた。
「・・・なぜ次から次へと仕事がふえるのかね。終わらないではないかっ!」
ロイは眉間にしわを寄せ、いままで走らせていたペンをポイッと手放した。
「大佐がサボらず仕事をやっていれば、今頃は帰れていますよ」
フォローも何もない、そしてまったくもってその通りな言葉に、ロイは背もたれにうなだれた。
「はぁ。私はディスクワークより現場で動くほう性に合ってるのだがね・・・」
確かに現場にでた大佐の仕事ぶりは見事としか言いようがない。
最善の行動、最小の行動、迅速な行動。
しかし、自分の立場を省みず、堂々と相手の懐に入り、相手を挑発する危なっかしいところがある。
『自分の力を過信しすぎているのよ。』
それとも、普段のストレスをここではきだしているのかしら。
「私も錬金術師になって水を練成できるようになりましょうか?大佐のお役に立てそうですし」
上司の危険を顧みない行動をに悩まされていたホークアイは、思わず口に出してしまった。
「はっはっは。今から勉強するかね?何なら私が手取り足取り・・・腰取り教えてあげるがね?」
ふっと、いつもは見せない、何か誘惑的な笑みをみせる。
大佐の場合、いつもこんな感じで女性と接しているのかしら。そう思うとなぜか腹が立った。
「では、この書類をす・べ・て!終わらせてから見ていただけますか?」
イライラを見せないため、強気で言い放つ。
まさか否定さると思っていたロイは、きょとんとなる。
「中尉・・・それとこれとは別問題とは思わんかね・・・!?」
あくまでもクールに、本心をださないようにホークアイは答える。
「私は早く大佐に手取り足取り・・・・教えて頂きたいのですが」
何を自分は何をいっているのだろう。と思いつつ、言葉が勝手に出てしまう自分を恥じた。
しかし、あくまでもいつもどおりのクールな顔。
「なら・・・少し先にご褒美でももらいたいね。等価交換だよ、中尉。」
負けずとロイは柔らかい笑顔で、頬に指を当ててキスをねだってみた。
「仕方ありませんね。」
とため息を交え、ホークアイはロイの大きな仕事用の机をさけ、
椅子に座っている大佐の下へ歩いていく。
なにかあるのではないか?と驚く大佐にむかってしゃがみこむ。
そして、下から目線を合わせる。
護衛として、そして有能な副官をみて、やはり美しいとロイは思う。
しゃがみこんだホークアイがポケットをごそごそしたかと思うと、
「最後のひとつなんですよ」
といって、大佐の口に飴をほおりこんだ。
とたんに口の中に甘い感覚が広がる。安らぐ甘さ。
「ちゅ・・・っ、ひがぅっ!」
おどろいたロイはあわてて立ち上がったホークアイを見る。
「上官に対してこのような行為、非礼をお許しください!」
そういって敬礼をしてすぐに、くるりと背を向けて部屋を出て行った。
「まいったな・・・。」
いつもはそっけない彼女が、えらく大胆に近寄ってきたことに
ロイは戸惑いのような、でもなんだか違うような不思議な感覚を覚えさせた。
日常とは違う彼女を見ることができた。
それだけで、口の中にある飴の甘さが体全体に広がるような、
そんな気分になった。
私もいったい何をしているのかしら。
外にでたホークアイの顔がいつもより赤かった。