私が彼女の全てを知っているだろうだって?
とんでもない!

私は彼女の事を何一つわかってないよ。
彼女が何を望むのか、私には何もわからない。
だって彼女は自分の事よりも私の望む事をしてくれるから。

それが彼女の優しさか、若くはこれが愛というものなのか。

愚かな私にはやはりりさっぱりわからない。
ほとんど一人で飲んでいた彼はもうほろ酔いを超えていた。
「ロイさん?」
声を掛けると彼はとろんとした顔で微笑んだ。
「…リザ」
どくんと体温が一気に上がる。
カウンターの隣同士。
スツールが軋んで彼が私に凭れて来る。
微かに聞こえる寝息にがっかりして、彼のグラスに残ったブランデーを飲み干した。
普段はきっちりとしているせいか、彼女が薄着をしているだけでどきりとする。
思わず手を伸ばしてしまう私に彼女はいつも呆れた顔をするが、男の性だから仕方無い。
「大佐はいつまでも少年の心をお持ちですよね?」
「…また馬鹿にしてるだろう?」
どうせ私は彼女が笑う吐息にも興奮してしまう子供だよ。
春だから出かけようと提案したのに、君はつれない顔。
けれど知ってるよ?
寒がりな君が誰よりも春を待っていたって事。
不機嫌なポーズはやめにして、あの春色のワンピースで馬鹿な恋人同士の振りをして出掛けないか?
いい大人がいちゃいちゃしていてもきっと見咎められない。
だってもう季節は春だから。



ピチカートファイヴの同名曲より
私だって人間だから機嫌が良くない時もある。
大佐との間も些細な不協和音。
皆に隠れてしゅんとする。
刺々しい言葉、どうして私は素直じゃないんだろう?
自己嫌悪の悪循環。
そんな私を見透かした様な大佐の声。
「今夜食事でもどうかい?」
いつも貴方の優しさに甘えてしまう。
今日は私が腕をふるうから。