アノニマス舞踏会9
先鋭たちの時間
開催報告
2012年4月28日~5月6日
森下スタジオ
アノニマス舞踏会も9回になった。
初日の、最初に登場した藍木二朗は『Lyric』で新展開をした。すなわちマイムのスキルが随所に見え、それが全体の動きに微細に絡む。これまで、おそらくダンスとマイムを互いに混同しないで進めようとしたものが、その二つの要素が実に自然な形で結びついたのであろう。展開が多くなり表情、仕草、動きが際立つ。4月28日
三好直美の『即興デュオ』はギター山崎慎一郎とのコラボレーションで、地中海の海の音色を想像させる柔らかなギターに誘われるように、時には反逆するように動きをだす。4月28日。
三好はこの後『電脳 黒鳥伝説』を上演、やはりソロで踊るが、鉱物質の身体、命令で動く身体、脚の交差に独特なひねりを入れて速度の速い展開。黒い円形のスカートを途中で脱いで息の通う物質へ転換、黒い靴、時折響く、足踏み、異国の異常なしたたりが悲劇を生むように蔓延して終わる。この作品は29日にも上演された。
『湖を眺めていた→』は関さなえの総指揮により、MASAMIと岩本薫が加わって全員で創作した作。表象という作業のほんの入口に立ったMASAMIと岩本のおぼろげな所作は初々しく、二人はダンスの神に祝福されたようだ。関はこのあと『無題』として短いソロ作を踊った。綿パンツに手ぬぐいを下げ飄々と現れた関は少年の夢想の国に行き着いた大人の、秘密基地を探して混乱するわけのわからないさ迷いの末にねぐらに着地する。はぐれた魂。強い意志。現代の世相を身体に宿らせた。4月28日。
深谷正子のワークショップ『リバーサイドホテルの展開図』。3時間のワークショップで立ち上げたとは思えない密度の濃い配置と動き。ダンサーが一人一人部屋に閉じこもるところからスタート、都会の孤独が描き出される。深谷正子はやはり悲劇が好きなようだ。4月29日。
門間めぐみ『たまむすび』は立ち尽くして上着を脱ぐなど単純で少ない動きが少ないにもかかわらず強烈な印象を残した。すべてを失っても立ち上がることのできる若さが見え隠れする。4月29日。
しまりえ子『スタンドアップ』は青い回転灯が回る中でそれを苦渋のうちに背負い駆け回る姿をみせて、重い課題を置き土産したが、内的苦痛の外部への展開がひとつの糸となりリリックに身体を震わせた。4月29日。この作品は5月3日と6日にも上演された。踊るごとに少しずつ身体は自由を獲得して、余裕が出た。それは余韻となり空間に響いた。
西村香里と深田忠弘のデュエット『Silence-work in progress』は、左西村、右深田の正面向きポジションを変えず、動きのやり取りをする。西村のなめらかな動きと深田のテンポをはずすギクシャクが奇妙に絡み合い、ほほえましい時間。4月29日。
橋本正彦は新バージョンを『即興的』として試演、次々に繰り出される橋本節動きは、痙攣や速度をみせながら進行した。即興としてあるが、身体に積み重ねた経験が資源であることを感じさせた。4月29日。この作品は6日にも上演されたが、6日は思索する要素が入ったのか、闊達な要素よりフィギュアの発見という難関に挑戦を始めたことを、背中の厚みが物語っていた。
中山志織の指導した即興ワークショップの参加者による表現は一人ずつ踊るというもので、即興の学びとどのように結びつくのかそれを見ただけではわからない。こわごわと踊り終わった感。4月30日。
河中葉作・舞の『イノセント』は、ほんのすこしのオリエンタルな雰囲気のなかで、おもに左右の移動の動きを見せるもので、それは非常に個性的な動きである。動きから螺旋状に舞い上がる官能の気配は空間全体をさらに巨大な螺旋状に舞い上げていくようだった。4月30日。河中葉は2日『コケティッシュ』で微笑を加え、4日『ゲーム』で闊達な旋回をみせた。
山田花乃は、稽古中に右足小指脇を骨折し一度は出演を取りやめる気持ちになったが、そこはダンサー、会場には松葉杖で現れたが踊りの登場にはその気配を感じさせず、しかし座位で踊り始めた。天使の羽をつけた熊のぬいぐるみが相手役をつとめ『眺めのいい場所で、キミとおどる』を全うした。ダンスは身体が形を成せば成立する。山田の挑戦はアノニマスの趣旨にそって明快だった。4月30日。
武蔵野美術大学で絵を描いている原千夏は『菊ねりAve・(アベニュー)』を上演した。前半を夢想の中とすると衣装を着替えてからは現実の、それもなかなかイスタブリッシュでハイソな雰囲気をなびかせ、しかし最後におはぎにぱくつくという裏返しを用意した。テンポの速い展開、用意周到、愛されるパフォーマーになるかも。4月30日。
長谷川六が呼びかけた『即興』はヘンデルのオラトリオによる自由参加の即興で、大震災への祈りを各パフォーマーは胸に抱いて踊る、という指示だけ発したもの。数多くの賛同者を得て踊りの輪は拡大した。4月30日。
深谷輝昭の『流心無想流居合い、虎一足(試切り入れ)』は、ぱっと投げられたものを見てしまううちに筒の上が斜めに切られているという魔術のような瞬間。ホントにびっくり。達人の技。4月30日。
妻木ワーク『手紙』は、石原義江、坂本知子、鈴木リン、平松歌奈子、山崎千津子の共同作品。全員が妻木律子に師事したダンサー。作品は妻木の教えをいだいて全員で創作した。5名という関係を片時も忘れないで進行する遊戯性とメカニズムのあるダンス。グループワークは基本的に進行が難しいものだが彼女たちはきわめてたくみに個と集合体を組み合わせた。空間を集合と個に区分しエリアを提示しながら進行している。発展途上のグループ。5月1日。
長谷川六『岩窟の聖母』、鞄が変わり中から出てくるおもちゃもバージョンアップした。動きは大震災を意識して暗い微笑とともに。5月1日、6日。
2、3,4日、福岡克彦が『異物(インプロ)』を上演、タイトルのようにインプロヴィゼイションであり、異物という実体のつかめないものを探り掴もうとするアグレッシヴな方向がつかめた。なかなか魅力的なパフォーマーで、方向が決まるとよい。
中山志織『rism』は5月2日、3日、4日、5日に上演されたが、タイトル自体が造語で、毎日異なったインプロヴィゼイション。最終日は観客に「原発に賛成か反対か」を聞いて回るなど、かなり逸脱した方向を見せた。しかし投げかけた質問が垂れ流しの状態で終わり、質問も回答も宙に浮かんだまま。
加世田剛『クライマー』はダンス作家でありパフォーマーの堅実な才能をおおいにみせた。2日。
丹生谷真由子『境界』は3日、4日、5日に上演された。コンポジションが明解で、境界からボーダレスにすすみながら境界の持つ魔物のような制約の中で身体をほどいていく過程が痛々しいまでに描かれる。丹生谷はom-2に所属する女優でもある。
奇天烈月光団は、月読彦作・出演、今井蒼泉、迫村勝、上野憲治出演『ペテルギウス鉄道の夜』。6月に宮沢賢治をメインテーマに作品上演をするのでその前哨戦。椅子を客車に見立て、積み上げたり座ったり変化させて別世界に誘導する作品の一場面。
5日、6日は山形から加藤由美が上京『そのとき』を上演した。麻と竹の繊維を用いた厚手の衣裳は僧衣にもみえて、祈ることで浄化される魂の行方を踊るかのようだった。加藤は東北大震災の被害にもあい、多くの被災者と同じように打撃を受けた。そこからの回復の軌跡が踊りの形に集約されたように、未来への希望を見出すように踊られた。
デルフィーノ・ネロ『Danse macabre no.1』はキーボード志賀信夫、パーカッション平島聰の音楽で在ル歌舞巫が床の倒れ起き上がろうとするが倒れるを30分間おこなった。関節を異常に折り曲げ、立つ意思と立てないという意識の狭間で苦悩する身体の状態を見せたのだが、異様に説得力があり最後に寝たままで発声するときには地底からの咆哮に聞こえた。5日。
栄華は地震の発生にたいする彼女の恐怖と対応を延々と語り、発声し踊った。全く意表をついたこの作品は、真実なのかフィクションなのかの境界を問うことの愚劣さを意識させる、実にリアルなパフォーマンスでこの女性の才能の深さと誠実さをみせた秀作である。6日。
瀬谷抒苑は『母に捧げる・・・私のTRIALDANCE』を踊った。母の遺したものと思われる着物を着て登場、それを脱ぎ捨てて白いロングドレスになり、「さくらさくら」など何曲か踊る。日本舞踊の素養に加えられた動きが繊細に顕れた。6日。
こうして9日間のアノニマス舞踏会9は終った。
報告:長谷川六
会場:森下スタジオ
入場者および、その場に居る人全員:500円で経費をまかなう実験劇場。
助成:公益財団法人セゾン文化財団
主催:PAS東京ダンス機構/ダンス自由大学
助成:公益財団法人セゾン文化財団/PAS基金