優しさに甘えたことを後悔している。
縋りついてしまった彼の腕の中が忘れられない
いつかは大切な人を抱きしめる腕なのに。
離れられない。
なんて馬鹿な女…。
リビングに足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたのは、チェストの上に所狭しと飾られたたくさんの黄色いクロッカス。
「なんで……」
敦賀さんにとっては何の意味もないのかもしれない。
それでも、紫のクロッカスの意味を知りながら飾った自分は、そのクロッカスに意味を感じてしまう。
『切望』
『信じて欲しい』
敦賀さんが、[キョーコさん]に向けてメッセージを送っているように思えてならない。
手のかかる後輩を慰めるためにやむを得なかった。
好きなのは君だけ。
欲しいのは君だけ。
信じて欲しい。
そう[キョーコさん]に訴えているかのようで……。
私はいつの間にか勘違いをしていたんだ。
敦賀さんには大切な人がいる。
だからこれ以上はダメ…。
そう思いながらも、自分の脆さを受け止めてくれる大きな腕に……
敦賀さんと何度も身体を重ねるうちに、勝手に彼に近づいたと思ってしまった。
カタン…
どのくらいの時間が経ったのか…
物音がして我に返ると、リビングの入り口に敦賀さんが立っていた。
「ただいま」
「敦賀さん…」
「どうした?顔色があまりよくない」
長い脚で一気に距離を縮めた敦賀さんは、私の頬に手を添える。
「っ!」
ただそれだけで、身体中がカッと熱くなる。
敦賀さんは私をのぞき込み、そのまま唇を寄せてくる。
きっと、また慰めてくれるのだろう。
視界の隅に黄色い花が入り込んだ瞬間、私は力いっぱい敦賀さんの胸を突きとばした。
「っ!……最上さん?」
「もう、終わりにさせてください」
「……どういうこと?」
「私から誘っておいて勝手ですが、こんなことをしていてはダメです」
「……俺は君に寄り添えない?」
「っ!違います!いくら面倒見のいい先輩でも、いくら不出来な後輩を、こんなことをしてまで慰めてくれなくていいんです!!こんなの……間違ってるっ」
涙が出そうなのを必死で堪える。
私に泣く資格なんてない。
「後悔してる?」
しばらくの沈黙の後、広いリビングに敦賀さんの声が静かに響いた。
「え…?」
「だから、あの紫の花を飾ったの?」
「………敦賀さん…知って…」
「知ってるよ。紫のクロッカスは『愛の後悔』だろう?俺とのこと、後悔してるの?」
驚いて見上げた視線の先にある敦賀さんの表情は今までに見たこともないくらいに辛く苦しそうな…。
なのに、まっすぐに私を見つめていたのはとても優しい瞳だった。