和 「しぃ、おいで。」



そう言って両手を広げる



S「なに?」

和「いいから。ほら」



あいつは照れくさそうに微笑むと
俺の腕の中に収まった。



和「あら、素直」

S「なんなのよ」

和「おまえも寂しいんだろ? 本当は。」

S「全然、」

和「嘘つくんじゃないよ。
72時間よ? 72時間も逢えないのよ?」

S「大丈夫だって」

和「じゃあさ、
そう言いながらも離れないのはなんでよ?」



S「にの?」

和「ん…?」

S「それ以上 喋らないで」

和 「なんで…?」

S「いいから」

和「なによ…?」

S「苦しくなるから」

和「なに? 苦しいの? 俺が喋ると」

S「うん…」

和「なんでだろ?」

S「分からない…」



あいつの後頭部を
そっと撫でてやる。



和「苦しくなるのよ……。好きが溢れると」

「俺の事を好き過ぎちゃって、苦しいの。」

「だから必要。バランスが。」



S「なら、」


和「なら、何よ?」

「言わせないから、その先の言葉は……」



あいつの首筋に手を当て
唇を重ねる



和「こうやっておまえを感じていたとしても、不安だから。俺も。」


「しぃ…?」


S「ん…?」

和「要らないの、欲しくないのよ、俺は。」

「優しい嘘なんて」


「大丈夫だから。」

「俺なら受け止められるから、」


S「大丈夫じゃないくせに……。」




あいつは身体を少しだけ離すと
爪先立ちで背伸びをし

キスをくれた。




和「無理……。やっぱり……。」

「おまえが俺より帰りが遅いのは解った。」

「なら、俺ん家に来なさいって、」

「泊まればいいのよ。家に。」

S「それは嫌」

和「なんで…。」

S「嫌なものは 嫌」

和「どうして?」

S「どうしても、」



そう言ってあいつは
なんの躊躇いもなく
腕の中から離れた。



和「しぃ、」

S「嫌だ!」

和「フゥ……。ならさ、脱いで。 
今 おまえが着てるネルシャツ」

S「これ? なんで?」

和「俺が着るから」

S「はい?」

和「ジャストサイズじゃないだろ? それ。」
「アウターサイズ。どうみても」

S「そうだけど、」

和 「なら、俺でも着れるだろ?」

S「ん?」

和「はい、脱いで」

S「………うん……、」




和「ほら、キョトンとしてないで着替えて来なさい、」



俺は差し出された
赤いチェックのネルシャツを羽織った。



和「あと、
戻ってくる時に持って来て。キャップ。
どれでもいいから」

S「なんで?」

和「いいから」

S「なんでよ」

和「いいから。早く持って来なさい。」




あいつは不思議そうな顔をして
奥の部屋へ消えた。





和「限られてるのよ、一緒に居られる時間が。
72時間どころじゃない……。」


「離れなきゃならない、嫌でも、」





和「なのに、なんでよ……。」




「バカ しぃ…。」





♪//~♪//~♪//~





和「しぃ! 早く!」
 
S「は~い!」

和「ダッシュ!!」




S「はい、これ!」

和「ん、ありがと」



そう言いながら
手渡されたキャップを被り
茶色いサングラスをかける。




和「借りる。ネルシャツもキャップも、」

「これも。」

S「いいよ」

和「俺のキャップはソファーの上」

S「フフッ……、わかった」

和「しぃ、」

S「ん?」

和「おまえの好きな人は誰?」

S「誰って……、」

和「言ってみ」

S「……。」

和「ほら、暗号」



S「…………0426」

和「良くできました」





和「仕事 頑張りなさいよ?」

S「うん、頑張る」

和「無理はしないように」

S「わかった」

和「連絡は毎日する。」

S「うん、」



和「じゃあ、行って来る」

S「いってらっしゃい」




俺はあいつの頬っぺたに

キスをしてから

キャップを深く被り直し

一人、

ホテルの部屋を後にした。