「悪い、急いでもらっていい?」


車の後部座席


携帯の画面をスワイプ
暗がりの車内が微かに明るくなった


数分前に受信した翔さんからのメール


2種類の暗証番号


その下に


―――――

3日前に俺に届いたしのからのメールを
転送するわ

あいつには内緒な

From : 櫻井

―――――

先の見えない暗い道路も
それが例え迂回路でも
いまは少し二人とも
暗い表情 しまっておこう

これは別れではない
出逢いたちとの また 新たな始まり
ただ 僕は なお あなたに逢いたい
また…
いつか笑ってまた再会 そう絶対


君は君  夢 でっかく描いて
僕はここから 成功を願ってる


願ってるよ 例えどんなに遠くても
繋いでるよ その手をずっと
これからも これまでも ありがとう

―――――

「still だろ? この歌詞」

「願ってるって、ありがとうって……、」

「いったい何が起こってんのよ?」



着きましたよ、二宮さん

「あ、ん、ありがと、
じゃ、気を付けて帰って、明後日ね」


最後の言葉を言い終わる前に
車の後部座席から降り
マンションのエントランスへ走る

俺はインターフォンを押すこともせずに
1つ目の暗証番号を入力し
セキュリティカードを使った


「遅っそいのよ!開くのが」


自動ドアにイラつく


チラッっと横に視線をずらし確認
管理人は顔馴染み

和「今晩は」

キャップのつばをあげ、軽くお辞儀をする

「あれ?」

和「あっ、今日は大丈夫です、あるんでこれ」


そう言って顎を1度出しながら、
カードをひらひらさせた


セキュリティカードを差し
エレベーターを呼ぶ


エレベーターに乗り
セキュリティカードを差し
2つ目の暗証番号を入力した


「面倒くさいのよ……、
こう言う時のセキュリティマンションって」


エレベーターは
あいつの住む階以外に止まる事はない


俺は壁に寄りかかり
被っていたキャップを取り、
前髪をかきあげた


たどり着いたあいつの部屋の前



チャイムを押そうとした人差し指が震える



「スゲー、怖い……」



そう言った後、その指を唇に押し当てた





「フゥ…」


1度息を吐き、両手で顔を擦る


ズボンのポケットから鍵を出し


カチッ


俺はあいつの部屋の鍵を回した





「感情のコントロール」

我を忘れた言動は

メリットではなくデメリットだらけ


厄介なのは

「怒り」の感情


「怒り」の感情は 何も生み出さない

冷静に そして

「寛容」でいる事が大切



普段の俺なら

感情のまま、冷静さをなくす事など

絶対に有り得ない



そう

要らないから、そんな不必要な感情は……。



そして「悲しみ」の感情

こっちは

望む望まないに関わらず

誰もが避けることはできないもの


泣きたい時は泣けばいい

じゃなきゃ、笑えなくなるから


笑えなくなるのよ、我慢してると



笑えなくなるのよ……。




~ 続 ~