Shino said ~


私を抱きしめたまま離さない彼を
笑顔で何とか誤魔化して、

いつも通り
「またね」と言って

部屋を後にした



私の名を呼ぶ声

何気ない癖


有り得るわけはない事だって
初めから分かっていたの、それでも、
ほんの少しだけ
見たかったのかも  夢を


その笑顔を
独り占めしたくなってしまう前に
遠く遠いところまで
離れてしまえばいい


「ありがとう」

そう言いたかった

「さよなら」

そう言えなかった


時が経てば忘れられる
いつかはきっと、想い出に出来る


君は笑っていてね


君には笑っていて欲しい



そして

いつの日か何処かで出逢ったら

「俺は今、幸せだよ」  

そう言って笑ってね……




カウントが終わる

1、ゼロ……




「バカなのかな?おまえ」

「ほら、おいで」





「しぃ」

「俺はおまえが好き」


そうやって、からかわないでよ……


「しぃ」

「……またな」


ある訳ないじゃない

また、なんて……



ごめん……

もう、無理かも……

今だけは、今だけは……



私はしゃがみ込んで声を上げて泣いた。




「祈っているよ、

君が大好きなあの人と

いつまでも笑っていられますように……。って」



見上げた空


「こんな私じゃ、月も

星1つさえ、見つける事が出来ないや……」



さっきまで2人並んで見つめていた月は

闇にその姿を隠した



知らなかったよ……。

守りたかったはずの君を

私が傷付けていたなんて……。