おはヨットの大冒険第1話『旅立ち』




午前6時。爽やかな朝。小鳥たちのせせらぎを聞きながら心地よい季節を楽しむ義弘。



やがて、先輩大工の背中を見つけた義弘は元気良く声をかけた。



『谷川さん、おはよっ~コロン』。



あんらま。



朝の挨拶をした義弘の口から思わず飛び出したおはヨット



初めて、挨拶以外の世界から飛び出たおはヨットの冒険はこうして始まろうとしていた。



憧れのおはヨットオーナーになった義弘はおはヨットを眩しそうに眺めながら考えた。



『今日は現場休んでおはヨットで、旅に出ようかしら』



そんな義弘の心境を見透かした先輩大工が俺も連れてけと激しくせがむ。



しかし、おはヨットはひとり乗り。さて困ったぞ・・・あっ



その時、社長の姿が視界に入り、義弘は思わず。



『あっ、社長。おはよっ~コロン』。



こうして、おはヨットは2台揃う。後は社長に今日仕事休みますと言うだけの状況になったんだ。




                                                       (つづく)




おはヨットの大冒険第2話『おはヨット危機一髪』

おはヨットヨットで旅に出てから、半日が経とうとしていた。

どこでもいつでも一緒さ、俺とおはヨットヨット。けれど別れは確実に近づいていた。

日が沈む夕暮れ時。俺のおはヨットヨットがみるみるしぼむ。完全に朝が終わった、おはヨットの燃料である『おはよう』がきれかかっているのが分かる。

                                                       (つづく)

おはヨットの大冒険第3話『おはヨット再来』

きゅうきゅう泣きながらみるみる萎むおはヨットヨット。義弘は見てられなくなる。もういいよ、おはヨットヨット、もう無理しなくていいから…お帰り、もう口の中へお帰り……

義弘がおはヨットヨットを口の中へと戻しかけたその時。

中坊の時、一番うるさかった先輩の背中が見えた。挨拶にうるさい『あの』佐々先輩のでかい背中が…

『あっ、先輩!おはよ~っ長音記号2ヨットコロン』

こうして、3台目のおはヨットヨットに恵まれた義弘。


                                                       (つづく)

おはヨットの大冒険第4話『欲望の硬貨』

『そのおはヨットヨットを私に譲ってくれないか、頼む』。別れって奴は突然に訪れる。人生ってそんなもんじゃないのかしら。

切迫した表情で、おはヨットヨットを譲ってくれと頼み込んで来た紳士の分厚い財布は義弘とおはヨットヨットの絆を断ち切るには十分だった。

目の前で積み上げられる500円硬貨の誘惑。逃げられない。義弘は逃がれられない。18枚目が積み重なったところで義弘は首を縦に振った。

『じゃあ連れてくよ』。赤い首輪を付けられきゅうきゅう鳴きながら引っ張らてくおはヨットヨット。ばいばい、義弘は何度も何度も心の中、別れを告げた。ポケットの中にしまい込んだ18枚の500円硬貨の重さは罪悪感で一杯だった。


                                                       (つづく)

おはヨットの大冒険最終話『さよならさんかく』

『あいつ、ちゃんと飯食ってんのかなあ』

赤い首輪に繋がれ荷馬車の上、きゅうきゅう鳴きながら市場に売られて行ったおはヨットヨットを思い浮かべ、義弘は何度も深いため息を吐いた。後悔の念はどんどんと募る。

あの紳士がくだけた挨拶を出来る人だったらいいけど…浅はかだった自分。一緒に旅して来たおはヨットヨットをちっぽけな小銭で売り渡した薄情な自分。自暴自棄に陥り嘆く義弘。その時、不意に揺れた硝子。窓がガタガタと鳴った。

『きゅう…きゅ…う…おは…おはよ…きゅう』。

窓の外から聞こえて来るのは、あの懐かしい声。義弘は部屋を飛び出した。

『お、おはヨットヨット、お前…』。すっかり泥だらけになりピカピカだったマストは淀んで黒く濁っている。それでも一生懸命尻尾を振って鳴くおはヨットヨット

『だ、ダメじゃないか、帰ってきちゃ…お前はお前はもう俺の朝の挨拶じゃないんだぞ』

本心を隠し、おはヨットヨットを突き離す義弘の頬をおはヨットヨットが無邪気に舐める。おはヨットヨットにはちゃんと分かっている。義弘のポケットには自分の大好きなハンバーグが用意されている事を。

『抜け目ない奴だなぁ、おはヨットヨットは…ほら』。ハンバーグを食べるおはヨットヨット。優しく見守る義弘の瞳。そして義弘は自らに言い聞かせるように誓った。

誓ったんだ。

『もう離さない、おはヨットヨット!お前は俺の、俺の大事な朝の挨拶だからぁぁ』。義弘は両腕でしっかりとおはヨットヨットを抱き締めた。

『きゅう…きゅ…き』

義弘に抱き締められたおはヨットヨットの鋼板がどんどん萎む。

夜がやって来たんだ。

運命は残酷だ。

小さく消えてゆくおはヨットヨットを抱き締めてやる事しか義弘にはもう出来なかった。

もっともっと可愛いがってやりたかった、おはヨットヨット………さようなら。

~翌朝

先輩大工の背中を見かけた義弘は沈んだ気持ちを押し隠して声をかける。

『谷川さん、おはよっ~長音記号2ヨットコロン』。

あんらま。


                                                      (おしまい)

…と言った感じの絵文字話でございました。
このおはヨットヨットで童話を考えております。


(概要)


『挨拶の出来ない入園前のしんちゃん、どうしても「おはよう」が言えません。モジモジしてしまうそんなしんちゃんのお口から飛び出したおはヨットヨット
おはヨットヨットはしんちゃんを挨拶の旅に連れ出しました。おはヨットヨットと一緒に「こんにちは」「さようなら」「いただきます」次々と新しい挨拶を覚えるしんちゃん。
おはヨットヨット!挨拶って気持ちいいね!しんちゃんの言葉ににっこりとマストをなびかせるおはヨットヨット。やがて、しんちゃんが最後に覚えた挨拶は…………)


どうかしら?


                                                      (おしまい)