<小さな手と大きな手>
のぞみは、一人部屋の病室の小窓から見慣れた風景を眺めていた。
真っ青な空の所々に雲が浮かんでいる穏やかな天気。
毎日同じ様な空でもいつも新しい表情を見せる空を眺めることがのぞみは好きだった。
ふうっと小さなため息をもらしたとき、ベッドの脇にあるテーブルの携帯が新着メールを知らせた。
(あ、、廉くんからだ!)
のぞみと廉は、ある携帯サイトの音楽の掲示板で出会った。
同じ年だったこともあるが何故か他の人とは違う何かをお互いにその文字から感じてよく話すようになった。
こうして二人だけで携帯のメールで話すようになってから半年が過ぎる。
小さな頃から病気がちで入退院を繰り返しているのぞみにとって陸上で全国的にも名の知れた高校に通っている廉の世界は憧れだった。
廉とのぞみは、ファンの彼女の音楽サイトを通して自分のこと、周りのこと、社会のこと、生きていくこと
沢山のことを話してきた。
それほど頻繁なメールでもなく、短い言葉でのやりとりが多かったがお互いの世界を一生懸命に生きていく上で、短くてもその言葉で十分だった。
いつしかお互いに逢いたいと思うようになっていったがなんとなくそれをお互いに言い出せないまま半年が過ぎていってしまった。
ある会話のきっかけから七夕の夜、病室を抜け出して一緒に星を見ようと決まった。
約束の10時。廉はのぞみの前に現れた。
丘の上にある病院の脇の公園。
アスレチックの階段を登るとき「転びそうだな」と廉はのぞみに手を差し出した。
小さな手と大きな手が遠慮がちに重なる。
何を話したのだろうか。何を笑ったのだろうか。
宝物のような時間はあっというまに流れていった。
翌日、のぞみからお礼のメールが届いた。
「廉くん、昨日はありがとう。本当にありがとう。」
「楽しかったな」
「廉くん、手を繋いでくれてありがとう。廉くんとね、手を繋いだとき本当に繋がった気がしたよ。 今までずっと文字の中だけの廉くんが、本当にここでこうして私と同じ所で生きていて私たち、ちゃんと会えたって 思えた。
宇宙から見たら本当にちっぽけだけど私たち、同じ時代にちゃんと一緒に生きているんだね」
「そうだな。のぞみの手、小さかったな 笑」
「げ・・。廉くんの手、すごく大きかった」
「ギュって握ってくれた感触も、大きさも、温もりも みんなある。ずっとあるよ。だからこれからも頑張っていける」
「そんなことまで覚えてるの? ウソウソ・・ごめん」
「そうだよ 笑 いつまでもジメ~ッて覚えているいやらし系だから・・すぐに思いだせるの :-)」
「そのわりにすぐ、手、離したじゃん」
「あとでじっくり味わうタイプなんだもん。だから~、つまり・・ほんの少しの時間だったけど私にとってすごく意味のあることだったの。 ありがとうね。」
手を繋ぐこと。
それは、今まで二人が交わしてきた沢山の言葉、心を全部繋いでくれること。
本当の真実だと形に変えてくれること。
廉は、その先の言葉を探した。
のぞみも、その先の言葉を探した。
メールが途絶える時間が流れた。
のぞみは
「来年も・・」と打ち込んだが少し考えるとその文字を消した。
来年。。という言葉で廉を縛ることになるのは嫌だったから。
先のことはいい。今、この時だけを考えていたい。
「廉くん、私の世界はまだ小さな世界だけど広い世界を見ている廉くんと繋がっているから。私、頑張るね。
廉くんが出会う事、見るもの、またいろいろ教えてね。 いつか、また星、見ようね」
しばらくして
「おう」
という短いメールが届いた。
そして、その後また廉からメールが届いた。
「手もね」
のぞみは、今夜も輝いている星達を小さな小窓から見上げた。
きっと廉も今、星を見ている
完

