その日は、特別な日ではなかった。
夕飯の支度をしながら、
子どもの話に「うん、そうなんだ」と相槌を打っていた。
けれど頭の中では、別のことを考えていた。
今日の投稿、反応あるかな。
あの人から返信は来るかな。
次はどんな発信をすれば、申し込みにつながるんだろう。
子どもの声は聞こえていた。
でも、ちゃんと聞いていたかと聞かれたら、
あの日の私は、きっと頷けない。
在宅で働こうと思った理由は、
本当はとてもシンプルだった。
子どもが帰ってきたとき、
「おかえり」と言える自分でいたかった。
家族との時間を増やしたかった。
好きな習い事も、
できるだけ我慢させずに選ばせてあげたかった。
そのために、私は在宅起業を学び始めた。
けれど、学べば学ぶほど、
やることは増えていった。
発信。
交流。
導線。
ブランディング。
マインド。
どれも大切なのだと思う。
でも気づけば私は、
スマホを見ていない時間まで、
ずっと集客のことを考えるようになっていた。
夕飯を作りながらも。
お風呂に入りながらも。
子どもの話を聞きながらも。
その日も、子どもが楽しそうに話していた。
学校であったことだったのか。
友達のことだったのか。
今となっては、何を話していたのか思い出せない。
私は相槌を打ちながら、
頭の片隅で通知のことを気にしていた。
ちゃんと聞いているつもりだった。
でも、そこに心はなかった。
ふと顔を上げたとき、
子どもの表情が少しだけ変わっていた。
さっきまであった、嬉しそうな色が消えていた。
怒っていたわけではない。
泣いていたわけでもない。
でも母親だから、分かってしまう。
その小さな変化に気づいた瞬間、
胸の奥が静かに冷たくなった。
私は何のために、こんなに頑張っているんだろう。
家族のために始めたはずだった。
子どものそばにいたくて、
家族の時間を大切にしたくて、
この働き方を選んだはずだった。
それなのに、
家族と一緒にいる時間の中まで、
私は仕事に追われていた。
必要だったのは、もっと頑張ることではありませんでした
あの頃の私は、
結果が出ない理由を全部、
自分の努力不足だと思っていました。
もっと学ばなきゃ。
もっと発信しなきゃ。
もっと頑張らなきゃ。
でも今なら分かります。
私に必要だったのは、
もうひとつ新しいノウハウを足すことではありませんでした。
スマホから少し目を離して、
焦りの中で薄くなっていた自分の感覚を、
取り戻す時間だったのです。
そのきっかけになったのが、
真夜中のアトリエから届いた5日間のお手紙でした。
それは、もっと頑張らせるためのものでも
足りないところを責めるものでも
すぐに売上を伸ばすためのテクニックでもありません。
少し立ち止まって、
「私は本当は、どんな時間を守りたかったんだろう」と、
思い出すためのお手紙でした。
毎日スマホに張りつかなくても。
家族時間を削らなくても。
自分の言葉まで薄めなくても。
必要な人から、
「お願いしたい」と言われる働き方は、ちゃんとあります。
もし今、
子どものそばにいるはずなのに、
心だけがずっと仕事に追われているなら。
その焦りを少しほどくための、
5日間のお手紙をここに置いておきます。
胸がざわついて眠れないどなたかの夜が
少しだけ、静かになりますように。





