朝の通勤ルートに
ちょっとした昔ながらの長屋がある。
そんな長屋を歩いていると、玄関先に置いてある鉢植えの赤い花に水をやるお婆さんの姿があった。
「あら…おはよう」
お婆さんは俺が通るたびに明るくそう声をかけた。
「…おはようございます」
そして俺は、そんなお婆さんとは対称的に、朝の眠気と今日もまた仕事だと思うストレスのようなものから冴えない表情で素っ気なくそう返した。
するとお婆さんは、猫の額ほどの玄関前に置かれている鉢植えの小さな赤い花を優しく見つめながらこう話した。
「顔色はね…
変わるのではなく
変えるものなの。
良いことがあったから笑顔になるんじゃなく…
笑顔にするから良いことがあるの。
このお花はね…
赤くなったのではなく
自分で赤くしたのよ。
だからね、あなたも…
幸せになりたいなら笑顔でいることよ。
幸せじゃないから笑顔になれないなんて間違いよ。
笑顔にしないから幸せにならないの。
そう…顔色は変えるものよ」
数日後、この長屋にお婆さんの姿はなかった。
近所の人の話しでは、施設に引き取られたとのこと。
俺は肩を落としながら茫然とお婆さんの家の玄関先に目をやった。
するとそこには、あの赤い花が鉢植えではなく土に植えられて、優しい風に靡いていた。
きっとお婆さんが通り行くものに、いつまでも笑顔を忘れるなとメッセージを残したのであろう…。
お婆さん…
今日も笑顔を作ります。
だからお婆さんも…
笑顔でいてね。