何て声をかければいいでしょうか
相手の心にまっすぐ届く「励ましの言葉」
私は以前、月に一度、ある販売店で、ホスピタリティ研修の講師を務めたことがあります。
全6回で、半年間の研修でした。
社員のみなさんは、とても熱心に私の話を聞いてくださいましたが、その中に気がかりなN子さんがいました。
彼女は、とても素敵な女性なのですが、どうしてか、なかなか笑顔を見せてくれなかったのです。
みなさんに「笑顔になってもらう」のも私の仕事のひとつです。
彼女がときおり、小さく微笑むたび、「今の笑顔で、疲れが取れた」「今の笑顔に癒された」「今の笑顔、すごくよかった」とほめるように心がけました。
すると、半年後、最後の研修が終わったときに、N子さんが、こんな話を打ち明けてくれました。
「工藤先生、ありがとうございます。工藤先生にほめていただいたおかげで、笑うことが好きになりました。それまでは、笑うことが嫌いだったんです」
なぜ彼女は、「笑うこと」が嫌いになったのでしょうか?
なぜ笑顔を見せなくなったのでしょうか?
言葉には、受け取る側を傷つけてしまう力がある
それは、N子さんの母親の「悪意のないひと言」が原因でした。
N子さんは、「子どものころ、お母さんから、あなたの笑顔は招き猫に似ているわね、といわれたことがあって、それ以来、鏡に映る自分の笑い顔が招き猫に見えたんです。それが嫌で」と打ち明けてくださいました。
招き猫は、「商売繁盛」などの幸せを招く縁起物です。
お母さんがN子さんの笑顔を招き猫にたとえたのは、欠点を取り上げようとしたからではありません。
むしろ、娘の福相をほめたかったのだと思います。
ですが結果的に、お母さんの何気ないひと言が、残念ながら、N子さんを苦しめてしまったことになります。
言葉には、受け取る側を傷つけてしまう力があります。
言葉には、相手を励まし、幸せにする力もある
一方で、相手を励まし、幸せにする力もあります。
N子さんは、言葉の力によって傷つき、そして、言葉の力によって、自信を取り戻しました。
みなさんのひと言が、相手を一生支えることがあります。
ホスピタリティ講師として駆け出しのころ、大手企業が主催するセミナー講師を担当したことがあります。
ところが、当時の私は登壇経験が少なく、実績も乏しかったため、セミナー前、緊張して、鼓動が高まっていました。
励ましの言葉に救われる人は多い
そんな私を救ってくれたのが、人事部長のYさんです。
Yさんは、以前、私の講座を見終わったとき、こんなひと言をかけてくださいました。
「工藤さんは、100人にひとりの講師ですね。まるで、研修業界のイチローです!」
私を勇気づける「お世辞」だとわかってはいますが、それでも私は、Yさんの力強い言葉に支えられました。
私はYさんから、「一生涯、その人を支える言葉」をいただいたのです。
「話を聞くよ」という気持ちを伝える
落ち込んでいる時は、自分の中で整理して、話ができるようになるまでに時間がかかります。
「話せるようになったら声をかけてね」「いつでも話を聞くよ」など、まずは、話を聞く準備ができている、という旨だけを伝えておきましょう。
「分かってあげたい」という気持ちを伝える
自分のことのように辛さを理解したいと思っている、ということを率直に伝えるのも良いでしょう。
「辛いよね」「気持ちを分かってあげられたらいいのに」
安易に「分かる」といった断定する言葉はいわず、「分かってあげたい」という願望の気持ちを伝えましょう。
他人の心を救い、支える言葉を使っていきたいですね。