_こんな夜は君に会いたくなる。
煌びやかな世界では
アルコールの匂いと聞き心地の良い音楽と
汚い大人なんて、当たり前。
正直なところ人付き合いにも疲れる。
それよりなにより、
…溜まる。
『…はぁ、』
数年前までなら適当にそこら辺の女を連れ込んでは離し、連れ込んでは離しの繰り返しなんて余裕だった。
でも最近はそうはいかない。
人気が出始めた以上、スキャンダルなんて御法度なのだ。
健「臣ちゃん変わったなぁ〜」
直「全然女遊びしなくなって〜」
やっぱり人気ボーカルともなると気をつけるようになるんだね、なんて言われるくらい。
確かにそうなのかもしれない。
アーティストとして、誇りを持とうとか自然に思い始めていたのかもしれない。
けど、
『…あいつのせいだろ…』
彼女の顔が、頭から離れないんだ…
___
____
1年前___。
あの日は確か、むしゃくしゃしてて疲れてて、
ツアーを控えているからと禁酒していたにもかかわらず、
こぢんまりとしたBARの隅で、1人飲んでいた。
時刻はまだ0時を回ってなかったことを、鮮明に覚えている。
___なぜかって?
君がまるで、
〝シンデレラ〟だったから。___
『はぁ、もう辞めてぇ…』
この頃は自分に襲いかかるプレッシャーがダイレクトに伝わったきてて、
不安に押しつぶされそうだった。
グラスに注がれていた酒を一気に飲みほし、
そろそろ店を出ようと立ち上がった時だった。
ふとBARの中にある小さなステージに目を移すと、
細身の真っ赤なドレスを身にまとった女が、ピアノを弾いていた。
『…っ、』
一目惚れ、とはこのことか。
彼女がこちらを向いて視線がぶつかる。
その瞳に魅了されたのだ、俺は。
彼女が弾き終わるのをそのまま立ち尽くして観ていて。
弾き終わった彼女は瞬く間に俺の腕を引いて、
店の二階へと俺を連れて行った。
そこには真っ黒なベットがポツンと置いてあるとても広い部屋があり、
シャンデリアがキラキラと全体を照らしていた。
○「ねぇ…」
彼女の細い腕が、俺の頬を触る。
『……』
これはきっと夢だ。
忙しい俺に、神様がくれた夢だ。
訳のわからない理由をつけて、
会って間もない彼女を抱いた。
○「…っはぁ、」
『…くっ、…』
彼女はとても慣れた仕草でおれの肩に腕をまわす。
煌びやかな世界も、
慣れてしまえば普通の世界。
バラ色な幸せな世界なんて、もう感じない。
だからこの瞬間だけでも、
せめて俺に………
『…愛してるって言えよ…』
○「…え?」
2人とも果てたベットで、思わず呟やいてしまった。
『あ、わり、なんでもない…』
○「ふふ、ねぇ、もう0時だよ…?」
『え…あ、うん。』
彼女の問う意味がよく分からなくて曖昧な相槌を打つ。
○「…シンデレラってね、0時で魔法が解けちゃうの。」
スルッとベットから抜け出し、
○「だからシンデレラは、急いでお城から飛び出して」
また真っ赤なドレスに身を包む。
○「ガラスの靴を、片方落としてしまう。」
その瞬間、彼女は俺に何かをフッ、と投げた。
片手でキャッチしたものは、
『指輪…?』
視線を彼女の方に戻したら
『…嘘だろ…』
彼女はもうそこにはいなかった…
___
_____
あれからずっと、俺の頭から彼女が離れない。
あのBARにも何回か足を運んでいるが、彼女に会うことはなかった。
『…これにピッタリハマる女を見つけろってか』
彼女が残していった指輪はまだ俺の手の中。
小さなサイズの指輪は、なかなか細い指でなければ入らない。
また今日も、あのBARに足を運んでしまった。
あの日と同じように、
BARの隅であの日と同じ酒を頼んで…
あの日と同じように、
0時を回らない時間に酒を飲み干した…
『やっぱり、会えねぇか…』
空になったグラスの中に、カランとその指輪を入れ、
店を出ようとした、
その時…
〝諦めちゃうの?王子様?〟
背後から聞こえてくるのは、
一年前に聞いた、
シンデレラの声。
ゆっくりと振り向くと、
そこには、一年前と同じ、真っ赤なドレス…
ではなくて、
水色のワンピースを身にまとった彼女だった。
『…だいぶ探したんだけどな、シンデレラさん。』
グラスから指輪をカランと取り出して、
彼女の細い指にぴったりとはまった。
『やっと見つけた…』
思わず抱きしめ、彼女の顔を見つめた。
彼女は微笑んでこう言った。
○「私ね、○○…」
『○○…』
思わず抱きしめ、
『俺は、登坂広臣。』
○「広臣…」
『…もうぜってぇ、離さねぇ。』
__さぁ、夢の続きを始めようか。
end.
