何も私は見ていない、体のなかのざわざわとしたものに気づかないふりをしつつ、玄関に放り出されたままのスーツケースを抱え、ランドリーに入る。
乱雑に洗濯機の中に放り込み、ボタンを押し呆けたように水がもったいないくらいの勢いで注がれかき回されている中を見ていた。
今日は土曜日だった。
呆けた中でも何か救いを求めるように考えていたのか、そのことに気がついて慌ててスーツケース同様、玄関に放りおかれたままのバッグを取り上げる。
ただ慌ててバッグの中を弄り、ipodのイヤホンが絡み電車の中でマナーモードに切り替えたままの携帯電話を引っ張り出し、荒っぽく絡みついたそれを根元から抜き取り再びバッグの中に放り込む。
思ったとおりそれはメール着信を知らせる七色のイルミネーションが点滅している。
再び私の中に、小さくだけれども盛り上がった昂ぶりを押えるつもりで、ため息のような浅い深呼吸を一つ吸い込んでから、宛ら祈りのようなものを込めて送信主を確認する。
そっけなく、さして興味もないのであろうと相手に思わせるしか用を成さぬような、短いメール。
いつも通りそれがおかしいものでもないのに、先ほどの出来事を加味して私は憔悴してしまう。
あの人はあれが消え去ってしまったことはもちろん、私がこの季節を楽しみに待っていたことさえも知らないのだから、我ながら理不尽な話でしかない。私はあの人に何も伝えない。その場の感想くらいは伝えることはあるけれども。
お返しとばかりにそっけないレスポンスを、悔しいことに長い時間をかけて送る。
このことだけに救いを求めるのもしゃくだと思い直し、先程の洗濯物を干して買い物に行って、と考え行動に移す暇もなく全て否定するように着信音が鳴り響く。
あの切り倒されていた、桜の幹のように柔らかいところが少しもないごつごつした無骨なあの人からだ。
一瞬のどくっとする心臓の鼓動を飲み込みながら、通話ボタンをすんなりと私は押してしまう。いつものことだ。