「…」




「何だ、友樹人に言えないじゃん」



私は溜め息を吐いた。




「悪かったな!」



「あぁもう!暴力反対!」



「なんもしてねぇよ!」




「あれぇ?前みたいに殴りかからないのー?」




綾希がいたずらっぽく笑う。




「うっせぇ!」




「ぼーうーりょーくー反対だってば!」




懐かしいなぁこの台詞。一番最初の方に、友樹が殴りかかってきたときに言った言葉だ。


でも最近になってからは、そういう事も全くなくなってきた。


3人、皆仲良くなってきてるのかもしれないね。



少し、嬉しかったりそうじゃなかったり。



複雑だ。




「で?どうすんの?結局」




「綾希は?金持ってないの?」



「えー?せいぜい駄菓子屋さんで『う●い棒』1000本(税抜き)買えるぐらいしか持ってないよ」



「はぁ?!1000×10=10000!!一万円も持ってんの?!」




「いけるよ!十分OKだよ!一泊ぐらい!」




「えぇぇー…もっと他のところで使おうと思ってたのにー」




綾希が駄々をこね、友樹と私は鼻から二酸化炭素を排出した。




「………う……」




ゆっくりと私は起き上がった。



やっぱりこれは大幅に体力を消耗する…。




「おぉーい?大丈夫かお二人?」



綾希はやはり相変わらず元気ハツラツ。




「大丈夫なわけねぇだろうがよぉ…。」



友樹が頭を抑えながら言った。




「ついでにねみぃ。どうにかしてくれよもう…」



そう付け加えもする。よっぽどだなこりゃ。





「全く。注文多いなぁ、友樹はー」



綾希は腕を組みながら辺りをぶらぶらする。



「ねぇ綾希…。どうすんの?てか、どこで寝んの?」





「えー??えーっとぉ…」




「おいまさか…」




「のっ、野宿は嫌だよ?!」




「えぇー…。っとー…ね?ご希望に答えられなくてごめんなさい?」




綾希が苦笑いをして言った。





「そんなぁー…。困るよー…。」






「ハンモックは用意してあげるから!」




「金は?!持ってねぇのかよ?!」






「そういう友樹と雅は?金、あるの?」





「昨日お小遣い日だったから、いくらかあるよ。先月も全く使わなかったから…6000円ぐらい入ってると思うけど」




私はそう言って財布をポケットから取り出した。




「オレ?オレは…。」





「ゼロ?」




綾希がさらりと言う。

「そっちからしなきゃ撃たないよ」



綾希はにっと歯を見せて笑った。




「行こう、そろそろ夕方になるし、人間の世界に戻らないと」



「了解。」




友樹がパンパンと制服に付いた埃を掃った。


それを見た綾希が、あっ、と言って



「そういえば服も渡さなきゃね。ゴメンゴメン、動きにくかったでしょ?」




「?そうでもねぇけど」



「でも返り血とか浴びると困るよね、クリーニングするときどう誤魔化せばいいか分かんないし」




「でしょ?向こうに行ったらあげるから。しばらく我慢してね」




そして、再び長老の方を向くと、



「ありがとう!また来るからぁ!」



そう言って小さく手を振った。




「敬語を使え」




呆れ気味に長老は言う。




「ドンマイ!それじゃ、行くよー」





またあの時みたいに体力一気に消耗するのか…。辛ッ…。


「カウントダウン!10、9、8、7、6、…」


 

そんな事を思っているうちに、綾希がカウントダウンを始める。




「ハイ3、2、1!!」



ぐわぁぁ!と風が巻き起こり、下ろしていた髪の毛が口元にくっ付く。















一瞬、私の視界から全ての物が消え、真っ暗になった。








「はぁ?」



思わず声を出す。


そんな事、私は一つも知らなかった。





「ちょっ…。待て?待てよ?オレは今までそんな事、一つも聞かされてねぇぞ?」




友樹も眉間に皺を寄せながら言った。一重の眼が険しくなる。



「綾希は?何か知ってんの?」




私は綾希に問う。綾希も足元を見て、じっと考え込んでいる。



2.3秒ほどすると、ばっと綾希が顔を上げた。




「私も知らない。でも、おかしいよ?偶然じゃないと思うのは私だけ?」




「な、何が?」





「だって私が人を石にしたとき、友樹と雅だけ残ってたじゃん…。最初、私の力に気付いていたからなのかなぁー…って思ってたけど。もしかしたら違う理由だからかもしれないじゃん」





「そうか?」



友樹が言う。



「オレ、自覚なかったけどさ」




「そりゃぁ誰だって自覚はないだろうけど…」




綾希が口ごもった。





「待って。今そんな事気にしてもしょうがないじゃん。またそれはこう…ヒント的なものが見つかったら考えよう?今は、今できることをするしかない」


私は言った。これは正直な気持ちだ。





長老が口を再び開いた。




「では、そのヒントなる物を探すが良い。残念ながら、もう彼らは一昨日帰ってしまったから、また今度来てくれ。今度は襲撃しないでほしいがな」

「暇、だったから?!お前ら、単に暇だったから撃ったり協力しようとしたりしているのか?」




「それ以外に何があんの?勉強はつまんないし、家に居てもどうせすることないし。こっちでサバイバルっぽいことやってる方が、よっぽど楽しいよー」




「………」





「友樹も雅もそうでしょー?暇じゃなかったら断って、自分の世界で自分しか動いてない世界を満喫できたのにさ、ついてきたのは暇だったからでしょ?」





そういえばそうだ。確かに、私が此処に来て何をしても私のメリットになりはしない。でも、なんでだか行かなきゃなんかなんか…こう…うん。なんかなりそうだったから。

多分、私一人だけじゃ喋る相手もいないし、単に暇だったから。


そういう理由になるだろう。




「私も、暇だったから…かなぁ」



「そうだな。ここに来てもメリットはねぇけど、向こうに居ても暇なだけだし。」



友樹も同意した。




「でしょ?」



綾希が笑う。キャーキャー騒いでる女子の笑い方じゃなくて、少し無邪気な笑い方。私もああいう風に笑えたらなぁ…ってたまに思う。





「だから、言いなさい。さっさと言え」




やっぱりどんどん言葉が悪くなっていく…。






「…人間だ」




「はぃぃ?」




「ここに人間は入れないという規則になっている。でも…3人。3人だけ…ここに1週間に1度、入ってくる奴らがいる。そうだ、貴様らに似ていた…」




そう言って、長老は私たちを見回した。




「一人は男。そこの『雅』だったかな。まぁ、キミに似ていたよ。とても。もう一人は女だ。そいつは『友樹』…。まぁキミだろう。最後は子供だ。まだとても小さい。3.4歳ぐらいじゃないか?『綾希』。キミに似ているんだ」




端から順々に指を指していきながら言った。




「しかし…?」



「この世界に、青い鳥が1羽舞っているという噂が、急に流れ始めた。なぜかは分からぬ。しかも、それを見るのは決まって人間の子供だ。18歳以下ぐらいの子供…。そうだ、お前らぐらいの子供が一番多いと聞いている。」



「その青い鳥は、何か害を加えているのですか?」




「分からないが、ほんの少しだけ残っている、薄い青…。いわば『水色』だ。その水色さえも全くといて良いほど無いのに、池の青緑や、薄い紫からなんかも少しずつ奪っていっている。だから、『緑』や『紫』さえも消えかかっているのだよ…」




「……」



私たちは黙ってしまった。これ以上、なにも言う事はない。


しかし、友樹が口を開いた。




「最後に、オレからもう一つだけ、訊きます。長老、貴方はどこからその情報を掴んだのですか?この状態からして人間と交流があるとは思えませんが」



「……」



長老は黙っている。




「長老、訊いたことは全て答えてくれる約束でしたよね?」




私は長老に言った。しかし、それでも答えようとしない。




「長老!おいバカメ!」



綾希の言葉が悪くなってきた。




「…お前らは…」



絞り出すような声で長老は言った。



「お前らは、いったい何をしようというのだ?この世界から青が無くなっても、お前らに支障は無いはずだ。なぜそこまでする?」




「…そうだなぁ。」



綾希は数秒考え、にっと笑いながらこう言った。




「暇だったから、かな?」

「お前らか、我の部下を襲撃したのは」



「ぴんぽーん!だって、会わせてくれないんだもんさー」



「そぉそぉ。怪我したくなかったら、長老に会わせろって言ったのに。」




「そうだな。己から怪我したようなモンだろ」




「口を慎め、人間よ。お前らには色々と迷惑を掛けさせられた」



「じゃぁ、口は慎むよ。でも、私たちの質問に正直に答えること。そして、それにかかわることはすべて洗いざらい吐くこと。私たち3人でできないことだったら、協力してくれること。守れる?」



綾希が言う。




「…ふむ。分かった。その条件、呑もう。」




「ありがとうございます、長老」



私が言った。友樹も頭を下げる。



「じゃぁ、まず1つ目の質問をさせていただきます。長老、あなたはこの世界に青色があったことを知っていますか?」



綾希が訊いた。長老は2,3度頷き、



「あぁ、知っている。まだ我が50歳ぐらいだったな。その頃は、空はいつでも青く澄んでいて、人間共は青いものをたくさん身に着けておった。」




「では、何故この世界から青色が消え去ったのか、分かりますか?詳しいと助かります」



「悪いが詳しくは知らぬ。でも少しなら分かるぞ。青色が消えたのは、昔の政府から、今の政府に変わったからだと聞いている。その政府の人間の一人が、何故だか分からないが、いつもキャンバスと青色の絵の具のチューブ一つを所持していたという。」



「ありがとうございます。では2つ目。何故青色なんですか?赤でも黄色でもいいのではないかと思われますが」



「…鳥だ。」



「はい?」



「お前達は、青い色をした羽を持つ鳥の御伽話を知っているか?」




「あ、知ってます。有名ですよね、作者は忘れましたが」



「子供とかによく読み聞かせる絵本式になってる物語。オレも知ってますけど」



「もちろんあのような綺麗な青色をした鳥など、この世界には存在せぬ。お前らの世界には居るのかもしれないがな。だが、少なくともこの世界には存在しないのだ。しかし…」

「え…えっと…」



「あ?何だ?黙って指咥えて見てただけってなのか?」


綾希が言う。



「ち、ちが…」


「じゃぁ何で戦闘に加わらなかった?」



友樹も亀五郎にたたみかける。




「………」



「まぁ問いかけはそこまでにして…長老がお待ちだ。いくぞ」



「『いくぞ?』ブッぱなされてぇの?」



チラリ。コンコン。友樹が亀に銃を見せつけながら指の関節の骨で叩いた。



「ひぃ!すみません!!」




「と、友樹、やりすぎじゃ…」


私が言うと、



「雅は甘すぎんの。生きてらんねぇよ、その調子じゃ。優しすぎるんだ、敵に」



「そ、そぉ?」



「とにかく行こうぜ?」



「じゃぁ私弁慶の泣き所見張ってる。何かやらかしたらそこ蹴り飛ばす」



「おぉ、いいなそれ!」



「それで倒れなかったら、腿をパーンっ…てやるアレ。アレやったら一発だよ」



「雅、よく知ってるね…」




「い、いきましょう!長老の気がかわらぬうちに!」



「へいへい。」



「わーったよ、案内しろ」



「さっさとねー。」




この後、何が起こるのかは私に分からなかった。




当たり前と言っちゃ当たり前だけど。




でも、この長老が何をしでかすか、後で驚くことになる。



「装填準備OK?」



「OK。そっちは?」



「大丈夫だ。火薬の方は?」



「OK。」



「了解。すべての道具に予備はあるか?」



「ある。なくなったら私のを分けるから、いつでも言って」



「分かった。さんきゅ」



雅が銃の練習をしたことがあるというのは予想外だった。

でも、オレ的には似合っていると思う。


前オレの拳をよけたあたりから、こいつは何か特別なことをしているなとは思っていた。


しかし、それが銃だとは…。





ばばばばばばばば!



そんな事を考えている間に、オレの銃はリズミカルな音をずっと立てていた。


ちらっと雅の方に目をやる。


う、うまい…。



オレよりうまいんじゃね?銃…。



もの凄い圧力をオレは受けた気がした。



「ローディング開始!」


オレは叫んだ。すかさず雅は援助してくれる。



「さんきゅ!助かった!」



「大丈夫ッ!」