夕やけが終わりを告げ、日が暮れ始めた。
夜のはじまり。いつもなら街灯が白く照らしているが、今日はなんとなく暗い。
今、川沿いの土手道を歩いている。手に自転車のハンドル。自転車はギコギコうるさい。
人はほとんどいない。前にも後ろにも誰もいない。あるのは雨の気配だけ。
とにかく歩いた。最近は運動不足だが、歩くのは好きだ。だから歩ける。
右足、左足、右あし、左あし、右、左、、、、
歩き方を考えていると、少しヘンな気分になる。呼吸を意識したときと一緒だ。
あ
何かを踏んでしまった。
なんだろう。少し硬いけど、柔らかい気もする。一瞬だと分からない。
それは、一直線に転がり、下り坂を駆けていく。
丸いものか?金属製?硬貨?
違う。指輪だ。
指輪といえば、学生の頃、バイトして貯めて買ったことがある。
ダイヤ、ルビー、サファイヤ、トップにはそんなもの、何もついていない。
誰に言われた訳でもなく、誰に勧められた訳でもなく、ただ、自分で自分に買ってあげた指輪。
どこで買ったっけな、と思い出す前に、それを見つけた。
手に取り、目を近づけて、まじまじと見つめる。
暗くて見えない。
あの、街灯が明るく照らすベンチまで行ってみよう。
指輪には、「With the spring breeze」と筆記体で彫ってあった。
顔を上げ、目線を高くする。
辺りは静寂と夜風に包まれていた。
ふと、急に風が目の前を通った気がした。突風。
花びらが舞い、少しだけ目を閉じた。
すぐ目を開けた。
そこには、ほんの少しだけ、散った花びらの白い桜の木があった。
きれい。うつくしい。ビューティフル。
月並みな感想しか浮かばないが、まぁいいか。
いつもよりちょっとだけ、暖かい、そんな優しい風だと思う。