序章 記憶


毎日の幸せが永遠に続くと、私は思っていた。

退屈とも言える様なありふれた毎日。



愛する存在がいて、娘やパートナー、家族との何の不安もない生活。


誰もがこの退屈な幸せが永遠に続くと、信じていると思う。


人は恐怖に遭遇しないと、理解もしない。

この顔は誰?


あの頃の私だ。


できるなら、あの頃に戻りたい。


あの様な恐怖に出逢う前に。

忘れたくても脳裏に焼き付く、あの記憶を消し去りたい。


始まりはありふれたことだった。


隣に隣人が引っ越して来た。

どこにでもある様な集合住宅。賃貸マンション。


居なくなる人も、引っ越してくる人もいて当然だ。


何気ない挨拶。


隣人は若い男性で、中年に差し掛かった私には息子の様な年でもある。


あの時は何の不安も感じていなかった。