「ジャマイカに行きたいんですよ!」
と言ったのは、80歳の私ではなく、私の母がお世話になっている介護施設で、働いている若者である。
訊けば31歳だと言う。
母の所に通い始めて数か月が経つが、彼は理学療法士で、入所している人たちの身体のケアを仕事としていることから、彼の作業中のフロアを横切るたびに挨拶をすることから親しくなっていった。
明るくて、人懐っこいこともあってか、親しみやすく、ついつい声を掛けたくなってしまう。
マスクを掛けていることから顔の様相は想像すらできなかったが、今日、初めて「○○さん、互いにマスクを外して挨拶をしましょうよ」と、婆さん根性の厚かましさで、到頭、隠されたマスクから下にかけての、「お顔」を互いに披露することになった。
人間的に丸みのある穏やかな話し方で、誰にも好かれるであろうと予測していた通り、マスクを外したその笑顔は思った通りの彼だった。
私は中国語が好きなことから、時に悪戯半分で私の名前を相手に伝えるとき、中国語の発音で伝えることがある。
すると、彼が
「へえ~、中国語なんだあ。俺はジャマイカに行きたいんですよ」と、突然言い出した。
続けて、「レゲエです。あの、ジャンスカ、ジャンスカという区切りのいいリズム感の…」と彼の眼が輝いて見える。
カリブ海に浮かぶ小さな国…という表現で聞かれるジャマイカ。
彼と、このレゲエとはどのような繋がりがあって、キッカケが何だったのか?
これは是非、訊いてみたい気がして、気持ちが急いたが、彼の作業の邪魔になるといけないので、以降のお楽しみということで、その場を離れた。