早くに両親を亡くした私を 引き取ってくれた親族は、
10歳にもなると 大きな街の娼館に売り飛ばした。
それまでの生活においても、自分らの子供に手一杯だったし、
お金のかかる お荷物はさっさと放してしまいたかったのは、
自分が邪魔者だという事は、子供ながらに感じていた。
昔から冷めた性格であったせいか、恨みも覚えなかった。
商品には まだまだなれない私を、娼館の女将は優しくしてくれたし、
先輩である姉さん達も よく面倒を見てくれた。
こっちの日々の方が人に迷惑をかけない分、ずっと気楽で良かったから、
早く一人前になろうと頑張っていた。
{・・・・・・・・オルカ?}
{そうっ!海賊なんだけどね、たまにうちに寄ってくれるのっ!
そこの男達は そこらへんの奴らと違って、本物の海賊よ。
弱い者からは略奪せず、貧しい国へ 名乗らず寄付して、街を再興してくれるの!
しかもね、イイ男ばっかりなのよっ!}
いつもの掃除が終わり、ドレスの支度の手伝いをしていると、
姉さん達が 騒いでそんな事を言う。
おかげで 開店時間が早まり、昼間っから女を買うなんて
どんな奴らかと思ったけど、店に入ってきた男達は 確かに整った顔をしていた。
{女将、いつも突然ですまんの。}
{いーや、海賊オルカが来るっていうなら、この「ルクール」開けない訳にはいかないね。
今日は楽しんでいっておくれ。}
長い三角の帽子を取った男は、それを聞いて にっこりと微笑んだ。
鋭い目と薄い唇。短いエメラルドグリーンの髪を立てていて、一際目立っていた。
{さぁ、じゃ宴を始めようかの。}
その後ろから出てきた男に、姉さん達の歓声が更に上がる。
{船長~~!!今日は、私にしてっ!!}
{ダメよっ!!船長は私よっ!!}
いつもなら 自分からも行かない姉さん達も混ざって、船長と呼ばれる男を取り囲んでいた。
珍しいなと思いながら、定位置である2階へへ続く階段で その風景を眺めていた。
年月は経ち、随分と仕事は慣れたが、16歳になる来年までは客を取れない。
こうして見て覚えての勉強として、いつも此処に座っていた。
(テクニックも何も・・・・・あれは本気で言ってるなぁ・・・・・・。
これじゃ、今夜は見てても仕方無いかな・・・・・?)
ため息混じりに やり取りを見ていると、船長と呼ばれる男がこちらを見た。
目が合った瞬間、なぜか胸を打たれるような衝撃が身体を走る。
オニキスのような黒髪の長い前髪から見える、大きな目。
輝く瞳は 見た事も無い海のように澄んでいる。
肩幅もあっていい体つきをしているのに、中性的な色気のある人。
男の人と視線を絡ませて、すぐに逸らしてしまったのは、それが初めてだった。
娼婦は目を逸らしてはいけない。
自分という武器を全て使い、虜にするのだ。
熱を持ち始める身体を抱き、その場から逃げるように去った。
次の朝、海賊達は街を出て行った。
姉さん達は 名残惜しそうに見送り、娼館にはいつもの日々が訪れる。
貴族が金を払って女を買う、そしてそれ相応に身体を売っていく。
商売というものが。