俺の中に、ずっと気になっている奴がいる。
”にっくん”――そう呼んでいた。
小学校の頃の彼は、まさにガキ大将そのものだった。
足が速くて、ドッジボールでは鬼のようなボールを投げ、いつも喧嘩していた。
にっくんの飛び蹴りは天下無敵。俺もマネして練習したくらいだ。
中学校は、まるでビーバップハイスクールの世界。
剃り込み、リーゼント、ボンタンに長ラン。
時代がツッパリを求めていた。
当然、俺は思っていた。
「にっくんは絶対、ヤンキーのナンバーワンになる」って。
でも彼は、そんな期待を裏切るように、
丸坊主に標準の学ラン、そして白いジャガーシグマ(ちょっとダサい)。
さらに驚いたのは、野球部に入部したことだった。
少年野球の経験もなく、完全な初心者。
しかもその野球部は、不良たちのたまり場でもあった。
にっくんは小学校で暴れていた分、上級生に目をつけられ、いじめの標的になった。
いつブチ切れて、あの飛び蹴りが炸裂するか。
俺はドキドキしていた。
けれど、にっくんは一度も反撃しなかった。
練習もさせてもらえず、一日中玉拾いとグラウンドを黙って走り続けていた。
誰よりも、ひたむきに、静かに。。。
気づけば彼は、駅伝の選手になり、野球でもチームの中心になっていた。
あの「暴れん坊」は、鮮やかに自分を超えていった。
そして、学校一のワルと呼ばれた男が、優秀な進学校へ合格していった。
まるで、ロケットが大気圏を突き抜けて、新しい世界へ飛び出していくようだった。
その後、にっくんに会ったことはない。
噂も聞かない。
けれど、俺の中では今も、彼はヒーローのままだ。
暴力でも、反発でもなく、努力と静かな誇りで世界を変えていった少年。
あの頃のガキ大将が教えてくれた。
①本当の強さは、やり返すことじゃない。自分を信じて、やり続けることだ。
②どんな逆境の中でも、自分を信じて、その痛みさえも、パワーに変えていくこと。
③人はどこからでも、生まれ変われる。
過去さえも、走り出した瞬間から希望に変わる。
40年前のにっくんが、いまも俺の心を、まっすぐに走らせている。